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口説いてるだけなのになぜセクハラ認定されるのか〜ノンケ男性の無邪気な暴力

「ゲイに口説かれて、気持ち悪くて殴って逃げた」と笑いながら話す男の人に過去2回出会った。
ノンケの男性にとっては、恋愛対象ではない相手に、自分の方が性的な目で見られたり口説かれるということは滅多にないことで、驚きと衝撃、そして不快感があっただろう。そのような不快な目に遭ったら、殴り返すのは当然と思っているのを、武勇伝を語るようなその口ぶりから感じた。

あのねえ、と思う。

女性は職場を共にする男性や、すれ違っただけの相手や、エレベーターに乗り合わせた男に、性的な目を向けられ、口説かれ、触られ、セクハラされる。
自分が「若い女」だった頃、喫茶店やバーで一人でいれば声をかけられる、川原でぼんやりしていても露出狂に遭う、家電を買いに行っただけなのに電気屋で店員に連絡先を渡される、間違い電話の相手が「もっと話そうよ」と行ってくる、教習所で送ろうかと言われる、カラオケボックスに知らない男の人が乱入してくる、というような出来事は日常茶飯事で、痴漢やストーカーなどの書くのも悍ましい体験も数限りなくある。
「若い女」であるということは、男の誰もが欲しがる札束を首からぶら下げて歩いているような、無防備で落ち着かない「付随物」だった。
札束目当てに猫撫で声で近寄ってくる者もいれば、いきなりむしり取って行こうとする人間もいる。

そういう時、殴り倒してもいいならどんなに楽だったか!

しかし男性は力も強く、怒らせたり機嫌を損ねたら、こちらが害される危険が多分にある。
相手が職場や学校など、避けがたい環境を共にしている場合、その後の人間関係にも配慮しなければならない。
斯くして、女性は自分に接触してきた恋愛対象外の男性に対し、傷つけないように穏便に優しくお断りする術を身につけて生きて行くしかない。


ゲイ男性を殴り倒してやったと笑顔で語る男に、私は言葉にならない怒りとショックを感じた。

我々がこんなに苦労して、日々自分に向けられる不快な好意に対し、相手を傷つけないように「気持ちは嬉しいが受け取れない」と、わざわざ誠意のラッピングで包みなおしてお返ししているのに、
その上で逆恨みされたり、粘着行為に悩まされる事もあるのに、
そんな意気揚々と、殴り倒してやっただと!?
笑いながら武勇伝を語る口で、その男は私を口説くのだ。
私が今どれほど不快か知りもしないで。

怒りと同時に、好意を表現しただけで殴られてしまったゲイ男性に、どうしようもない悲しみと同情を感じる。
ノンケ男性は、自分が女性に好意を持つことは当たり前に許される事で、自分の恋愛対象外の男性が自分を口説くことは、殴られても仕方ないほど許されない事だと思っている。
何故尊厳を持って、その好意は受け取れないと、ただ誠実に断ることができないのか?
こちらは殴り倒したいのを我慢して、わざとらしいハの字眉を作って、お前の好意をやんわり押し返して差し上げているのに!
そのことに気づきもせずに、無邪気に無神経に、好意を暴力で返したと笑う。
ああ、一度でいいからその顔面を存分に右ストレートで撃ち抜いてみたい。


このノンケ男性の無邪気な暴力性は、フェミニストを激怒させる政治家の女性蔑視発言や、「なんでもセクハラと言われたら女を口説けない」と嘆く職場の上司にも共通した、本能的な情動がある。

動物の雄には出来るだけ広い範囲にタネをばら撒き、自分の子孫を多く残したいという本能がある。
そのため女性に比べると男性の性愛の対象は広く、見知らぬ女性や、好意を持っていない女性でも性行為できるので、女性より浮気の頻度は高いし、男性向け風俗も成立する。
男性は褒められたり好意を向けられると「モテた」と解釈して嬉しくなる。
女性に「素敵ね」「かっこいいね」と言われれば、今まで意識していなかった相手でも、気になるようになり、好きになってしまう事もある。
恋に落ちやすく、性欲も強く、子孫繁栄のために一瞬で交配モードになることができる。

無邪気な男性はきっと女性も同じだろうと考える。
「かわいいね」「エロいね」と声をかければ、好意を意識して自分を好きになってくれるかもしれないと考える。

しかし女性は、自分の恋愛対象外からのを好意を「モテた」のではなく「被害」と解釈する。
異性愛者の女性は、多くの男性を恋愛対象にしているわけではなく、恋愛感情を持ったり、セックスしてもいいと思える相手は限られる。
雌は妊娠や子育てに多大なリスクとコストがかかるため、出来るだけ良い遺伝子を持った雄を希望する。
自分が希望しない相手からの好意は害意にも等しく、そのような雄からは直ちに身を隠して防御しなければならない。

その本能的な違いから、男性が「口説いた」つもりが、女性から「セクハラ」と解釈されてしまう。

先のノンケ男性は、性愛の対象ではない相手から欲情されるという体験を初めてして、不快でパニックになったのだと思う。
「被害に遭った」と解釈したので、反撃しても構わないと感じてしまったのだ。
自分が獲物認定される世界、それは女性が日常的に生きている世界です。
女性は男性と平和に暮らすために、反撃という手段を日々堪えている。
それをわかって欲しい。
自分の性欲や愛を表現して当然と思うなら、ゲイ男性からの好意も誠実に取り扱って欲しい。

私はフェミニストではないが
この文章に反感を持つ男性にとって、女性は性や愛を向ける「対象物」である。
この文章に共感し理解しようとする男性は、人間としての私の同胞である。

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