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#3 風邪と映画「八甲田山」で冬を感じる

 風邪をひいた。思えば久しぶりの風邪だ。数年前にコロナ禍となり日々マスクを着けての生活となってから風邪やインフルエンザとは縁遠い生活を送らせていただいていた。しかし昨年の暮れ頃からだったか、マスクを着けなくても外を歩けるようになった。当たり前だろうが世間では風邪が流行り、インフルエンザも流行った。マスクで多少防御していたウイルスの侵入に対して無防備になったのだ。そりゃあ流行るだろう。

 自分の複数ある勤め先でも風邪が流行っている。ちらほらインフルエンザの人もいる。今年の風邪は喉にくるそうだ。私も類に違わず、喉風邪だ。少しの空咳が出るくらいで、案外なんともない。しかしながら身体は不思議だ。喉がイガイガしたり咳がでたり、くしゃみや鼻水がでたりすると途端に全てがしんどく感じる。少しの寒気で熱でもでたかと思ってしまう。あーこのまま熱が出て、仕事を休みたいなぁとばかり考える。しかし事はうまく運ばない。何度測ろうと平熱なのだ。

 風邪の話はほどほどに、先日見に行った映画の話でもしようと思う。その映画こそ「八甲田山」である。場所は池袋にある新文芸坐。「八甲田山」という映画を知る者、ひいては八甲田山で実際に行われた雪中行軍について知っている者はもう多くはないだろうと思う。それを四半世紀をやっと生き延びた自分が知っているのは、八甲田山の麓で生まれ育ったからである。

 幼い頃から八甲田山を眺めて過ごし、冬が近づくとふいに地元のインディーズの映画ばかりを上映する映画館で「八甲田山」の上映が始まる。高校生時分に新田次郎の「八甲田山 死の彷徨」を読んでからはどれだけ気温が低かろうと、吹雪で何も見えなくなろうと、雪中行軍の時に比べたら!と耐え抜く事ができた。しかし映画はこの年になるまで見た事がなかった。地元では上映が一度きりだったりして、なかなか機会に恵まれなかったのだ。

 しかしながら今回、ついにその時が来た!今年から名画座やミニシアターに行くことを趣味にしており、新文芸坐もその一つであった。新文芸坐の公式ツイッター(現X)をフォローしていたのが幸運だった。チケット発売されてすぐにオンラインでチケットを購入し、その日がくるまで指折り数えて楽しみにしていた。

 映画「八甲田山」をご存知だろうか?驚くべきはその長さ、3時間弱にも及ぶ。大半は猛吹雪の八甲田山の中を屈強な軍人が隊を成してひたすら歩く映像が流れる。ただひたすらに。そして時折流れる温かい季節の映像。雪中行軍の者は皆、この苦しい雪中行軍が終わり暖かな春が来ることを想像し、今の寒さに耐えているのだ。

 「八甲田山」を見ると大抵の人は青森の雪深さに怯え、青森なんて住めるところではないと考えるだろう。しかし、私がこの映画で感じたのは、こんなにも素朴で力強く、その地の生活に根付いた青森への愛が溢れる映画は無いということだ。それは、弘前隊の徳島大尉(高倉健が演じている)が自身の育った弘前での情景が走馬灯のように流れるシーンでありありと感じる。

 確かに青森の冬は寒い。八甲田山中でなくともバス停が埋まるほどに雪が降るし、空はいつでもどんより鈍色である。しかし雪が溶けると美しい自然が広がる。夏になればねぶたがあり、至る所でりんごが実る。何も無い。何も無いところに美しさがある。昨今の地方創生型映像作品というのは大抵、田舎でも近代化している、だとか、特産品や伝統工芸品をわざとらしくアピールするものばかりだ。

 映画「八甲田山」にはそれがない。地方のいち田舎で暮らしてきた生活をありのまま映す。その前後で猛吹雪の映像ばかり見ている効果もあるだろうが、穏やかでまさしく『田舎っていいなぁ』と思わせてくれる。これこそが地方創生につながるのでは無いかと思えるのだ。そしてやはり青森は、冬が一番いい季節だ。雪がある。


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