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絵本の世界をまるごと信じちゃうお年頃

現実と物語の、はっきりした境目がなかったのっていつごろまでだろう。

少なくとも、我が家の娘は、まだぼんやりとした境界線をいったりきたりしているみたい。

『りんごかもしれない』『もうぬげない』でおなじみ、ユニークで素敵な絵本をつくるヨシタケシンスケさんの著書に、『あるかしら書店』という本がある。

全編イラストで描かれているけれど、使われている言葉は、絵本よりもちょっと大きい人向けです。

「こんな本、あるかしら?」と尋ねたら、それにまつわる本が出てくる、ちょっと不思議な書店のお話。

月明りで読めるインクで書かれた本、本のなる木の育て方など、どこにもないのにどこかにありそうな本の話が続いている。

寝る前に、ベッドに横になって『あるかしら書店』を読んであげる。かわいいイラストを眺めながら、いつもの日本語とはちょっと違う言葉を、娘はふんふんと聞いている。面白いものは、わからないところがあってもおもしろいらしい。

その最後のページあたりに、「移動する本屋」さんの話が出てくる。その本の店員さんは、耳に本をあてると「その本を作った人のキモチ」が聞こえてくるそうだ。

ちょうどそのページを読んだとき、

「おかあさん、ちょっとまって」

と娘が本を閉じた。

「あれ、もうおしまい?」

ときくと

「まだ読むからね」

と、おもむろに閉じた本に耳をあてる。

これは

まさか

「耳をあててその本を作った人のキモチ」を聞こうとしている……!

神妙な顔つきで、本の声に耳をすます娘。

目を左右にぱちくりさせながら、なにかを必死で聞き取ろうとしている。

邪魔しないように、息をひそめる。

その集中力を乱してはいけない。

ましてや、かわいすぎて笑うなんてもってのほかだ。

噴き出してしまったら、本に書いてあることを真剣に実行している娘の心を傷つけてしまう。

いま、まさに、親としての忍耐力が試されているのだ。

にやにやが抑えきれない口元を、あくびをする振りをして隠しながら、

「・・・・どう?なにか聞こえた?」

と聞いてみた。

「なんにもきこえないよ」

とつまらなそうに、娘は本から耳を離す。

そっか。残念だったね。

私は平静を装いながら本を最後まで読み終え、ぱたんと閉じた。

娘は、「なつみの本もよんで!」と、ヨシタケシンスケさんの別の絵本である『なつみはなんにでもなれる』をリクエストしてきたけれど、今日は遅いからもうおしまい。


こちらの本は、絵本のなかにまるで娘と私のやり取りが描かれているようで、大変楽しい一冊です。

絵本を閉じて数分後、静かな寝息を立てて娘は夢のなかへ。

絵本の世界とこちらをいったりきたり。自由な娘は、今夜はどんな夢をみているのかな。



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