見出し画像

オンライン展覧会について考えていること

この記事は、2021年2月1日に音声SNS「Clubhouse」で開催したイベント「オンライン展覧会について語る部屋」のために作成した資料を基にしています。

イベント前に考えていたこと

多くの人々にとって、新型コロナウイルス感染症の世界的大流行は禍(わざわい)であり、それゆえ「コロナ禍」とも呼ばれています。実際に、飲食業など対面を前提としていた業態は、短縮営業要請や利用自粛などの影響を大きく受け、相次ぐ閉店が報じられています。対面を前提とするイベントという点では、美術館、博物館、ギャラリーなどにおける展覧会も同様であり、中止、延期、内容変更など、様々な影響を受けています。

そうした中で、これまでは物理会場において対面で行われていた活動をオンライン会場に移す、新たな取り組みが多数登場しています。2021年1月末に日本での利用者が急激に増加し、昼夜を問わず様々なイベントが開催され、急速に活用法が醸成されつつある音声SNS「Clubhouse」も、言ってみれば「オンライン雑談部屋」です。このような試みの中には、一時的な流行として消費されてしまうものもあるでしょう。しかしながらその中には、未踏の地を開拓して継続的に成長あるいは持続していくものもあるでしょうし、今までとは異なるプレイヤーが活躍できる基盤となっていくものも出てくるでしょう。私は、そうした中の一つになり得る可能性を秘めた活動として、オンライン会場において展開された展覧会、いわゆる「オンライン展覧会」にいくつかの理由で注目しています。

まず、物理会場と異なり、オンライン会場での展覧会では会場の持つ権威が消失し、フラットになります。例えば、「cluster」、「Matterport」、「あつまれ どうぶつの森」など、各種プラットフォーム上で開催される展覧会は、コンテンツの一つになってしまいます。独自のWebサイトやアプリケーションを用いている場合でも、スマートフォンやPCからアクセスするという点では大差なく、物理会場で開催される展覧会のような権威を感じることがほとんどできません。権威ある物理会場には、そこで展示できる人が限られることにより生じる希少性があります。そうした希少性から解き放たれた状況は、これまでのシステムの中で限られたパイを奪い合うのではなく、既存のシステムの外部を開拓しようとする人々にとっては機会と捉えることもできるでしょう。

また、オンライン会場での展覧会では、既に確固たるノウハウが構築されている物理会場と異なり、誰もがゼロからノウハウを構築する必要があります。物理会場に関しては、物理空間と身体によって生じる制約を踏まえ、そこで展示される作品群に纏まりや繋がりを与えるためのノウハウが確立されています。これに対して、オンライン会場に関しては、そうしたノウハウはまだ確立されていません。一見すると、WebブラウザからアクセスするWebサイトにおいては確立されているように思えるかもしれません。しかしながら、既に確立しているのは物理会場での展覧会を広報するためのWebサイトに関するノウハウであり、オンライン会場を構築するにはどうすればいいだろうかという視点では、まだまだ模索中であると言えるでしょう。誰もが同じスタート視点に立つことができるという状況は、これから取り組もうとしている新しいプレイヤーにとっては、またとない機会だと捉えることができるでしょう。

一方で、物理会場における展覧会と比較すると、オンライン展覧会には多くの問題があります。例えば、会場までの道中で思いがけない出来事に遭遇する、同じ物理空間で一緒に作品を観た人と何気ない会話から知り合いになる、といった偶然の出会いはなかなか起きないでしょう。勿論、今後も物理会場における展覧会が無くなってしまうわけではありませんので、全ての機能を代替する必要はありません。そもそも、全ての人々がそうした出会いを求めているわけでもないでしょう。それでも、Clubhouseによって「雑談したい」という人々の欲望が顕在化されたように、人によって程度は異なるものの偶然との出会いが必要なのだとすれば、この問題は、一つの課題であると捉えることができるでしょう。このように、私一人の視点から見てもオンライン展覧会には様々な可能性と課題があり、異なる視点を持つ人々とカジュアルな雰囲気で話すことにより、さらに深めていくことができるのではないかと期待しています。

イベント後に考えたこと

2021年2月1日に開催したイベントでは、オンラインにおける展覧会の開催経験を持つ方、展覧会と共通点の多い展示会の開催経験を持つ方など、大変興味深い活動をしてこられた方々のお話を伺うことができ、そこからいくつかの洞察を得ることができました。

まず、展覧会の体験において、作品を観るだけでなく、在廊する作者と話すことが重要だと位置付けている人が一定の割合でいるということです。作品が作者から独立した(しているべき)存在なのか否かについては、いくつかの立場があると思います。私のように、作品と作者は連続していると考える人には、自分が興味を惹かれた作品について、なぜ、どうやってつくったのか聞いてみたい、あるいは、ちょっとした感想でもいいから伝えてみたいという欲求があります。これは、美術大学の卒業制作展を巡り、学生たちと話をするのが好きだという方に共通するところではないかと思います。

次に、物理会場の展覧会では連続した数時間が専用に割り当てられるのに対して、オンライン会場の展覧会では連続して長い時間が割り当てられることはない、という違いがあるということです。物理会場の展覧会では、移動から鑑賞まで含めると、連続した数時間が必要になることが前提となっているため、観に行こうと決めた時点で時間を専用に確保することが確定しています。これに対してオンライン会場の展覧会では、リンクをクリックするだけで24時間いつでも訪れることができるため、特定の日程にしか観られないライブイベントを除き、1時間以上に渡って連続して閲覧することは稀です。また、スマートフォンの通知など、何かの割り込みが発生すると、その時点で容易に中断し、離脱してしまいます。このように、細切れであることには必ずしも悪い面ばかりではなく、隙間時間さえあれば話題になったのを知って気軽に訪問することができるという面もあります。いずれにしても、連続的な時間に鑑賞することが前提となるオンラインでのコンサートや演劇と異なり、断片的な時間に鑑賞されることが多いという特性を理解しておく必要がありそうです。

最後に、物理会場の展覧会では日常から隔離された空間で没入的に鑑賞されるのに対して、オンライン会場の展覧会では日常に隣接した空間で開放的に鑑賞されることが前提となるということです。このため、視覚や聴覚を全て支配するような圧倒的な情報量を提示する、というような作品は難しくなります。また、特殊なセンサやアクチェータを必要とするインタラクティブな作品にもかなりの困難が伴います。このような違いを前提として考えると、完璧に作り込んだ一分の隙もない作品を一方的に提示するのでなく、あえて余白のある状態で提示し、鑑賞者それぞれが主体的に対話に参加できるような仕組みが重要になってくるのではないでしょうか。さらにいえば、作品と鑑賞者の間のインタラクティビティではなく、鑑賞者の内面で生じるインタラクティビティ、あるいは、鑑賞者同士のインタラクティビティに注目した方がいいのかもしれません。

これらの違いを踏まえてオンライン展覧会というものについて考えていくと、展覧会のためのオンライン会場というメディアをデザインするというところに自然に辿り着きます。これは、物理会場の展覧会を広報するためのWebサイトをデザインするのとは、似ているようで大きく異なると私は考えます。一般的なWebサイトは、Webページを纏めて置いてあるインターネット上の場所であり、構造を考える上での基本的な考え方は書物とかなり類似性の高いものです。その目的は、展覧会で展示する作品群などに関する情報を効果的に伝達することです。これに対して、オンライン会場のためのWebサイトにおいては、siteという言葉の持つ、会場や現場という意味が重要になってきます。その目的は、展覧会で展示する作品群に文脈、纏まり、繋がりを与えることです。このように目的が異なるため、物理会場で開催される展覧会を広報するためのWebサイトと同じような技術で実装され、同じWebブラウザでアクセスするとしても、そこに求められるものは全く異なるのです。Webページを纏めた場所という位置づけがあまりにも一般化している中において、あらためて、Webブラウザでアクセスできる展覧会のためのオンラインにおける会場のあり方を考えるというのは、今まさに必要とされている活動だと思うのです。

IAMAS 2021での取り組み

2021年2月20日(土)から23日(火・祝)にかけ、岐阜県大垣市で「IAMAS 2021——情報科学芸術大学院大学 第19期生修了研究発表会 プロジェクト研究発表会」という展覧会が開催されます。

この展覧会内の展覧会として、私が研究代表者を務めているプロジェクト「Archival Archetyping」がオンラインで開催するのが「Archival Archetyping Exhibition in IAMAS 2021」です。この展覧会のため、4つの作品を展示するための会場を、ここまでで説明してきた考え方に基づいて準備中です。会期中には、またClubhouseでのイベントなど開催してみたいと思いますので、この記事を読んで興味を持っていただけた方は、ぜひ参加してください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?