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アイデアオリンピック2020活動記

2020年のアイデアオリンピック活動記録をまとめる。2019年はマガジン化してこまめにnoteを書いていたのだけれど、今年はこんなご時世でオンライン主体の活動、これまでの「電子工作ワークショップやりました!」的な、いかにもな伝えやすい内容が少なかった為、最後に全体を包括することにした。

「そもそも、アイデアオリンピックって何?」という疑問に対しては、以下の記事をご一読いただきたい。私の主観でまとめてある。

とは言いつつも、イベントの内情を語り過ぎるのはアイデアオリンピックの企画委員に対して気が引けるし、細かく全体を書き出すのもなかなか大変なので、ここではあくまで私のチームの活動記録にとどめておこう。

チームビルディング

3月末にアイデアの募集が始まった。応募〆切は5月初旬で募集部門は2つ。「子供が遊べる未来の○○」と「なんでもアイデア」。ちなみに、ここ数年の募集部門は1つ、且つ(いかにも弊社らしく)乗り物縛りだったのだが、今年は「もっと多くの人に参加してほしい」という企画委員の熱い想いから、発想の幅と出場人員を増やすべくこのような形となった。さらに言うと、毎年チームビルドは部署縛りな面があったのだけれど、今年はそこも自由とし、部署を超えたチーム編成を推奨していた。また個人の応募者に対しても、企画委員がチームビルドをサポートしてくれるという優しさがあった。

これらは社内のものづくり文化を加速させる、とても素晴らしい取組みだったのだけれど、逆に昨年、一昨年続いてきたアイデアオリンピックへの学生参画(県内の高校生や大学生と共創する取り組み)が失われてしまい、私にとっては唯一そこだけに悔いが残った。個人的には、部署を超えた活動は直近の「魔改造の夜」番組出演において経験していて、そこまで拘りがなかった為、企画委員を説得し、我々のみ自己負担で学生連携を継続してみることにした。

過去の学生を交えたチームビルディングでは、当然のことながら企画委員が学校や団体にアポを取り、メンバーの募集などを行っていた。しかし、今年はもちろんそれがない為、私個人で諸々の手段を考える必要があった。そこでいくつかの手段を試してみたのだが、やはり個人で動くのにはなかなかのハードルがあって、結局、昨年一緒に活動してきた大学生メンバーを主に置き、その子たちに「一緒にやりたい人」を誘ってもらうことにした。

その結果、昨年一緒に活動した5名+勧誘メンバー3名、計8名の学生と共にものづくりをすることに決めた

ちなみに、結局のところ私は、このアイデアオリンピック2部門ともに出場したのだが、ここでは学生と共創した「子供が遊べる未来の●●」部門に限った話をする。

アイデア創出

コロナ禍であり、学生との活動は全てオンラインだ。2回/月くらいの頻度でZOOMミーティングを開催し、都度工夫しながら活動していった。まずは「子供が遊べる未来の●●」というテーマに従い、みんなでアイデア創出を行った。

■マンダラート

最初にアイデアの発想、発散を目的としマンダラートを作成した。マンダラートは9つのマスを用意し、それを埋めていくことでアイデアを整理・拡大し、思考を深めていくことができる手法。マンダラートという名前は、仏教に登場する曼荼羅(マンダラ)模様に由来する。

発想のテーマは「遊び」と、技術・未来的な要素を期待し「WovenCity」としてみた。オンラインで意見交換するまでの事前課題として、各自でマンダラートを作ってもらった。

マンダラート

■ワードクラウド

全員分のマンダラートから、出現率が高いワードを探るべくワードクラウドを作成した。ワードクラウドとは、出現頻度が高い単語を選び、頻度に応じて大きさや色等を変えて図解する手法のことだ。世間的にはTwitterの分析で見かける機会が多いかもしれない。ここではワードクラウドでもって、遊びとWovenCityに対しての、多くの人が思い描くキーワードを洗い出す。多くの人が思うキーワードほど、アイデアにしたときの理解、社会効果はあるだろうが、独創性や斬新さは薄くなる。

ワードクラウドの作り方だが、マンダラートの記入シートはExcelで作成していた為、VBAで簡易なマクロを作り単語とその頻度を抽出し、Exploratoryで出力した。(ExcelだけでもE2D3アドインを使えばできるのだが、私のExcelはバージョンが古かった為使えず、この手段を取った)

ワードクラウド

■アイデアシート

自身が作成したマンダラートや、このまとめたワードクラウドから自由にキーワードを選択し、アイデアシートを作成。1人2案以上を必須とした。Technology×Playと題して、キーワードは4つ以上を選択させている。ここではキャッチコピーを付けさせることが大きなポイントで、これによりアイデアのアピールポイントが説明しやすくなる。

アイデア

その後、一度ZOOMで意見交換を行い、自分のアイデアのブラッシュアップを図っていった。意見交換においてはメンバー同士の否定的な言葉を禁じ、ポジティブな言葉で行うように統一した。

■プレゼン大会

個々で最終的な推しアイデアを絞り込み、プレゼン大会を実施。ルールは以下の通りだ。

■プレゼン制限時間は3分
■斬新な点を褒めたり、「自分だったらこうする」を意見交換
■投票式でモテアイデアを決め、多かった2案を最終提出

プレゼン1

プレゼン用にアイデアシートを少し変更した。こだわりはTTP("徹底的にパクる"の略)。世の中、全くのパクリでない、ゼロベースの製品やサービスなんて存在しないだろうし、より深い着想性を得る為にも、ベースとなったものを明確化すべく新たに追加した。逆に、TTPを考えたからこそ、自身のアイデアの斬新さを考えるキッカケにもなるはずだ。

■アイデア提出

プレゼン大会の結果、下記2案がモテアイデアとなり、私の方で清書して企画委員へ提出した。人生を駆け抜けろ「青春☆私の一生」バトルモビリティ「MOT」だ。

提出アイデア

実は私、この選考期間が最も緊張していた。「せっかく学生誘ってアイデア創出までやったのに、選ばれなかったらどうしよう!」という不安による緊張感…。結果、無事選ばれたから本当にひと安心だった。

書類選考通過アイデアは、バトルモビリティ「MOT」となった。

要求分析

無事アイデアが採択された為、活動はものづくりフェーズへと移行する。6月初旬のことである。しかし、オンラインでものづくりに参画させるのはとても難しいことだと痛感していた。本音を言うと、夏くらいにはコロナが終息していて、きっと面着でワークショップが行えるようになるだろうと、淡い期待をしていた。私の考えが甘かったのだ。

オンラインでのものづくり、例えば安直に考えるならば、プログラミングはなかなか良さそうに思える。しかし、メンバーの実力値が不透明かつ、たとえ基礎からやったとしても、8人分のコードレビューをやるのはなかなか骨が折れる。改めて少し活動内容を考える時間が欲しかった為、まずは作品仕様を決めるべくオンラインディスカッションをしてみることにした。

アイデア創出でも気づいたのだが、ZOOMだと必然的にスピーカーが絞られる為、やはり一人の意見に耳を傾けやすい。モデレーターがしっかり進行し、適切に話を振れるのであれば、ディスカッションツールとしてとても良い。その特性を活かしながら、Jamboardなど各種Googleクラウドツールも併用しつつ、細かな仕様を決めていった。

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当初のアイデアでは、作品がコマなので直接的な接触を売りにしていたのだが、オンラインでの活動を考慮すると、ハードウェアライクな作品になり過ぎてしまい、ものづくりにおけるメンバーへの役割付与が難しかった。それを解決すべく、今回の作品ではVR連携を試みることにした。作品にVR要素を取り入れることで、オンラインでもゲーム性の検討やキャラ、アイテムを考えることができ、活動に幅が生まれる

例えば以下のように、ゲーム上に出現するアイテムを決めたりすることは、オンラインでも簡単にできた。

アイテム

尚今回、全体のオンライン活動を通して、基本私はモデレーターに徹していたのだが、なんだかとても新鮮だった。やはりモデレーターは中立の立場で意見収集すべきことを考えると、ある程度頭を空っぽにして柔軟性を持ったヒアリングを心掛けなければならない。そうしたときに、如何に普段の自分が偏った思考であるか、思い知らされた気がした。やはり人というのは、心の底では自分の思い通りにしたいもの→自分の意見を通したい。しかし、あえて自己の意見を通さない場というのも、多くの気づきや発見をもたらせてくれるとても大事なものだね。

デザインコンペ

なんだかベタだけど、デザインコンペも実施した。「バトルモビリティMOT」のロゴデザインだ。コマの要素を織り込みながら考える。各々1案描いてきてもらい、Googleフォームで投票しながら決めた。

デザイン

投票で決まったデザインは私の方で清書し、最終的にこのような形となった。子供向けのテーマなことも考慮し、なかなかポップなデザインに仕上がった。

ロゴ

また、VRゴーグルのUI画面のデザインも検討した。ステータスの表示やアイテムの使用方法について。一応、2人乗りで遊べる設定としている。

UIデザイン

3Dモデリング

悩んでいたオンラインでのものづくり参画、そのひとつの答えとして、3Dモデリングを重点視することにした。理由としては、大学でCADを経験したことある子が多かったことと、私がそこそこ3Dモデリング慣れていること。やはり学生はSolidWorksを使っている子が多かったけれど、私がAutodeskライクなのでFusion360に決めた。

Fusion360はクラウドベースなので、作成したモデルの管理が楽だった。プロジェクト内で学生が作り投稿、更新されたデータを、私がいつでも気軽に確認することができる。

また、今まで使用したことがなかったのだけれど、Autodesk Knowledge NetworkのScreencastがとても便利で重宝した。これはいわゆるスクリーンレコーダなのだが、加えてキーストロークやタイムライン上のコマンド履歴を追うことができる、とても便利なアプリケーションだ。例えば「このモデルどう作れば良いの?」という質問に対して、私のモデリング操作履歴をScreencastで共有、指示することができる。是非今後も有効活用したい。

結果、例えばこのようなアイテム、キャラクターが出来上がった。ユニークなものばかりだ。

キャラ

最終的にこれらのモデルはUnityで取り込み、動かすことになる。これも今まで知らなかった事なのだけれど、Fusion360で外観指定した面の色はFBX出力したときに適用されているんだね。今までBlenderZbrushを間に挟んでいたのだが、Fusion360(FBX出力)→Unityでも十分そのまま使用できる。

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ハードウェア開発

さすがにハードウェア開発はオンラインでは厳しかった為、学生は参画せず我々だけで遂行した。また、例年のように会社で遅くまで残って作業するのも、体調不良を招く原因になるかもしれないという私の用心深さから、基礎は自宅で作りこんだ。そうした結果、私の部屋にそこそこ大きなモビリティ筐体が置かれるはめになる…。

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正直、毎年出場しているから筐体設計は手慣れたもので、とても簡単である。ただ、せっかくなので知見を広げたい想いも強くあり、少しは新しい要素を取り入れたりもしている。例えばインホイールモータやモータドライバの種類を変えてみたり、電源周りの回路を見直したり。

また、溶接機が身近にないのと、開発後の廃棄も配慮し、フレームは全てSUSのグリーンフレームを使用している。もちろん強度を考えながら設計する必要はあるものの、100kg程度なら十分に耐えうる筐体が比較的安価に出来上がる。最近はホームセンターにも売ってたりするので嬉しい限りだ。

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ある程度筐体が組み上がったのち、自宅から職場の作業場へモビリティを移動した。車体の幅が家の扉より広かったので搬出に苦労した(笑)。これでようやく部屋が広くなってひと安心だ。会社では昼休みを主とし、地道にメカ組付けや配線加工等を実施。ただ、アイデアオリンピック本番が近づいてきたら例年通り、就業後に残ったり、休日に出てきて作業したりもした。

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ソフトウェア開発

今回の作品では大きく2つある。モビリティ制御とVR(Unity)アプリだ。

■モビリティ制御

ハードウェア開発で前述したように、今回は今までと違うモータドライバを使用した。ODriveというオープンソースのモータドライバだ。2018年あたりから海外で流行り始め、ここ最近は日本でもロボティクス界隈でよく聞くようになってきた。ドキュメントやコミュニティが充実しており、1万円強で買える、とてもオススメのモータドライバだ。

とは言いつつも、きちんと動くかは事前に確認したい。いきなり作品に組み込むわけにもいかないので、まずは要素評価が必須。そこで便利なのが、私が趣味で作ってるアソベルモビリティ群。筋斗雲や甲羅型の小型モビリティへ組み込んで評価してみる。ちなみに、このモビリティ群は元々VESCと呼ばれる、別のモータドライバを使用している。もちろん、このVESCもオススメだ。ハイトルクなモビリティが作りたいならVESC、小型なロボット(4脚ロボット等)が作りたいならODriveというように使い分けたら良いかもしれない。

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また、制御はM5Stackで行うことにした。メインのマイコンボードについても、今まではESP32DevkitCを使っていたのだけれど、やはりM5シリーズは液晶やボタンがついてて便利なので、この機に移行することにした。まずはとりあえず車輪を回してみたが、なかなか簡単にできた。

そして、そのまま筋斗雲型モビリティに組込み、コントローラで自在に操作できるところまでを自宅で確認。とても良い感じだ。

■VR(Unity)アプリ

全体のシステム構成は以下の通りだ。VRゴーグル「VIVE PRO」を用いることで簡易的なモーションキャプチャーを実現し、リアルとバーチャル空間を同期させている。また、M5とUnityをUDP通信で繋ぎ、各種アイテムの使用等、手元のコントローラからゲーム画面へ指令を送れるようにした。

システム

ここでは基本、Unityでひたすらゲームを作りこむ。エフェクトやUI等、社内の若手メンバーで分業しながら行った。近頃のUnityはアセットが充実している為、ゼロベースで開発しなくても良いから楽である。

学生達が作った3Dモデルも、ここでようやくゲームに組み込まれる。以下の画像は相棒キャラクターの選択画面だ。

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こちらはVRゴーグルから見えるUI画面。プレイヤーのアイコン画像はGoogleドライブと同期している。左上には制限時間用のタイマー、右下には取得したアイテムが表示されている。アイテムは手元のコントローラのボタンを押下することで発動できる。

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ちなみに、これは今回の開発経験を踏まえた個人的見解なのだが、ことアイデアオリンピックにおいて、Unity開発は沼だ(笑)。ハッカソン等の短期開発におけるUnity開発はアセット活用等のシンプルなもので十分なのだが、アイデアオリンピックのような、約半年をかける開発において、Unityアプリの仕上がりゴールをどこに置くかが、本当に全く見極めきれなかった。やはり弊社はまだハードウェア的な、いわゆるカラクリ要素が評価されやすい面もあるし、何しろ"アイデア"オリンピックなので、アプリの完成度が審査に直結するかが全く分からないのが怖い。結果、後半はひたすらUnity開発に没頭し、アプリの完成度を上げ続ける沼に入り浸ってしまった…。

動画撮影

10月。コンセプト動画を提出する必要があった為、社内で少人数で撮影した。これがアイデアオリンピックHP用の動画となる。

ここでも昨年のように学生を演者にしたかったのだが、やはりコロナの影響、世の情勢的に大分厳しかった。ただそれだとあまりにも寂しかったので、学生にはナレーションを頼むことにした。動画では8名の学生が順にナレーションを行っている。

WEBわくわくワールド

11月。やはり最終的にオンサイト開催は厳しくて、イベントそのものはオンライン開催となってしまった。既に開催期間は終了したのだが、WEBページは残っているので以下から閲覧することができる。

また個人的に、サイトで動画を閲覧するだけでは物足りなさを感じていたので、clusterによるバーチャル展示にも挑戦してみた。アバターで展示を見て回ることが可能だ。まあ、これもUnity沼のひとつだったわけだが…(笑)。

そして結局、今年のアイデアオリンピックは、審査も、審査員による動画審査となった。審査員はコンセプト動画と、MCの作品体験動画2点を視聴し審査を行った。実はここ数年毎年入賞していたのだが、結果、2020年は残念ながら入賞することができずに終わった。とても悔しかったが、メンバーの様々なアイデア、技術や技能を駆使することで素晴らしい作品が完成し、活動内容としては満足いくものだったと思っている。

まとめ

オンライン主体の活動で、正直不安な点も沢山あったのだが、学生達も活動への満足度は高かったようでとても良かった。学生の中には、今度4月に就職する子もいる。この2年間の活動を経て、自動車業界へ興味を持ち、弊グループ会社への就職を決めてくれた子もいるようで嬉しい限りだ。

しかしながら、これは私自身がとても感じていることなのだけれど、このアイデアオリンピックでのものづくり活動を「綺麗にまとめようとし過ぎてる感」が年々強くなってきているのが最大の反省点。なんだか活動がうまい事進んで、ちゃんとした作品も完成して、そこそこ面白いのだけれど、作品の感動、いわゆるWowが足りていないなと反省。またアイデアオリンピックに限らず、ここ最近、各種コンテストに出す作品にしても(モノボケ的なのは好きだけれど)、私の作品はそこそこ良い感じに、こじんまりとまとめているのが多いなと感じている。

でも、これはもちろん別に悪いことではなくて、ただの方向性の話でもある。安定して確実に活動できているのは、それはそれでとても素晴らしいことだ。ただし、そう解釈したとしても、安定感+α(→Wow)みたいな、さらなる高みは目指したいものだよね。

色々省みた結果、これは私が今のオンライン重視の社会を、そのままオンラインベースのものづくりで捉え過ぎているのがいけないなと感じた。このバトルモビリティ「MOT」についても、安直にVRやゲーム性、安心感重視といった指向が(作品の感動という点では)非常に良くなかった。当初の直接ぶつかり合うアイデアをそのまま踏襲した方が、派手で面白かったかもしれない。他のものづくりにおいても、正直コロナ禍を意識した作品が多い。

ここはいっそのこと、逆に極端なオンサイト指向、派手である意味危うさがあるようなものづくりに回帰する必要があるのかもしれない。オンラインでも楽しめるというのは、そのオマケで十分だ。まずは自分自身が目の前で使って感動しなければ、きっと他人も感動しないだろう。2021年はもっと尖った作品を生みだしていこう。

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