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すてきなあなたに

1946年に衣裳研究所として始まり、現在まで『暮しの手帖』を軸にすてきな暮らしの提案してきた暮しの手帖社。
その初代社長である大橋鎭子が綴ったエッセイをまとめた本で、1969〜1974年までのものが収録されている。

戦後の復興から高度経済成長期へと進む時代の片隅で、市井の日常のちょとした出来事に目を向けている。起こることは小さなことでも生活の知恵やどんな感情が生まれたか、日々のメモのような印象である。

気に入った話をいくつか紹介する。


〈ポットに一つ あなたに一つ〉
一番最初に掲載されているエッセイで、紅茶の楽しみ方を教えてくれる。

紅茶はたいへん、たのしい飲みものだとおもいます。

ポットに茶葉を何杯入れるか、牛乳の注ぎ方、レモンと熱いお茶の関係など読んでいると確かに工夫しだいで色々楽しめそうである。
ティーバッグで電気ポットからお湯を注いで終了、なんて飲み方をしている自分がちょっと恥ずかしくなる。そろそろ冬も近いしこれを参考にして温かい紅茶を楽しみたい。

〈ちいさな冒険〉
新潟への気まま一人旅の話。
荷物少なく身軽にひょいっと特急に乗り、車窓から見える雪国の景色の変化に驚く。地物の魚を味わってお土産を買ったらその日のうちにまた列車で帰る。せわしない日常からちょっと離れて心を癒す旅の良さを感じる。
自分も一人旅好きで数日かけて県外へ出かけることもあるが、県内でも少し遠い場所に日帰り旅をするのも楽しいんだよなと思い出した。旅はいい。

旅を終えたとき、自分がやさしい気持ちをとりもどしていたらその旅は成功だったのです。


〈ロンドンのアパートで〉
小さい子ども用のソックスをキーホルダーにするという素敵なアイデア。
身の回りにあるものは創造力でおもしろい使い方ができる、そんなことを示してくれた。
短い文章だが、この一瞬でとても明るい気持ちになれたであろうことが伝わってくる。こういう出会いこそ暮らしの幸せなんじゃないだろうか。

〈ふたりのひと〉
人混みの中で自分はよく人の服装を見ている。好みの系統だったり、色の組み合わせだったりはたまたヘアスタイルだったり。世の中には色んなおしゃれがあって、どんな格好が好きでもいいじゃないかと思える。
ペアでいる人たちならば、どんな関係なんだろうとか今日は何の予定があるのかなと勝手に想像してしまうこともある。
直接に関係することはなくても人は人からいつも刺激を受けている。

〈お手をどうぞ〉
見知らぬ人に「手を貸してください」と言われたらどうするだろうか。また、見知らぬ人に「手を貸してください」と自分はお願いできるだろうか。
困っている人には手を差しのべて自分が困った時は助けを求めることは大切だと知っているけれど、なかなか実行できない場面もあるものだ。
誰もが気負いせずお互いさまで行動できる、そんな日常になったら素敵だと思う。


掲載されているエッセイは文章が長いもの短いもの、内容も食やファッション・人との触れ合いなどどれも違っていて楽しく読める。
どこから読んでもいいし好きな話は何度も読み返したくなる。
大橋と花森が志した、ありふれた豊かな暮しがこの本にはあった。


出典:『[ポケット版] すてきなあなたに01 ポットに一つ あなたに一つ』
   暮しの手帖社

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