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「かけがえのない関係」は「ヤった?」で簡単に壊れるよねー読書感想文:児玉雨子『誰にも奪われたくない/凸撃』

はじめに


読み終えた本の感想は読書メーターの呟きにリプライでぶら下げる形で書いているのですが、Twitterの文字数制限では収まらないのやつはnoteに記載しています。

特にネタバレとか気にせずに作中の文章をバンバン引用して書いていますので、未読の方はその辺をご承知おきください。

※2600文字くらい

本編

まえがき的なやつ

「かけがえのない他人」という概念がある。これは年森瑛の『N/A』という小説で登場したもので、おれは個人的に大変気に入っている。昨年末の記事でも触れたが再度引用することにする。

かけがえのない他人、は、まどかにとって特別な意味を持つ言葉だ。

ホットケーキを食べたりおてがみを送ったりするような普遍的なことをしていても世界がきらめいて見えるような、他の人では代替不可能な関係のことを、かけがえのない他人同士と名付けていた。

ぐりとぐら、がまくんとかえるくんのような二人組に憧れていた。子どもじみた言い方をすると『最強の友だち』だったが、それは友だちの延長線上にあるようで、ないような気もした。

年森瑛『N/A』25頁

これについては上記の昨年末の記事に色々書いているのでそちらを参照頂きたいのだが、本作の「凸撃」にも類似した関係性の男女が登場する。

男の名前は宏通(ひろみち)、女は智華(ともか)。二人は学生時代からの付き合いだが途中で二度別れているが、腐れ縁のような感じで関係は継続している。智華は宏通の家に化粧落としのシートを置いているくらいには。

関係が壊れる時(男→女)

智華は宏通に、先輩から連絡が来ていることを話題に出す。

「最近、先月ぐらいかな。キモいLINEが来るんだよね」
「へぇ。どんなの?」
「完全に下心が透けて見える感じ。『元気!?この日空いてる?』って、用件言わないの」

115頁

会話は続く。

「無視してブロックすればいいじゃん」
「でも、先輩だよ?」
「今仕事で関係あるの?」
「ないけどさ。でも、なんか」
「何何。見せてよ」
「え?」
「LINE」

115頁

この場面で、俺は二人の関係が壊れ始めたと確信した。女性に対して「LINEのやり取り見せてよ」なんて禁句ワードの鉄板だからだ。個人的な感覚で申し訳ないが、これは男性より女性の方が拒絶反応を出すと思う。

男性の皆様は女性フォロワーから「こんなキモイLINEきた笑」とスクショが定期的に送られてくることがあると思うが、そういう開示とは意味合いが大きく異なっている。

「(その男との)LINE見せて」と、こちらから聞くのは完全に一線を越えた行為だ。これも個人的な感覚で申し訳ないがNGワードTOP3と思う。もう「好きです」っていきなり告白した方がマシ。

はい。そこから少しすったもんだして、宏通は「ヤった?」と聞く。智華の回答は曖昧なものだったので、宏通は堰を切ったように言葉の暴力を並べる。

「あのさ。もう、正直に言えって。セックスしたんだろ?その先輩と、俺に黙って。それで事態がややこしくなってるんだろ?それかまた一発やらせろって、何、その先輩のこと俺全然覚えていないけど、かっこいいの?顔のいい男に求められて、満更でもない気分、困っちゃうーって感じ?完全に穴扱いだけど」

116頁

宏通にとっての関心は「ヤったか否か」の一点にある。いつヤったのか?どうヤったのか?なぜヤったのか???多分ヤったんだろうな~という考えから、相手を貶める発言が並べられる。

作中では両者の現在の関係の深さは言及されていないが、二人がセックスも不定期にしていたらこういう会話には発展しなかっただろう。「どっちが上手かった?」くらいのトークに落ち着いている。

宏通の心理としては「なんで俺とはヤっていないのに」という言葉に尽きる。関係は壊れてしまった。つまり、その辺の事情を悟らせなければいいわけなのだが。

関係が壊れる時(女→男)

暫くして智華のターン。智華は宏通にスマホの画面を向ける。

「あ、あとさ、この、よく電話してる立野玲香って誰」
「同僚」
「へぇ。ただの同僚とこんな頻繁に電話する?嘘つかないでよ。ずーっと前から電話してたの、ずーっと前からわたし、知ってたんだよ。黙って見てたの。この前、宏通がわたしに浮気した浮気したって怒っていたけれど、こっちのほうが完全なる浮気だよね?」

140頁

これは時系列がややこしいが、付き合っていた時の話を蒸し返している(適切な言葉が見当たらない)場面だ。

智華にとっては「私以上に時間を割いている女いるのかよ」となっている。宏通と主軸が異なっている。

分量の都合で割愛するが、智華は「立野」という女を以前から監視していた。それもあって「この女に私より時間を割くのってなんなんだよ」という思いを抱え、これが結果的に爆発した。

おれは女性読者が主要層の某記事も読むのだが(最悪)、オタク君の創作にありがちな「誰よその女ァ!」というのは全く見かけない。基本的には「なんかめぼしい男に知らん女が付いてるな…」からの「情報収集しよ」である。

なので「誰よその女ァ!」は自身の情報収集の不足を露呈している。大抵は「あ〜その女ね」となっている。最後にトドメを刺せばいい心理だろうか。怖い。

これが不倫サレ妻体験談なら「証拠集めターン」に入るのだが、独身男性を取り巻く場合だと「情報収集されてる読みの呟き(匂わせ)」とか「男はそこまで好きじゃないけど周りの女が私を嫌ってるから匂わせたろ」など色々あってライアーゲームの様相を呈している。

投稿者が女性の場合は100%投稿者陣営が「勝つ」から逆に安心して読めるんだけどね。独身彼女ナシの分際で色々申し上げて大変申し訳ございません(韻文)。

閑話休題。この流れで信頼関係がどうとか絶縁云々となり二人の関係に致命的な傷が刻まれた。

智華は通話に重きを置く。一度もセックスの話は出ない。「昨日ヤったじゃん」などというワードは飛び出さない。通話に対する詰問が繰り返される。

これは出口戦略としては正しいと思うのはおれだけだろうか。彼氏の通話履歴を把握すればいいのでは?通話って結構関係構築の大事な要素だし。

おれはLINEの通話機能を完全にオフにしてるから誰とも繋がらないけど。終わりです。30年後に考えます。

おわりに

義務教育時代って読書感想文は大嫌いでした。今は大好きです。

女性とのLINE、晒しとか怖いし無理だな。

文通しませんか???

最後まで読んで頂きありがとうございました。

以上

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