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[連載短編小説]『ドァーター』第十二章

※この小説は第十一章です。第一章からご一読されますと、よりこの作品を楽しむことができます。ぜひお読みください!『ドァーター』のマガジンのリンクはこちらです↓((一章ずつが短く、読みやすいのでぜひ!

第十二章 抱きしめて

 選べるわけがない。
 娘を見殺しにすれば、街の1352万の人命が助かる。逆に、街を見捨てれば、娘を救うことができる。
 どうすればいいんだ。また、僕は何もしないでのうのうと生き残るのか?
 僕はあの日のことを思い出した。妻を失ったあの日、僕はただ見ているだけで、誰も傷つけられなかった。それが何よりも、誰かを傷つけることだったというのに。でも、もうあの時の僕ではない。行動しろ。そう思って、一葉の毒がなんらかの方法で撒かれるまで残り10日に、乙枝へ会いに行った。
 
「どうして来たの」乙枝に一葉の犯行について話した上で、彼女は機嫌が悪そうに言った。
 僕は乙枝を選ぶべきだと思う。愛する人を守ることなら、誰も僕を咎めないと思ったからだ。だから僕は彼女を救うために戦う。
 しかし、しばらく沈黙が続くと乙枝から予想外の発言が返ってくるのだった。
「助けなんかいらない、どうして来たのよ!」乙枝はズンズンと押し寄せてきて、鋭い目で言った。「今すぐ私を殺して!妹を殺してしまった私に生きる意味なんてもうないの!」乙枝から悲痛な叫びが聞こえた。そして乙枝の瞳から涙がポツリポツリと落ちていった。
「乙枝を守りたかったんだ」
「守る?」一瞬の沈黙の後、彼女は大きな声を荒げてこう言った。「は?何一つ守れてないじゃない、とっくの昔から私はパパなんかに守られる存在なんかじゃないのよ!今更親ズラしないでよ!」
 またしばらく周りだけが静かで、頭の中の声だけがうるさく聞こえた。すると、乙枝は乱れた髪を垂れ下げ、ふらふらとスマホをとりに行って突拍子も無いことを言った。「そうだ、あんたが今までしてきた罪を街の人たちに公表すればいいんだ」乙枝は不気味に笑った。「だって、いいでしょ?ずっと罰が欲しかったんでしょ?一葉からよく聞いてるよ、昔のあんたのこと。それが全世界に公表されたらどうなるだろうね」乙枝はニヤついた。「街の人たちに解毒薬も渡せなくなって、パパはまた何もできない自分に苦しむんだろうな」乙枝は狂ったように、スマホを打った。
「待て!待ってくれ」僕は焦って、乙枝を突き飛ばし、スマホを奪い取った。すると、またケタケタと不気味に笑い出した。「”あー、そっか、本当は罰が怖いんだ?」
 僕はズキンと胸を抉られるような感覚に陥った。
「パパは、本当に臆病だな。私を助ける理由も、罪から少しでも逃れるためだったんじゃないの?一番簡単な方法だもんね。楽して人殺せて、罪をなくせるもんね」
「ちが、」乙枝は唇を震わせ後退りしながら、「なんてー?」とふざけて言った。「違う、違う」僕は乙枝の言葉を遮るように、聞こえないように繰り返し言った。そして、彼女は凄まじく鋭い刃物のような声で言った。
「違うなら、どうしてママは死んだのよ」乙枝はがっかりしたような目で僕を見た。「違うなら、パパはママを守れたでしょ?薬を奪い合う肉塊に混ざることぐらいやったでしょ!」乙枝は立ち上がって、震える体を僕にぶつけた。「そんなこともできなかったパパがどうして私を助けにくるんだよ!全部パパのエゴがめちゃくちゃにしたんだ。本当に守りたいなら、罪を無くしたいなら、自分の身を殺してでも守らなくちゃいけないモノを、ちゃんと見極めて守りきれよ!」乙枝は泣き叫んだ。そして、「どうしてよ」そう呟きながら、力尽きるまで僕を叩いた。僕は思い知る。乙枝もただ耐えられなくなって、寂しかっただけなんだ。だとしたら、僕は最後ぐらい、自分の気持ちを守ってあげようと思えた、そして僕は初めて乙枝を抱きしめた。

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続ける!毎日掌編小説。38/365..

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