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アトピー、唇に出る。

 

「出るんです、出るんです、大人は よく」

 どうにも痒くて受診した新しい皮膚科でのこと。いたって簡潔に先生は仰った。体中に出ていた他の発疹はこの3ヶ月で治っていたが、唇が毎日毎日ひどく痒かった。日々、乾燥したように荒れては、いかにも薄く、ナイーブそうな新しい唇が出てきて、間も無く荒涼とし、地割れを起こす、を繰り返していた。アトピーとはてっきり顔や首、お腹や背中、腕や脚、つまり唇以外に出るものだと思っていたから、まさかこの原因がアトピーだとは夢にも思わなかった。私の中のアトピーはそれ以外の出口を塞がれて唯一残された唇から懸命に外へ出ようとしているかのようだったのである。
 思い返せば、私の唇はよく荒れていた。けれどまめにリップクリームを塗るような習慣を持たなかったために、荒れる度、「今度こそ、きちんとリップクリームを使おう」と形ばかりの反省をしてきたのであった。その間も5年に1度くらいのペースで私の顔にはアトピーのような発疹が出てはなんとか治めてきた。ずっと、唇アトピーは続いていたのかなぁ。就寝前、唇に塗る、これまでの想像を絶するほどだが指導された多量の軟膏をチューブから出しつつ、考える。

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