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三角チョコパイと曖昧な約束

いつも突然だった。思い付きをきっとすぐ行動に移したい人で、フットワークの軽さとその思い付きを必ず形にしてしまう能力の高さにその当時、猛烈に憧れていた。

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「何かさ、頭ん中まとまんなくてさ、全然駄目なんだよね、アウトプット付き合ってくんない?寒いけど。」寒いけど。ストイックだからてっきり寒いところで作業しているのかと一瞬思ったが「〜丁目のマック」と続け様に送られてきて、あぁ一応気遣いかと思う。それにしてもYESという答えしか用意されていないような勢いが相変わらずで笑ってしまう。「今度は何しとるん?アウトプットって。」「記事書かないかんのよ、1週間で。めちゃ面白いんやけどさ、一気に情報入れたから自分の中に落とし込めてない感覚なんよな〜好きじゃん?そういうの。」どういうのだよと心の中でつっこみ、でもあながち間違いではないから「よくご存知で」と打った。温かいコーヒーあるけん、という文字を横目に見ながら、冷めたコーヒーの残るカップを流しに置きに行く。きっと頭が整理されたら楽しい楽しいと言って執筆モードに入るんだろうな。読みかけの本でも持っていくかという思考が働く。いつものコースだった。

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「やっほ、お疲れ。」ゆっくり上がった顔には案外苦戦していた様子がうかがえた。「あれ、何時間戦っとるん!」横に置かれた、分厚くカタカナの多そうな本はビビット色の付箋がたくさん付けられて、少々可愛くなっている。「もはや分からんよな。まぁ本日2時間睡眠。コーヒー5杯目。」受験生でももう少し寝ているだろう。また無茶をして…と言いかけたが、「でもなでもな、それが面白いんよ!」とカブトムシを見つけた小学生みたいな顔に戻ったから、慌てて言葉を飲み込む。「ほぉ。へぇ〜で、テーマは?」素早く椅子を引いてよいしょっと座る。多分興味ある分野やと思うんやけど、上手く言えん気もするけど、うーんどっから話そうかなと長い前置きを経てアウトプット会が始まった。

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「だよな、やっぱりそこ分かりにくいよな〜何度も読み返したんやけどしっくりこんくてさ、さっき本屋走ったわ!」「あっ、そこ本屋なんだ、急いでるのに?あった?いいの。」「なーい。ないから喋ってる。」「なっ、なんそれ。解決なるんやろか」「なる、多分なる。…例えばさ、アレと似てんだと思うんやけど…。んーそう、似てる似てる!」「うん、ん?どれ!?」覚束ない足取りで歩いているかと思いきや、この人は急に自信をもって走り出すから面白い。走り出したら自転車に乗らないとすぐに追いつけなくなるけれど、息を切らしている様子に気づくと走って戻ってくる。どんだけバイタリティに溢れているのだろうか。

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気づけば夜も更け、お腹も空き始めていた。隣に座る高校生が「この季節つったら三角チョコパイやん?」「間違いない」と勢いよく頬張っているのを見ていると、甘すぎると分かっているにもかかわらず欲しくなってきた。「あーのさ」「ん?チョコパイ?」そう言って財布を持ち、立ち上がる。何だよ、一緒じゃんか、笑って再びレジに並ぶ。平和だった。

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「いやー、いやーー捗ったわ!あぁ!やっぱりある程度の量インプットしたら上手な聞き手にアウトプットせな落ちんわ、難しいことは特に。」「え、なんてなんて?上手な聞き手?」「うるさい」「うるさい!?本日結構おとなしかったけど!なんなら5倍喋ったでしょう」笑っていやいや5倍は…と言いながら、重そうなリュックを開く。あ、これ。と言っていきなり手渡されたものは、それはそれは真っ赤な苺だった。丁寧に育てられたのだろう。透明の袋に包まれていても艶が際立っている。「え!美味しそう!食べてもいい?」「は?いま!?」「うそじゃん」ビックリした〜だよな、ほら、あんまりフルーツなんて食べないからさと言いながらさっとリュックを背負う。「だからこそ食べたがいいんやない?」「いいのいいの、健康だから。」「よく言うわ、クマすごいけど。」「ガバーッて寝ればいけるっしょ!」あまりに楽観的でラフな言い方に笑ってしまう。苺に練乳をかけて食べるのにハマっていた。「ありがと」こちらをちらっと見たが、何も言わずに頷く。「じゃあ…私こっちやけん」「おう。ならまた…年末に!」「ねんまつ」「ん、年末」


よく分からない約束をしてしまった。ねんまつ…。心の中で繰り返し、ゆっくりと手を振った。




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