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「障害者の性的好奇心」ってところばかりフォーカスされがちだけど/映画『37セカンズ』

外出自粛の東京を移動する車中、ラジオを聴くとはなしに聴いていたら、この映画のことが流れてきました。

障がいがあり車いすで生活している女性が、漫画を編集部に持ち込み、女性編集長から「あなたの作品にはリアリティがない」「恋をしたことある? セックスしたことある?」というようなことをいわれて、恋とセックスを求めてアクションを起こす……といった紹介のされ方で、最初はちょっと引っかかるものを感じました。

経験がなければいいものを描けないって、そんなことなくない? サスペンス作家は人を殺したことないだろうし、SF作家だって宇宙に行ったことないじゃんねー、って思ったのです。もちろん経験したからこその表現は説得力あるものになるだろうれど、経験していないという一点でその人の創造力を低く見積もるのは、どーも納得がいかないのです。

Netflixで配信されていると知り視聴したところ、たしかに主人公の女性・ユマがリアルに知る世界は決して広くないことがわかりました。母親の介助がなければひとりでお風呂にも入れない、母親が好まないという理由で着たいワンピースも着れない。

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多くの人にとって、性的な経験=「親が知らないこと」です。ユマにとって「恋をする」「セックスをする」ために起こした行動は、そのまま親離れ、自立を意味していたのでしょう。

障がいを持つ娘と、それを献身的に支える母のふたり暮らし。母親は一緒にいないときも、娘がどこで何をしているかをすべて知っています。母親の知らない世界に行きたい、母親の知らない自分を見てみたいーー23歳の女性にとってごく自然な欲求です。

※以下、ネタバレな内容を含むかも?です。

生まれてはじめて入ったラブホテル。打ちひしがれて帰ろうとしたところ、美女を伴いながら車いすを操る男性と出会います(熊篠慶彦さんが演じていてびっくり!)。大人の余裕を感じるたたずまいですが、それはきっと「性的に満たされたぜ~」というところからくる余裕でもあるのでしょう。

主演の桂山明さんは、ユマと同じく脳性麻痺とともに生き、車いすで生活する女性。制作陣は当初、プロの女優さんを起用する予定でしたが、演技経験ゼロながら存在がユマそのものの桂山さんとオーディションで出会い、主演に抜擢したそうです。声がとてもはかなく、ピュアで、彼女そのものを体現していると思いました。

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ユマは、ラブホテルで出会った車いすの男性と、そのお気に入りデリヘル嬢(渡辺真起子)、介護福祉士の男性(大東駿介)と夜遊びにくり出します。おしゃれもします。母親が見たらきっと眉をしかめるようなメイクをし、華やかなワンピースを着ます。そうして、アダルトショップにもくり出します。彼女の性的好奇心は止まりません。

そのアダルトショップというのが、「大人のデパート エムズ」なのです。わー、私も! って思いましたね。私はバイブのコレクションをはじめた当初、もっぱらネット通販で購入していました。満を持して訪れた、人生初アダルトショプがエムズさんだったのです。そのエムズさんで現在はバイブレビュー連載をしているので人生ほんとわからないものだな~と思います。

初訪問時のときめきは、いまでもよく覚えています。オモチャの情報量が大洪水で、「夢の宝箱だ!」って思いました。きっとユマもそう思ったはず。

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ユマの冒険を後押しするデリヘル嬢は、渡辺真起子さん演じていますが、なんだろう、とってもいいんです。酸いも甘いも噛み分けているオトナの女という風情が、やさしさとなって表れています。ある意味、母親的な包容力や慈悲深さを感じさせ、でも押し付けがましくはなく、常に自然体。それがとてもエロティックな雰囲気を醸しているのです。やさしさが、色っぽい

ユマのことを「障害がある若い女性」じゃなくて、“遊びたい盛りの姪っ子”ぐらいな感じて見ている。思いっきり冒険させてあげて、でも危ないところの前できちっと線を引く。

ユマはエムズで、あるオモチャを買うのですが、まー生々しかったですね(笑)。チ○コを露骨にかたどったグッズなんて、いまどきむしろめずらしいわ! ここで、ハイデザインなグッズを買っておけば、あとで家でそれを見つけたお母さんがあそこまでびっくりすることはなかったかも……ってそういう問題じゃないか(笑)。

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母親は娘が性的好奇心を爆発させていること以上に、自分の手の内から飛び立とうとしていることにショックを受けます。子どもの性的な成長は、親にとっても通過儀礼ということなのでしょうか。それぞれに成長痛のようなもの感じている母娘の進む先には、思いもかけない展開が待っています……その先は映画を実際に見ていただくことにして。

性的な成長って、人を一気に大人にさせるように思われがちだけど、実際はそんなことなくて。その前に生きていくうえで解決させておかなければいけないことがあるのに、性的な面でだけ大人になろうとするのは、ちょっと危険で。それをわかっている人たちと出会ったから、ユマはそうした危険なシーンを回避できたのかな。

性的な成長ってたしかにドラスティックに描きやすくて、でも、人生のなかでそれはごく一部に過ぎない。そもそもどこまでが性的な成長で、どこからが人間的な成長って線引きできるものでもなし。ユマの性的好奇心を尊重しつつ、性的な面だけに重きを置かない。そんなところがとても好ましいと感じた映画でした。

ネトフリほんとありがたい〜。オススメ!



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