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猫のいない庭④

第七話『神経質』

私はその神経質な花岡さんに会うことにした。
年は60代くらいだろう、男性。
中肉中背でとくにこれと言って変なところはないように思える。
花岡さんはカステラを気にいるだろうか。
(もっと好みとか聞けばよかったかな)

花岡さんちは私の家から近くの坂道付近に住んでいる。
花岡さんの家は猫よけがマットというイガイガした突起のようなものが玄関に置いてあり、窓の近くにはCDがぶら下がっている。烏よけだ。
動物アレルギーなのかと疑うほどだ。
夏なら蚊取り線香がそこらじゅうに置いてありそうだなぁと容易に想像ができる。花岡さんの家を皆さんに公開するのは心許ないので勘弁してほしい。
私は恐る恐るベルを鳴らした。
''ピンポーン'' これは普通だった。

無言だ。
こちらから名前を言わないと開けてくれないシステムか?
もう一度押してみる。
''ピンポーン''

玄関が静かに開く。
『なんだ』
『あの、、お聞きしたいことが2.3点ありまして』
『話すことはないと思うがな』
『えぇ、、そう仰らずに、、』
『帰れ』
と、閉めるその時に私は即座に思い出して
『カステラ!! カステラお持ちしましょう』
私は桃太郎の如くカステラを差し出す。
『あそこのか』
そういうと嫌そうに足を重くして出てくる花岡さん。
(甘いもの好きだったんだ...)

『あの、、すぐに終わるので』
『2分だ』
『はい!2分ですね、えっとですね』
『最近越してきたやつか?』
食い気味に質問された。
『あ、私はそうです、ご挨拶遅れてごめんなさい』
『何を、大して近所でもないだろ』
『坂上なんです私、、』
『俺の家から一軒挟んだあの家あるだろ、あの家の奴は俺は話したことがない』
あの家というのは坂付近にある綺麗な一軒家。どうやらそこは新築らしく二月に引っ越してきたらしい。

『いつもその家の人何してるんですか?』
『質問ってそれか?』
『あ、違います。何言ってるんだと思うかもしれませんが、花岡さんって超音波聞こえたりします?』
『うるさい音のことだろ、誰もわかってくれないんだ。少し前からすごくうるさい。でも少しの間だけなんだよ。小一時間くらいなもんだけど、耳がプチプチしてきつくて茶も飲めやしないんだ。でもこの辺の奴らにいうと気がおかしくなった〜とか言われるんだよ。ふざけやがって。』
そう花岡さんはイライラしながら教えてくれた。
神経質だなぁとよくわかる。もう少しお話を聞きたかったがとっくに2分がすぎていて、『おわり』とだけいって家の中へ入ってしまった。

でもこれで超音波が聞こえるのは私だけではないことが判明した。

と、なるとだ''誰かが意図的に鳴らしている''ということだ。
この街の人たちは猫が好きなのに何故猫よけなんかをつけているのだろう。
私は考えに考えてるうちにみぃちゃんが甘えてきた。
『みぃちゃあああああん』
ようやく家族として認めてくれたのだろうか。
そんな可愛いみぃちゃんの為にもなんとかして原因を突き止めたい。

次の日仕事がひと段落して、またカフェに足を運んで報告をしに行った。
『マスター(店主)私だけじゃなかったんです!みぃちゃんと私だけじゃなかったんです!』
『花岡さんに会ってきたんだね』
『確かに皆さんのいうとおりの方でしたけど、ここのカステラすごく好きみたいで喜んでるように見えました。』
『それは何よりだ〜たまに一人で来てカステラ頼んでカフェオレと一緒に堪能して帰るんだよ〜』
(やはり甘党か)
『今日金子さんたちはいらっしゃらないんですか』
『流石に毎日はいないからね〜んでも、またそのうち会えるよ。』
私はまたカステラと珈琲を頼んで一息ついて帰った。

でも、本当に誰なんだろうか。越してきたばかりということもあり情報不足すぎる。
交番に行くことにした。

また自転車を走らせスーパーの向かいの交番へ。
掲示板に最近情報は無いらしい。地域のニュースは本当に少ないが、行方不明の少女がいるらしい。そういう物騒なこともあるのだなと思った。

交番にいるお巡りさんに質問してみる。
『この辺に超音波つけてる人いませんか?猫よけとか』
50代くらいの小太りのお巡りさんが少しツンとした感じで答えてくれた。
『猫よけなんて、超音波使わないでしょ〜芝生に突起つけたりそんなんでいいんじゃないかな〜お姉さん越してきたばかり?』
『はい』
『そんなの聞いてきた人いないけど気になるのかね』
『猫を保護したのですが様子がおかしくて、超音波のせいじゃ無いかなって』
『百猫市だよ?超音波なんて置くかね』
『ですよね..それで私も悩んでるんですよ』
まぁでも確かにと思ったが、花岡さんみたいな人も他にいると思う。というかそもそも花岡さんって超音波聞こえたんだよね。若い人にしか聞こえない筈だと思っていたんだけどなぁ。

交番からの情報は殆どと言っていいほどなく、私は花岡さんの耳について気になりすぐに家に帰り調べることにした。

(続)

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