星の届かないところでは

きっと僕がこうして眠る前に君の幸せについて願っていることを、君が知ることはないだろう。僕は今日も祈りながら、そう思った。

僕のベッドは、ベッドの下が机になっているタイプのもので梯子を上ると眠る空間に辿り着く。その空間は天井とベッドに挟まれた窮屈な空間だが、僕はここが気に入っている。理由は、窓だ。僕の睡眠空間を圧迫する斜めになった天井が向かう先には何もないが、途中の壁には斜めの天井に沿うように長方形の窓がある。手が届くようなところではないけれども、専用の棒を使えば開けることも鍵をかけることも難なく出来る。掃除をする時には長い梯子を持って来なければならないけれど。(前々回掃除をした時には、バランスを崩して後ろに倒れてしまって大変だった。)ここに来てから毎日眠る時には、その窓を開けて星が流れる様子を見ることにしている。

僕の家族がたどり着いたこの惑星はラメラインという。星が毎晩流れることで有名な星だ。3年前まで僕たちは、フライアルランダルシアという惑星に住んでいた。僕が生まれた場所でもある。その惑星は、花が美しい惑星だったが、資源の枯渇やそれに伴う職不足から、僕の両親は人類が推奨する移住プログラムへの参加を決め、この星にやってきた。少し殺風景だけれども、暫く職に困ることはない。僕の子供の世代になったら分からないけれども、そしたらまた移住すれば良い。

あの日、僕が中学校から帰ると、両親がやけに改まってテーブルに座っていた。少し緊張している様子に見えた。なかなか話さない父さんにしびれを切らし、母さんが話だそうとすると、いや俺からと父さんがそれを制した。「あのな、もう中学生だからわかると思うが………。あと数ヶ月後に移住することにした。」そう言われた僕はすぐに理解し「わかった」と言った。悲しさはあった。けれども、仕方がないというやつだ。父さんや母さんは僕を気遣い励まそうとしてくるけれども、申し訳なさの方が増してしまい、ありがとう、と返すしかなかった。泣くことも駄々をこねることも出来なかった僕は、胸の真ん中あたりがずっと靄がかかったように何かがつっかえていて、それでもそうするしかないと考えていた。

それから、3年経った。今では自分の子供にも同じような宣告をしなければならないであろうことを、受け入れられるようになっている。その変化に少し寂しさも覚える。

君は今どうしているのだろうか。そもそも、今とはいつなのか。
君、つまり彼女は、僕の隣に住んでいた僕の幼馴染だ。僕より背が高く少し痩せすぎなぐらいでもあったが、スラッと伸びた背中を見ると、僕もしゃんとしなければと思ったものだ。

僕は彼女と迷子になったことがある。僕たちは、よく生き物を探したり花を摘んだりしながら遊んでいたが、ある時不思議な生物を追いかけている間に、知らない場所へと来てしまった。僕は不安になったけれども、彼女が星や雲の動きから方角を予測し、家へと連れ帰ってくれた。「こっち」と手を引く彼女を見て、魔法か何かかと思ったものだ。後で聞くと、「星が好きなの。いつか星を研究する仕事に就きたい。」と言っていた。その際通った道は、道無き道だったので、場所は定かではないが、煌めく花が点々と咲く草原を抜けたことをよく覚えている。その花は、白を基調とした花弁が丸い花で、光が当たると虹のようにきらきらと眩しく反射した。その光景は今すぐに思い浮かべられるほど、目に焼き付いて離れない。いつもは澄ました顔の彼女も、「綺麗ね!」と飛び切りの笑顔を僕に向けてくれた。

移住する日、見送りはなかった。ただいつものように、学校から一緒に帰宅し、手を振ってそれぞれの家に帰った。3年前、そう僕の中では3年だが、彼女にとっては———。これ以上はいつも考えないようにしている。計算すれば、すぐにわかることだけれども、絶対にしない。

この惑星では、毎日僕たちの元へと星が届き、祈る機会を与えてくれる。君がいる星は、流れ星が見えることはない。

だから、僕は願う。
君が幸せでありますように。

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