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何かと何かをつなぐ欠片

完読時間:2分

ふと何気にみると、おばあさんが自販機で、なにやら右往左往、困った雰囲気である。
一瞬、僕と目が合い、スミマセンと言われた。
僕は、今瞬間におばあさんに気が付きましたよ感を装って、どうしましたか?と聞いた。
すると、どうやら小銭を入れるところに、上手いこと小銭が挟まってしまったようで、おばあさんは肝心のドリンクを買うことができないばかりか、小銭も取り出せず、この場から立ち去れず、途方に暮れていたようだった。
こういうときは、詰まってしまった小銭を、さらに小銭で押せば、たいがいは一件落着なのだが、僕よりも相当に長く生きているはずのおばあさんが、このことを知らない、気が付かないということの不思議さがとても不思議に感じられた。
なんなく小銭は釣り銭が溜まる下のところに落ちてきて、小銭をおばあさんに渡した。
すると、おばあさんはリンゴジュースが欲しいのですと僕に言ってきた。
僕は分かりましたと言って、おばあさんの手のひらから小銭を受け取って、リンゴジュースのボタンを押した。
ガタンとリンゴジュースが下に落ちてきたにもかかわらず、おばあさんは一向に取り出そうとしないので、リンゴジュースを取り出して、おばあさんに渡した。
リンゴジュースを僕から受け取ったおばあさんは、今度はフタを開けることが出来ないようだった。
僕が開けましょうかと聞くと、お願いしますと言うので、キャップを一度開けて、もう一度締め、おばあさんに手渡した。
では、と僕は踵を返した。
2、3秒後に振り返っておばあさんを見ると、僕がフタを固く締めすぎたようで、まだ開けることができない様子だった。
僕は、ジュースのフタを軽く開けて渡してあげた。
そのとき気が付いたのだが、おばあさんは、あまり視力が良くないようだった。
おばあさんは僕に向かって深々と頭を下げて、リンゴジュースを美味しそうに飲んでいた。
その姿は全てが清らかで、微塵の陰りも見当たらなかった。
そして、同時に、心の底から、ものすごく嬉しい気分が湧き上がってきた。
その感情は、しばらくの間、続いた。

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