帰る場所

残業帰りに寄ったスーパーにて、携帯をレジに置きっぱなしにしたことを鼻歌混じりで用意した夕食目の前にして思い出し、慌てて自転車で爆走して探しに行き、無事受け取って、一息つきながらまた自転車を漕いだ春の夜、私はこの土地が自分の帰る場所になったことをしんみり思った。

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昨年の今頃も、自分の入寮していた会社の独身寮が老朽化で取り壊しになることを機に、引越しをした。指定された新しい借り上げアパートは新築で、ボロボロで臭くて狭かった寮と比較すると、格段に快適になった。

けれど、なんとなく自分の場所、ではないというか。縁もゆかりもないのでそう思うのは勿論なのかもしれないけれど、家というよりは、今の自分がどこに収まるか、を探したとき、条件の一致からここにいるべき、というなんとも事務的な場所な感覚だった。

今回の引越しは、同棲するための引越しなので、今までとは何もかもが異なる。地域から、物件から、家具から、全て”2人で選択する”という行為が生じた。それは別に困難な道とかではなかったけど、2人で色々と相談しながら決める過程に意味と想いが募った。

そんな中で、冒頭の感覚がふっと訪れた。帰る場所がある、ここが私のいるべき場所になって、私のルーツになって、私の大事な人が帰ってくる場所になり、2人で歩む場所になる。
この頃まで寒い季節だったのに、心地よい春の夜風が、自転車に乗る私の顔を撫でていった。


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