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インド料理のこと2-2 How to Make a National Cuisine/Arjun Appaduraiを読んで

前回の続きです。
なぜ料理本から国民的な料理がつくられるのかをといった関係性をみていくために、まず料理本とは何かということを考えていきましょう。

料理本とは
料理本は、料理をつくるためのマニュアルでもありますが、食べ物の説明、調理方法、食事方法なども書かれています。また料理に関する伝承を伝えたり、料理をつくるためにキッチンに何が必要かされ教えてくれます。

料理本導入後の変化:前近代と現代
前近代の料理は、家族や村などの共同体で伝えられるものであり、異なる地域や民族間で共有や同化は起きにくいものでした。
また、料理のレシピ(つくりかた)を言語が違う集団に伝えることも困難でした。しかし、英語で書かれた料理本は、言葉の境界がなくなることで、多くの地域や民族の料理がインドの料理として知られるようになりました。

料理本に記されたインドの料理
料理本を介して、インドの料理が包括されて、他国の料理と比較されるような「いわゆるインド的な料理」がつくられる過程を考えていきます。

・料理本の大きな3つの分類

1.地域・民族料理に基づく料理本:
例)チェッティナード料理、コンカン・サラスワット料理などを取り上げた料理本

2.主食・副菜などのカテゴリーを導入した料理本:
さまざまな地域・民族料理を米、パン(小麦粉、米、レンズ豆をベースにしたものも含まれる)、豆の料理、野菜の料理、スナック、ピクルスやチャツネ、飲料に分類した本です。著者はこの分類をインド料理の構造モデルとよんでいます。
この分類によって地域的・民族的な料理のレシピを収集しカテゴリーに当てはめ、紹介することができるようになりました。また、これらの料理本では料理を組み合わせたメニューが考案されていますが、従来インドでは祝祭以外でメニューという考え方はあまりなかったようです。

3.カレーあるいはベジタリアン料理としてインド料理を並べた料理本:
カレーという分類を基にしてスリランカ、タイ、インドネシアなどの料理とインド料理が並べられた料理本や中東や極東などのさまざまなベジタリアン料理とインドのベジタリアン料理が並べられた料理本。

その他に料理を地域・民族とは異なるカテゴリーに当てはめた例として以下のような料理本があるといいます。

・特別な読者に向けた料理本:例)働く女性・独身者など様々な読者を対象とする料理本
・特別な種類の料理を扱う料理本:例)チャツネ・ピックルなど特定の食品カテゴリーを扱った料理本

料理本からみた国民的な料理の形成プロセスを考える
私は国民的な料理とは、ある国で料理が一般化されることと考えます。
1の料理本では料理は地域的・民族的な食文化と結びついた形で紹介されています。そのため、インド全体で一般的な料理でないことは明らかでしょう。
2の料理本では、料理を主食や副菜などカテゴリーに分類しています。料理を組み合わせたメニューという考え方も含めて、インド料理に新たな基準が設けられたと考えられます。これらの料理が一般化されるのであれば、パンとしてのインド料理であったり、野菜料理としてのインド料理の形で、料理がカテゴリーの下におさまり一般化される可能性を想定します。
3の料理本ではカレーやベジタリアンといったカテゴリーの中で、インド料理が世界の料理と並べられています。地域・民族はもとよりインドの範疇を越えて、世界のベジタリアン料理としてのインド料理が描かれています。
また他の国の料理も本来は、地域・民族的な料理かもしれませんが、読者には、ある国のベジタリアン料理レシピとして理解されてしまうでしょう。しかし、民族・地域を越えてある国の料理として一般化しているため、国民的な料理と言えるのではないでしょうか。

最後に、3で取り上げたカレー・ベジタリアンの料理本の内容をchatGPTに尋ねてみました。インド料理が違和感なく一般化されていてびっくりしました。

chatGPTが考える架空のカレー料理本
この料理本では、カレーを基にして、スリランカ、タイ、インドネシアなどの料理とインド料理が収録されています。カレーは、スパイスやハーブを使った濃厚なソースで、肉や野菜などを煮込んで作られる料理であることから、これらの国々の多くの料理にも共通する要素として取り上げられています。
スリランカの料理には、カレーやロティ、ホッパーと呼ばれる米粉のクレープなどが含まれています。タイの料理には、トムヤムクンやグリーンカレー、パッタイと呼ばれる炒め麺などが含まれています。また、インドネシアの料理には、ナシゴレンやミーゴレンなどの炒め飯や麺料理、サテやルンダンといった串焼き料理が含まれています。
さらに、インドの料理には、バターチキンカレーやチャナマサラ、ビリヤニなどの多彩なカレー料理が含まれています。また、タンドールで焼いたナンやロティ、サモサやパクラなどのスナック類も紹介されています。
それぞれの国の料理は、独自のスパイスや調味料、食材を使い、独自の味わいを持っています。この料理本では、それぞれの国の特徴を生かした料理を紹介しており、幅広い料理のバリエーションを楽しむことができます。

chatGPTが考える架空のベジタリアン料理本
この料理本には、中東や極東などの様々なベジタリアン料理とインドのベジタリアン料理が収録されています。中東料理には、フムスやババガヌーシなどの前菜、ファルファルやシシュタウクなどのメインディッシュが含まれています。また、極東料理には、豆腐料理や春巻きなどが含まれています。一方、インドのベジタリアン料理には、ダールやカレー、ナンやチャパティなどが含まれています。また、スパイスやハーブの使い方についても紹介されています。これらの料理は、様々な味わいや食感を楽しめるだけでなく、健康的な食生活にも貢献します。

以上、料理本から国民的な料理がつくられる過程でした。
読んでいただきありがとうございました。

続く

参考文献
Appadurai, A. 1988 How to Make a National Cuisine: Cookbooks in Contemporary India. Comparative Studies in Society and History Vol. 30(1), pp. 3-24. Cambridge University Press.


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