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逝ってしまった友人と、それに向き合って学んだこと

先日、長年闘病していた友人が逝ってしまった。
覚悟はしていたけれど、ぽっかりと穴が開いたようだ。
昨年一時帰国した際に通話したのが、しっかり話をした最後になってしまった。ヨーロッパ行きたいなあ、と言っていたのに。
今年に入って友人たちがお見舞いに行った際に、ビデオ通話で繋いでくれたりもしたけれど、その頃にはもう、あまり話せないような状態になっていた。

いつも明るい友人だけれど、子供たちを残して逝ってしまうのが一番の心残りだったろうと思う。そんな彼女の心を思うと、胸が張り裂けそうになる。

私が子供の頃に母を亡くしていたこともあり、彼女の病気が判明した頃、「申し訳ないけれど、お母様に何をしてほしかったかを教えてほしい」というメールが来た。暫く考えたけれど、当時の気持ちは思い出せないので、今になって思いつくこととして、もっと料理を教えてほしかったとか、声をもう覚えていないので、声を録音したものがあったらよかったとか、そんなことを伝えた。

そして病状がかなり悪化して、同級生の友人グループで、彼女やご家族を応援しようといろいろと考えている際に、一人の友人から聞かれた。

「今、お子さんたちがどういう気持ちだと思う?私たちに何ができるかな?あなたの経験から何かアドバイスがほしい」

大人になるということは、それだけ日々の経験を重ねていくことだ。
同時に、自分だけではなく、周囲の人たちも年を重ねていき、祖父母も親もだんだんと年をとり、出来ないことが増えていき、「老い」を感じるようになる。
そして、死というものをなんとなく感じ、理解していくのではないかと思う。

普通なら、そうやって親の老いや弱さをゆっくりと感じていくものだが、病気の場合には、年齢は関係ない。
子供にしてみたら、親は絶対の存在で、自分より上で、力があるものだと信じていて、パワーバランスが逆転することなんて、想像だにできないだろう。まだまだ元気な年代の筈の母親が、急にどんどんと力を失っていく姿を、毎日目の当たりにしなければならないのだ。
それは、大人にとっても厳しい現実だと思うが、ましてや多感な時期の子供たちには、到底受け止めきれないようなことだと思う。
そこを、わかってあげたらいいのではないか。
そんなことを伝えた。

私は子供たちとは数回会った程度で、しかも物心もつかないような頃も含んでいるため、子供たちの性格などはよくわからない。でも、ここ数年で私が自分の奥底に隠してきていた感情を見つけてしまっていたので、それも伝えようと思った。

母を喪ったとき、とても悲しかった。
でも、世の中にそんな人たちはたくさんいる、自分だけではない。他にもっと大変な思いをしている人たちだっている。
そんな風に自分に思い込ませることで、私自身の悲しさ、辛さを見ないようにしていたのだ。そうしなければ、悲しすぎて生きていけなかったから。
何十年も経った今になって、やっとそれに気付くことが出来たのだ。

だから、願わくば、遺された子供たちが、私のように気持ちを閉じ込めず、素直に感情を表し、悲しみに浸ってほしいと思った。
そして、子供の友人ではなく、親以外の大人の力が欲しいときには、私たち、お母さんのお友達がみんなあなたたちのことを見守っている、いつでも喜んで助けになる、心はいつも寄り添っているよ、ということを知っていてもらえたらと思う。

この話をしたときに、電話の向こうで友人は号泣していた。
当時、力になってあげられなくて、ごめんね、と。
でもそんな彼女だって、当時は小学生だったのだ。私が自分自身でも気付かなかったことに、気付ける筈がない。
でも、大人になった今だからこそ、私たちが少しでもできることがあるのなら。
その思いが、子供たちへの役に立つのなら、と思う。

無理して、大人にならなくて良いのだ。
大丈夫なふりなんて、しなくてよい。
子供でも、大人でも。

自分自身の隠していた感情を見つけた後に、友人が死を目前にしているということで、改めていろいろな面から自分を見つめなおし、子供のときの自分にどうすればよかったのかを考えさせられた。
周りの友人たちからは、辛いことを思い出させてしまってごめん、と謝られたが、私にとっては、それもまた良い機会だったと思える。そうでもなければ、なかなか向き合えないような感情だから。

そして、友人を気遣う周りの友人たちとの遣り取りを通しても、いい友人がいることに改めて感謝した。
私同様に海外在住の友人が、遠隔でも奔走してくれた。
彼女の最期の直前の話を聞いて、ちょっと笑ってしまうようなことがあったのだけれど、私たちが悲しいばかりにならないように、そうやって彼女が笑わせてくれたんだね、と友人と話した。

まだまだ悲しみは残っているけれど、こうやっていろいろなことを考えさせられたおかげで、とても穏やかな感情でいられる。
それも、彼女のおかげなんだろう。

ありがとう。
どうぞ安らかに。 

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