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"名前のない職業"を名乗る私は、何にでもなれる。

私の父は国家公務員で、母は看護師をしている。
親戚には教師、保育士、歯科衛生士など、なんの仕事をしているのか明確に名前がついている職業の人が多かった。
そんなお硬めな環境で育った私はというと、小さい頃から将来は小説家やエッセイスト、ボーカリストになりたいなど、わりと大人に"夢見がち"分類されそうな夢を抱く子どもだった。

社会人になり、働きに出てからは長いこと通信業界で派遣OLをしていた。本当にやりたいことをやるための資金や、生きがいであるライブに行くための軍資金を稼ぐ。
あくまで、生活と趣味のための仕事。
なんの仕事をしているの?と聞かれたら、「OLです」の4文字で終わる。
もちろん、自分の仕事に誇りを持って働いているOLが世にたくさんいることは承知しているが、私はずっと、心の底で"明確な名前のない職業"にコンプレックスを抱いていたような気がする。

たとえば、国家資格がなければ就けないような職業は、その仕事について膨大な勉強を重ねて専門知識を身につけたことが国に認められたということ。
資格という形で自分の職業を名乗れるのは、とてつもない自信に繋がるんだろうなぁ、と思った。

今、私はライターの仕事をしている。
ライターは、とくに資格がなくても名乗れる職業だ。

ハーブショップスタッフをしながらクラウドソーシングでライターを始めたばかりの頃、「私はいつライターだと名乗れるのだろう」とずっと思っていた。
ファーストキャッシュを受け取れたら?受注数が100を超えたら?運営会社から認定バッジをもらえたら?
結局どれを経験しても、見上げれば遥か上まで人がいて、自信を持って「ライターをやっています」とはなかなか言えなかった。

その後、転職に成功して、今の会社ではライターとして雇ってもらえている。そうなって初めて、躊躇することなく○○でライターをしていますと自己紹介ができるようになった。
会社を辞めて、なんの後ろ盾もなくなったら、私はライターではなくなってしまうのだろうか。個人で書くお仕事を続けても、ライターだと名乗ることに躊躇いを感じてしまうのだろうか。資格のように明確に提示ができるものがないと、国や誰かに「名乗っていいよ」と認めてもらえないと、個人では戦えないと思ってしまうのではないだろうか。

* * *

先月、大好きな人のコンサートに行ってきた。
彼が自分で名乗っている職業は「音楽家」だ。バンドメンバーとしてギターやピアノの演奏のほか、楽曲提供やマニピュレーターというレコーディングやライブ現場でのサポートに関わるお仕事をしている。だから、「ミュージシャン」より「音楽家」の方がしっくりくるかもしれない。彼の紹介のされ方も「マニピュレーターの○○さん」「ギタリストの○○さん」と場所によって様々だったりする。

「音楽家」を名乗るのに、誰かが定めた基準や資格は存在しない。
しかし、彼の活躍ぶりや世界の広げ方は、まさに「音楽家」だと思う。偉そうに言える立場では全くないけど、本当にそう思う。
それはひとえに、プロとして丁寧に一つひとつ仕事をして、自分の仕事に愛情と誇りを持って向き合っているのが分かるからなのだろう。

今の会社で働き始めて1年半。ライターの仕事は楽しい。自分の書いた記事がクライアントの利益に繋がったと実感した瞬間のやりがいは何にも代えがたいものがあるし、またあなたに頼みたいと言って頂けた日には泣いちまう。
しかし、仕事もある程度慣れてきたこの頃、どうしてもこなさなければならないタスクに日々追われ、書くことがある種のルーティンになってしまっているのも事実だった。

このままでは、私はまたライターを名乗ることに迷い始めてしまうかもしれない。
自分の世界を広げるため、愛情と誇りを持ってライターを続けるため、腹を決めて去年末あたりから業務委託メインで応募や営業を始めてみた。久々に見たお祈りメールの数々に激へこみしたが、あるWeb集客事業を行う企業さまとご縁を頂けることになった。
面談をして、契約書を交わして、書面に書かれた自分の名前を見て、ブワーッと頬が熱くなった。会社を通じてではなく、私個人の契約。これからお役に立てるよう、成果を出せるよう精進していかなければ…!
そして改めて気を引き締め直して、今の会社で与えてもらえている目の前の仕事も、全力で取り組もう。

この出来事をきっかけとして、少しだけ自信がついたのか、以前から趣味だったキャンドル作りを本格的に始めてみることにした。今までは自宅に飾ったりお友達にプレゼントするくらいだったけれど、ハンドメイドブランドとして育てていきたいと思っている。
そのためには自己流ではなく、キャンドル作りもビジネスもしっかりと勉強する必要があるので、オンラインサロンへの加入とキャンドルレッスンの申し込みをした。この新しい世界が広がる感覚、わくわくして大好き。

方向性はまだ探り探りではあるけれど、活動名を変え、「ライター&キャンドルアーティスト」の肩書きを足した。(キャンドルアーティストは民間資格はあるが、ないからといって名乗っていけないわけではない)
キャンドルに関しては完全に趣味だったし、ファーストキャッシュどころかブランド名すら決めていない。それでも、先に名乗ることで覚悟が決まるだろうという目論見もあった。
プロフィールのお手入れもして、好きなものが詰まっていてお気に入りだ。

明確な名前のない職業を仕事にする私は、きっとその時その時で名乗る肩書きを変えていくのだろうと思う。
そんな自由さを前にして、"誰かに決められない職業の自分は、何にでもなれるのだ"と気づいた。

誰かが定めた資格や基準に振り回されず、私は私の仕事に愛情を持って向き合い、これからも"自分が思う職業"を名乗っていきたい。

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