愛しきラッキーな日とスペシャルデイ
完璧ないちにち、というものがある。
たとえば、子ども時代の記憶の中の夏休み。
まだ涼しい時間に目が覚めて、宿題を片付けたのち友達と連れ立って市営プールへ自転車を飛ばす。だんだんと暑くなる夏の光をめいいっぱい浴びて、プールで遊んだあとはアイスを食べて小休憩。
ペコペコのお腹で家に帰ったら、夏らしい冷やし中華がお昼ごはん。クーラーの効いた部屋で昼寝して、目覚めたらゆでたてのトウモロコシをかじる。
陽が長い夏の日、午後はまだまだ遊ぶ時間。近所の友達と狭い小道を夕暮れまで走り回る。空が透き通るような水色とオレンジ色と、黄昏時に染まったらヒグラシの鳴き声を背後に「またあしたねー」と別れを告げる。
お隣同士が数十センチしか離れていない密集した住宅街を抜け、走って家に帰る。どこからともなく、カレーの匂いがする。ぐーっと、一日中遊び倒したお腹がなる。きょうの夕飯はなんだろう。カレーだったらいいな。そうして玄関のドアを「ただいまー」と開けたら、ただよってくるカレーの香り。
そんな、ハッピーしかない日。
これは私の完璧ないちにちの思い出だけれど、娘にも、そうした日がある。
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4月の秋休みであるスクールホリデーは、遊び倒した日々だった。
ホリデープログラム(学童)に行けば、仲良しの友達がいて、校庭を走り回ったり、ビーズアイロンを作ったり、遊び放題。
秋休みの間にあったイースター休暇は、お父さんとお母さんと3人で遊べる日。
この休みで、中古のLEGOをどさっと買った。山のようにあるピースから、お気に入りのパーツを探し、シンデレラのお城やアリエルの宝箱に見立てて遊ぶのが楽しかったようだ。
その証拠に、夜は「まだ寝たくない!遊びたい!」と怒り、朝は「もう起きよう!」と早朝6時前に親をたたき起こす始末。寝ている時間が一秒でも惜しい。朝がくるのが待ちきれない。なんてエネルギーにあふれ、素敵なんだと思う。付き合う親は、わりとヘロヘロですけれど。
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イースター休暇の2日目は、とくにスペシャルだった。
朝から、友人を招き、40個のイースターチョコエッグを庭に巻く。イースター恒例の「エッグハント」だ。40個も庭の隅やデッキの端に隠したのだから、30分くらいは遊べるかなと考えていた。
そしたら、猪突猛進でチョコレートを探す5歳児二人は、ものの数分で山盛りのチョコエッグを手にしていた。子どものパワー、あなどれない。
「1個だけだよ」と約束し、丸まるしたチョコレートエッグをかじる。
そのあとは、熱心に新しいLEGOを組み立てる。
午後からは、お友達と一緒に近所のお祭りへ。これがまた、可愛らしいおとぎの世界のようなフェスティバル。メリーゴーランド、フェイスペインティング、バウンシーキャッスル。そして、ふわふわでピンク色の甘いキャンディフロス。
お祭りを堪能したら、併設された公園へ。ここは、かなり遊具が豊富にそろっている。昨年建設されたばかりなので、巨大滑り台や、地面に埋め込まれた円形のトランポリン。ハイジのような長いブランコ。どれもこれも、子供が熱中するものばかり。
ノンストップで2時間。娘は遊具から遊具へと、走り回っていた。最後は、水遊び場でびしょぬれに。日中は暑いとはいえ、もう秋だ。さすがにびしょぬれは風邪をひくからと、やっと退散。
帰宅してお風呂に入ってからも、LEGO遊びは続く。
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なんて盛沢山なんだろう。「今日は、スペシャルデイだね」と夕飯のとき娘に声をかけた。
「ちがうよ」
娘は、首を振る。
「あったかいお風呂に入るのが、スペシャルデイ」
??
どういうことだろう。
よくよく聞くと、娘には二つの「スペシャル」があるらしい。
遊び倒して、甘いものを食べる今日のような日は「ラッキーデイ」
さらにそれに、あったかいお風呂に入るオプションが加わると「スペシャルデイ」になる。
私たちが住むニュージーランドの給湯システムは、ホットウォーターボトルという大きなタンクに電気でお湯を沸かしためておくのが普通だ。そのため、冬場にバスタブにお湯をはると、電気代が跳ね上がる。
なので、我が家の通常のお風呂はシャワーのみ。娘にとって、たくさんのお湯が入ったお風呂はまるでプールのようであり、お風呂に入れる日が加わると最上級の「スペシャルデイ」になる、という話だった。
そうなのか、と心の中で笑ってしまった。
お風呂のお湯は、電気代の節約という意味でけっこう切実な問題だ。気にせずじゃんじゃん使おうものなら、夏場の2.5倍ほどの請求がやってくる。
だから、毎日はできないんだけど。
暖かいお風呂に入るだけで娘の幸せが格上げされるなら、完璧ないちにちのためにお湯をはるのもいいかなあって思った次第。
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