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最高のセッションを見逃すな 『セッション』2021/10/25の日記

 人の顔から、僕らは全てを理解しえない。結局、顔に表現されている事なんてごく一部で、人間が持つ狂気の深淵や、真の良心のようなものをそこから覗くことは不可能なんだ。厳しすぎる鬼教授フレッチャー(J・K・シモンズ)の顔は、人間の顔の読めなさを語っていた気がした。本作は、そんな鬼教師フレッチャーと、彼がいる名門音大に入学したドラマーのニーマン(マイルズ・テラー)の子弟物語だ。

人の「顔」を描くのが非常に上手い

 何よりも本作は、フレッチャー演じるシモンズの演技が素晴らしいと感じた。フレッチャーは「厳しい」という言葉では表現できないほど、ひどく、辛く、自らのバンドに所属する学生たちに接する。

 しかし、後半でその指導法の根底にあった価値観を、教授を辞職したフレッチャーは町で偶然出会ったニーマンに語る。そこには、「真の天才を生み出す」という決意が見えた。もちろん、ここには賛否は付き纏うと思うけれど、人の本心は全く見透かせないんだなと感じる場面だ。

 この言葉を起点にフレッチャーを思い返すと、時折人間臭い描写をここぞとばかりに散りばめていた。亡くなった生徒を悼んだり、友人の愛娘を可愛がったり、表向きの「鬼教授」という仮面を取ってしまえば、この人も一人の人間なんだと思わせられた。人の仮面、もしくは「顔」を描くのが上手い作品だ。

最後は、最高の「セッション」で

 ラストには9分以上に及ぶ、セッションがある。そこは最高の見せ場で、そして、そこに至るまでの過程まで素晴らしい。最後まで、自らの理念に生きたフレッチャーと、それに応えるニーマン。ぶつかり合った2人の思いが音楽となって溶けていく。そんな最高の9分をぜひとも目撃してほしい。

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