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『汝、星の如く』における読書研究

 本当に久しぶりに、心が動かされる文学に出逢えた!
 の気持ちで少し放置していたnoteを書いています。

 例年父と本屋大賞ノミネート作品10作を読破することを目標としていたのだけど、わたしはなかなか読み切ることができなくて。でも、今年初めて、10作全てを読みきることが出来て、良作揃いだと改めて感じました!
 中でも特に、わたしの中で刺さりまくりだったのが、2023本屋大賞受賞となった、凪良ゆうさんの『汝、星の如く』。

その愛は、あまりにも切ない。

正しさに縛られ、愛に呪われ、それでもわたしたちは生きていく。
本屋大賞受賞作『流浪の月』著者の、心の奥深くに響く最高傑作。


ーーわたしは愛する男のために人生を誤りたい。

風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。
ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。
生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。

ーーまともな人間なんてものは幻想だ。俺たちは自らを生きるしかない。

講談社BOOK倶楽部


 すごく好きな作品でどうしようかな~と思っていたのだけど、わたしは大学で日本文学科専攻4年なので、今回は日文科らしく比較を含んだ考察を中心に良さを語っていきたい。ポップな研究レポートです!
 先に述べておくと、大学の研究同様、作品を知っているてい、というか紹介にはならないです!!



二人に共通する「花火」


 本作では今治の花火を象徴的に描くシーンが3度描かれ、それぞれ二人の愛のかたちのひとつとしてあるのだと考える。

 はじめに描かれるのは高校生の頃、暁海の浴衣姿に沸き立った櫂がブロックの陰で抱き合ってしまいみれなかった花火である。この頃は高校卒業後ふたりとも島を出ることを決めており、「来年」「東京」での花火を信じて疑っていない。
お互いに夢中で周りが見えない、高校生の愛のかたちとしての見ることのできなかった花火がえがかれているのだと考える。

 つぎに櫂の仕事が忙しくなりキャパオーバーになったときに、安心する場所として思い出した今治の「花火」。一方で暁海は急に呼び出されたのにも関わらず大切に話してももらえず、別れたいと言葉にするきっかけとなった「花火」である。
櫂は高校生の頃の花火の思い出も抜け落ちており、そんな櫂と花火を見て高校生の頃に戻れれば変わったのかと過去と自信の弱さ歎き別れを告げる暁海の対比をここでは象徴的に描いているのだと考える。
 またふたりの愛が形式的に止まる、暁海が別れを切り出すきっかけとなるのに、高校生の頃を思い出させるきっかけとして「花火」があったのではないか。

 最後に櫂の死に描かれるシーンである。残り余命が少なくなった櫂のやりたいこととして「今治の花火が観たい」。その希望を叶えるために暁海や北原先生の協力のもと、櫂は死ぬ直前に暁海と今治の花火をはじめて見ることができる。
ここでは最後櫂目線でふたりが一緒にいれて愛を通じ合わせることができたことを、今治の花火をふたりの思い出のかたちとして描いているのだと考える。

 このように作中で3度出てくる今治の花火は、場面によって描かれ方もことなるものの、ふたりの変わらない愛や思い出のかたちとしてあるのだと考えた。


「星」のもつ意味

 「星の如く」のタイトルにもあるように、ひとつテーマになると考えられるのが、星をテーマにした描写である。
 まず「夕星」と「赤星」があげられる。「夕星」は宵の明星とよばれる一番星で、「赤星」は朝見える明けの明星。
このふたつについて作品中では、暁海と櫂の二人が別々の未来を選択する際に、島から見える空として描かれる。「二人の目に同じ星が映っているうちは共に歩きたい。」と、未来を暗示する効果のひとつとして同じ「星」を使って描いたのだと考える。

 そして暁海に別れを告げられ、大切な夢や職、仲間を失った櫂が、自分を信じてくれる二階堂さんの誘いを受け入れる際、途方に暮れる中でも「あの日と同じ夕星がひかる空の下」であることが示される。
ここでは暁海から別れを告げられているものの、「あの日と同じ夕星」とあり暁海は櫂から離れられておらず思いは変わっていないことが伺えるのではないか。

 続いて暁海の気を引きたくて借金の返済を催促し、後悔するシーン。未来に希望がみえなくなった櫂が仰いだ夜空には「星が一つも瞬いていない」。
ここではじめて一緒に見たはずの星が見えなくなり、完全に別々の道を歩むことが描かれているのだが考える。

 暁海が病気の櫂を経済的にも精神的にも支え、櫂の母に金を貸す際にも夕星がみえる。ここでは夕星としての二面性である、昼を惜しむのか、夜を待ち遠しく思うのか、が表されている。
大切にしたいと思うものが自分や自分の周りだけでなく、自分の大切な人もその大切な人にも増え、未来の不安ももちろん抱えることになる。その中で人生に選択を迫られ続けた暁海がはじめて経済力にも家族関係にも少しゆとりと自信が持てるからこそ、選択をまっとうできるように星に願うのは、やはり改めて星が「希望」となっているのではないかと考えた。

 そして櫂の死の前、花火をみんなで見る前に描かれる星。高校生の頃からの愛をふたりで思い返すきっかけとなり、また「あの星の中にいる」とあるように櫂の死を描く役割もある。
 最後のエピローグでは暁海にとっての「星」は櫂そのものであり、櫂の作品であるのだと考えられる。

 これらから分かるように、本作に「星」は多く描写されており、同じ「星」であっても表現や場面にあわせて、さまざまな意味を持つものとしてあるのだと考える。



 このように作品には比較や共通点、ミステリーではないけれどいわゆる伏線が多くてそれを楽しむことが出来るのがこの作品の魅力だと感じました!
本当は暁海と櫂それぞれの名前のもつ意味だとか、タイトル『汝、星の如く』の由来考察等、他にもいろいろあるんだけど、今回は日文科生として比較からの考察を少し!
研究的に詠むことで改めて深さに気付かされたり、魅力が増えていくのを感じました~やっぱりこうやって読むのすきかも。

 わたしは好きな作品から詞を抜き出して大切にするのが好きですが、この作品は一部だけの言葉だけじゃ抜き出せないというか。ちゃんとまるっとそれぞれの背景を見て感じて言葉が重くなるなと思います。


 特に作者である凪良さんも仰っていたことと被るかな、とは思いますが、わたしがこの作品を通して感じたことは

 ・愛や幸せの形は人によってことなる
  凪良さんの作品は前に『流浪の月』も読んでいましたが、通じるところがあるなと思っていました。特にプロローグを読んだときには理解できないと思った暁海と北原先生と結ちゃんの家族ですが、エピローグではこれ以上の幸せはないなと考えさえられます。暁海と櫂の愛もきっと周りから受け入れられにくいものだと思いますが(わたしもきっと島の人Bにしかなれない)、それも愛なのだと思いました。
・女性が自分の力(精神的にも経済的にも)で立つことが自分も大切な人も助ける
  作中では瞳子さんがこの立場の大人の女性として描かれてましたが、いま就活中のわたしには刺さりつづけるのなんの。やっぱり結婚したら仕事辞めちゃうかもだしなーとか誰かのチワワになりたいなーとか思う日もありますが、結局は自分の力でしか幸せにはなかなかなれないので。
・周りの大人の手を離さずにいること
  これは凪良さんのコメントでも見たことがないかも。わたしが教員を志した立場として都合よくとらえているだけかもしれないけれど、暁海と櫂の二人は血のつながった大人に引きずられつつ幸せを手にしたのは、信頼できる大人の手を離さなかったからだと思いました。北原先生や瞳子さん、櫂にとっては編集部の植木さんや二階堂さんも。苦しい時には必ず手を借りられる人がいて、その人たちの手を適度に借りることが幸せには必要なんじゃないかと感じました。経験談含め、ね!

 わたしはよく教授から深読みしすぎ!と怒られるので、意図したものではなかったかもしれませんが、わたしがこの作品を読んで真っ先に思ったこと達です。
 人によってさまざまな読み方ができる作品かなと思いますが、凪良さんの言葉を借りていうと「人生の大きな岐路がたくさんある年代」ド真ん中にいる21歳のわたしとしては、わたしなりのドラマを大切にしたいと改めて感じました。
ほかの方の感想よむのもすごく勉強になるので、もっといろんな感想たくさんみたい!!(笑)


 そして素敵な作品に出逢うきっかけになった本屋大賞さすが!
はじめにも書きましたが本当に良作揃いで、いろいろ興味を持ったり考えさせられるきっかけになったと思います。
せっかくなのでもっとたくさんの作品に出逢えたらいいな!来年も楽しみ~!!

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