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マティス展の話

※自分の備忘録的に書いたらめちゃ長くなってしまったので飛ばし飛ばし読んでもらってOKです汗

アイデアが出ないときは考えるのを一旦やめるのがいい。
全く別のことに集中する。
つまり、美術館に行くに限る。

ということで外出先での仕事を早めに切り上げて、こちらへ。

梅雨の晴れ間、青空が良い感じ。

マティスって結構いろんな企画展にぽこぽこでてくるけど、単体でこの規模の展示は初めてらしい。これは期待大。

しかし今回はポンピドゥセンターの所蔵作品が中心とのことで、マティスと言えば!な"ダンス"の展示は無いらしい。私もマティスと聞いて一番初めに思い浮かべるのはダンスだ。MoMAが貸してくれんかったの?笑
でも今回は「それ以外」をたくさん観ることができたので、マティスという画家の魅力に触れるにはかえって良かったのかもなーと感じた。

1.フォーヴィスムに向かって 1895-1909

時代によって作風がくるくると変わるマティスだけど、どれを取っても色の使い方が印象的。
何気ない風景でも、この人の目にはこんなふうに見えているのか。と感心。

最初にガツンと来るのは "豪奢、静寂、逸楽"(1904)
この頃は「色彩とデッサンが衝突する」という問題に取り組んでいたらしい。

撮影NGフロアの作品も伝えたいこの思いを「ポストカードを撮る」という手法で表現w


線を色で表して、色で線を塗っているような。全体を点描で描いた虹のような色使いが夢の中みたいで本当に綺麗で、見た瞬間頭の中がぱぁーっと明るくなった。

2.ラディカルな探求の時代 1914-18

順を追って見ていくと、作風がどんどん変化していることがよくわかる。
第一次世界大戦の時代、「マティスにとっては作ることが戦線であった」という試行錯誤の跡がよく見て取れた。近代美術史を全部ひとりでやってる感じ。すげーな。
意外にも絵を始めたのは21歳なんだと。
1896年に初めて作品が国家買い上げになったが、1902年には貧困で一家揃って一回実家に帰ってたり。後に認められるんだけど。
長生きしたって言うのもあるけど、人生の後半の活躍っぷりがすごい。
死ぬまで製作に力を注ぎ続けていたのね。(ベッドの中から長い棒?を使って壁に描いてる写真は胸熱。)

3.並行する探究 彫刻と絵画 1913-30

彫刻⇔絵画を行ったり来たりしているのも面白い。 つまり、感覚の整理
私は2Dを3Dにしていくことが仕事でもあるので、この感覚はなんとなくわかる。
同じモチーフを何回も作っていて、最初はとても写実的なものが回を重ねていくごとにカクカクしてデフォルメされていく様子が面白い!
"背中I〜Ⅳ"(1909〜1930)は、
「輪郭が背景に吸収されないギリギリの境界線」を探っていたことが手に取るように分かる。
不正確に描写しても対象人物の本質は失われない」ことを証明してる!

4.人物と室内 1918-29

部屋の中に人がいる絵は、家具や洋服のディテールを観察するのも楽しい。
へなへなした線のさらっと描いたデッサンも、丸っとした人物の形や物の輪郭が的確にとらえられててさすが。マティスっぽ〜い。

裏紙にメモったみたいなデッサン


5.広がりと実験 1930-37

"夢"(1935)  お気に入りのポーズ

"座るバラ色の裸婦"(1935-36)、"トルコ風肘掛け椅子に座るリゼット"(1931)
下絵がほんのり見えたり、何回も描き直した残像がオバケみたいになってる。


的確な線でさらっと描いちゃうのよね~

6.ニースからヴァンスへ 1938-48

色彩の魔術師と呼ばれるマティスの色使いに関しては部屋をモチーフにした作品が興味深い。果物や植物、花瓶、、私の好きな雰囲気。
実際マティスも植物好きで、アトリエが植物園のようになっていたこともあるみたい。

"緑色の大理石のテーブルと静物"(1941) 何度も繰り返し描いていたモチーフ。 病気のあと、目の調子を一定に保つ「音叉のようなもの」だったらしい。
"マグノリアのある静物"(1941)
"黄色と青の室内"(1946)
"赤の大きな室内"(1948)  この辺りはパキッとした原色で色の印象が強くて生き生きしてる。

"金魚鉢のある室内"(1914)の青っぽい部屋。
確かにこんなふうに見えることもあるなと思うけど。
たまに室内にいるときに光の入り方でとんでもなく美しい色の空間になるときがあるじゃん。そういうときに「うわ、綺麗…!」ってなって思わずスマホで写真撮っちゃったりするけど、それじゃそこまで感動するようなのは撮れないじゃん?(腕の問題ももちろんあるだろうけど)
そういうときにこれを絵に描く才能と技術を持っていれば…!ってぐぬぬとなるわけよ。
これをできるのが画家なんだよなー。羨ましすぎる。

7.切り絵と最晩年の作品 1931-54

ここが一番好きだったし、代表作!って感じ。
術後の不自由な身体でも手軽に出来たのが切り絵だったのかも。絵を描く、彫刻、色をつける、という流れを全部できる、切り絵という手法を見つけた時、これだ!って思ったんだろうな~


"オセアニア、空"(1946)"オセアニア、海(1946) リネン生地に切り絵のモチーフを転写してプリントした壁掛け(でかい)。限定30枚のうちの一枚。
「1903年のタヒチ旅行の記憶が蘇ってきた」

芸術雑誌ヴェルヴの表紙 切り絵の表紙がめちゃくちゃ可愛い。このハートのポストカード買ってる人多かったな。わかる。

当時のマティス展のカタログの表紙もモダンでオシャレ〜だった!
オレンジ、黄、緑、青!色の組み合わせなんかがとても良い。色の割合のバランスが絶妙なんだよな。

"ジャズ"(1947)
「赤は赤のまま、青は青のまま、それぞれの楽器を鳴らすジャズのように」
全20点、頭の中で題名当てクイズをしながら観た(笑)。ワカメ!って思ったやつは大体"礁湖"だったわ。でも"カウボーイ"はなんとなく当たった!

"運命"(版画シリーズ《ジャズ》より 1947)

絵と切り絵をMIXしたのも素敵だった。
"オレンジのあるヌード"(1953)  後からペタっと貼り付けた切り絵のオレンジが最高に良いアクセントになっていたり。

8.ヴァンス・ロザリオ礼拝堂 1948-51


光、色、線が一堂に会する、マティスの芸術家人生の集大成って感じ。
「いつかは大型コンポジションを作ってみたい」と言っていたらしいので、さぞかしワクワクしただろうな。

「信仰に関わらず精神が高まり、考えがはっきりし、訪れる人の気持ちそのものが軽くなる」ような場所を作ろうと思ったらしい。作っているマティス自身がそういう気持ちになっていたと思う。
これは現代の自分に当てはめると銭湯とかサウナみたいなもんじゃん!と思って映像を見てみたら白いタイルの壁に絵が描かれていて石の祭壇があって、、まじでそれっぽい空間だった笑。いや全然モダンで洗練されてるんだけど、精神的に。

でも本当にうっとりした。
青と黄色のステンドグラスから差し込む光が美し過ぎて、それがロウソクに映し出されて時間帯によって色が変わるんだと。なんて素敵!!
冬の光が一番美しいらしいけど、どの時間もずっと綺麗。
いつか行ってみたい。朝から晩までずっと見ていたい。
磔刑像とか、告解室の扉とか、細かい色々も全部マティスがデザインしてて、あー楽しそう笑。上祭服(マント)は実現しなかったみたいだけど。

「新しい標(しるし)」を時代に残す自覚があったマティス。
最後まで試行錯誤をやめることなく作り続けて…その芸術に対する姿勢を目の当たりにして、なんか、本当に良かったねぇぇ!!って涙が出てきたよ。

マティスの作品は、偉大な芸術家にありがちな痛みや悲しさなどのマイナス要素をほとんど感じなくて、純粋に創作することを追及して楽しんでいたように感じる。

全部見終わった後、長い長い旅を終えたような気持ちなった。
マティスの辿った、芸術家としての長い旅。

旅行から帰ってきて、リフレッシュして元気が出る感覚。
8月20日まで、是非たくさんの人にこの感覚を味わってほしい。

買わなかったけど図録は表紙デザインが3種類もあった。モンステラの鉢植えとかも売ってた(写真のは自宅のもの)

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