真夜中、枯れた花

すごい好きだった人とお別れ話をしていた夜、その日が一緒に過ごす最後だった夜、あの人に言われた言葉で、わたしはこの人とは恋をすることができないのだとはっきりと分かった。

出会った頃や付き合った当初はお互いのことをまだ全然知らなくて、何をするにも自分の手で縁取りをするかのように慎重に観察しながら様子を伺って距離を詰めていた。

どんな時でも、わたしは"慎重に" "丁寧に" "温かく" が自分の中から抜けなかった。適度に扱うやり方が分からなくて、自分の中にある大切で柔らかいアプローチを取り出しては、いつか届くと信じてあの人と時間を過ごしていた。

一度も曲げることができなくて、曲げ方が分からなくて、曲げてはいけないと思って、曲げてしまいたいと思って、わたしはあの人がいる時間を生きていた。

あの人と一緒に過ごした最後の夜、わたしはあの人に言われた。

「あなたはとっても健気な人だ。健気というか、繊細だ。」

大好きな人に、自分をそう評価してもらえたことがわたしはとても嬉しかった。

と同時に、わたしの中で、わたしとあの人との間に確かな線が引かれたのを感じた。それは、誰かが引いたものではなくて、他の何かが引いたものでもなくて、一体何がかはわたしにも分からないし、それが誰かで、もしくは心であるのかも知れないけれど、分からないけれど、わたしははっきりと、わたし達の間に線が入ったことに気がついた。

わたしはあの人にそう評価してもらいたいわけではなかった。その言葉で、その言葉のように、その言葉と一緒に、わたしは人と愛を紡ぎたかった。放つだけの言葉でいてほしくなかった。わたしとあなたの間で、広がる言葉であってほしかった。

わたしはあの人のことがすきで、とってもすきで、心からすきで、どうしようもなくすきだったけれど、あの人と愛を咲かせることは出来ないのだと、痛いほどに分かった。



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