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牢獄 第三章

はじめに

 「牢獄」は、僕が大学生の頃、自分のウェブサイトに掲載していた自伝です。第三章は、僕が相方と付き合い、同居を始めてすぐに起きた短いお話です。

 この文章を書いたのは、1998年11月24日です。現在の僕ではないことを、あらかじめご承知おきください。

子供

僕にはどうやっても満たせない

 悲しい夢を見た。彼氏が、子供欲しさに女性と結婚する夢だった。

 そんなことある訳がない。そう思いながらも、僕は戸惑いを隠せなかった。僕の頭から離れない、彼の視線。自分の妻と、まだ小さい息子を温かく見守る視線。それは、今まで僕が見た彼氏のどの表情よりも優しかった。

 二人で緑地公園に出掛けた時のことを、きっと僕はずっと気にしているのだと思う。

 緑地公園というのは、住宅地の中にあってかなりの広さを誇る、大阪では有名な緑地スポットである。巨大な花壇や川、プールなどの施設が点在していて、ジョギングする人や自転車でサイクリングを楽しむ人が集まって来る。そういう場所だ。

 僕と彼氏は、日焼けをする為に芝生の上で寝転んでいた。のんびりと穏やかな日射しが心地良かった。

 僕が起き上がった時、彼氏はある方向を見ていた。子供を連れた家族である。男の子は大はしゃぎしていたし、女の子ははしゃぐ男の子を照れ臭いのか、盛んに怒っていて、それを困ったように見る母親と終止ニコニコしている父親が印象的だった。

 彼氏が不意に言った。「……子供、欲しいな。」

 彼氏のその欲求は、僕にはどうやっても満たせないものだった。僕は少し胸が痛んだ。幼い頃から両親無しで育ってきた彼氏は、家庭というものに憧れているのかも知れない。でも、僕にはどうすることも出来ない。

 仮に遺伝子操作等で男性同士でも子供が出来るようになったとしたら。仮に男性同士でも養子縁組が認められるようになったとしたら。その時、僕は彼氏の子供を持ちたいと思うだろうか。

 悲しいかな、答えはNOだった。

 子供は親を選べない。自分が子供の時にずっと苦々しく思ってきたことだ。それと同じ気持ちを子供に味わわせることが嫌だった。

 何より、二人のせいで子供が辛い目を見るのが嫌だった。子供が成人して、誰かと結婚しようとした時、相手の家族はどう思うだろう?果たしてその結婚を許すだろうか?相手はその結婚の申し出を受けるだろうか?自分達が「子供が欲しい」と思う気持ちで、子供自身の一生懸命な気持ちを不条理に押し潰すことになるんだとしたら……?

 「……子供……か。」僕はそっと口に出してみた。

 彼氏には僕の考えていることが分かったのだろうか、慌てて言葉を打ち消した。

 「ま、そんなこと出来る訳無いしな。考えても仕方無い!」

 もし、僕が彼氏と出会わなかったら。僕はずっとそれを考えるようになった。休みの日に子供を肩車して微笑んでいた、夢の中の彼氏の姿を思い浮かべながら。

《第三章 完》

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