見出し画像

【4711】 214事件 後編

この作品は『シトラスの暗号』から始まる4711シリーズの続編です。よろしければ1作目からどうぞ。

 おにぎりを食べ終わってまだ時間がたっぷりあるので、サブバッグから文庫本を取り出した。
『夜明けのブギーポップ』。ライトノベルとはどういうものかと思って買ってみたら、面白くてハマった。
 8時近くなると、ポツポツとクラスメイトが登校してきた。
「おはよう、皆の衆」と言って笑いながら席に着いたノコちゃんが、突然「何これー!?」と大声を上げた。
「ちょっと、なんで? ナプキン入ってる!」
「何? どうしたの?」と集まる女子たち。
「机に、ナプキン入ってた! あたしのじゃない!」
「えー、マジでー? キモーい」口々に言う女子たち。
 と、今度はルカちゃんが叫んだ。
「やだ、わたしのにも入ってる!」
「嘘っ! マジで!?」
 慌てて自分の机をチェックする女子たち。
 わたしも机に手を突っ込んで探したら……あった。不織布に包まれた生理用ナプキンがひとつ。
「わたしも!」
「あった!」
「やだなんで? 気持ち悪い!」
 そこら中で声が上がる。
「何? ナプキンて?」
 男子が首を突っ込んできた。
「玉三郎はいいからあっち行ってなさい!」
「えー、混ぜてよ」
 畠山くんは女っぽいから玉三郎って呼ばれてるけど、こういう時は男子扱いだ。浩美姐さんに「シッシッ」とやられて不満そう。
「おはよー」と佐智子が入ってきて、わたしの所にやってきた。
「おはよー清香ちゃん。グラマーの」
「それどころじゃないよ、佐智子。机の中見て!」
 佐智子の決まり文句をさえぎってノコちゃん。
「机? ……なんか入ってるー」
 佐智子はナプキンをつまんだ手を高く上げた。
 結局、女子10人全員の机にナプキンがひとつずつ入れられていた。
 男子は興味本位で見るだけで、犯人は皆目見当がつかない。
 女子たちはさんざん「キモい」だの「変態」だの騒いでいたけれど、本鈴が鳴ってようやく静かになった。


 4限、ミス今泉のグラマーが終わって、帰り支度をする。
 当然だけど、ナプキンの犯人はわからなかった。
 バレンタインデーに女子へナプキンのプレゼントって、どういう意味だろう。
 チョコレートもらえない根暗な男子の嫌がらせじゃない? ってノコちゃんは言ったけど、嫌がらせならもっと変なものを入れてもよさそうな気がする。
 たとえば?
 そうねえ、女子が嫌がるって言ったら、カビたパンとか、臭い体操着とか靴下とか?
 それ10人分用意するの大変だよね。
 ナプキンは、見たところ封も開いてないし、特に問題はないようだ。
 みんな気持ち悪がってごみ箱に投げ込んでたけど、せっかくだから持って帰って使わせていただこうかと思う。
 犯人が特定できなくても、うちのクラスの誰かに違いないから、仕返しをしようという話も出た。
「ホワイトデーに男子全員の机にコンドーム入れとくのは?」
 浩美姐さんの提案は、瞬時に却下された。
「あたしたち、その頃はもう卒業してるでしょ!」
「あ、そりゃ失礼!」
 そうか、あとひと月もしないで卒業なんだっけ。
 こんなことがきっかけでそれを思い出したわたしたちだった。


 佐智子は織田先生に手作りのトリュフをあげるんだと言って、ひとりで職員室に行った。
 きっと、真実や美奈、里美もチョコレートを用意してきただろう。
 女子に囲まれている先生を見るのはイヤだし、プレゼントはないし。今日は職員室には近づかないで、このまま帰ることにする。


 この日のナプキン騒動は、226事件をもじって214事件と名付けられ、卒業まで事あるごとに話題になった。
 結局犯人は見つからないままだった。

ご厚意は感謝いたします、が、サポートは必要ありません。がっつり働いております。執筆活動に費用はかかりません。その大切なお金で、あなたの今晩のおかずを1品増やしてくださいませ m(_ _)m