津田槙達

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    noteに投稿した小説をまとめたマガジンです。

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    気になる事のまとめ,物語の再考,小ネタなど.セルフアーカイブをすると言う事が発信上しっくり来るので,そういう感じです.

最近の記事

「あーはいはい」に宿る、無関心と許容のバランス

「ムジナの庭」では何が起きているのか(後編)|鞍田愛希子 PLANETS/第二次惑星開発委員会 https://ch.nicovideo.jp/article/ar2123559 先日PLANETSの記事でムジナの庭という就労支援施設を運営されている方へのインタビュー記事を読んだ。 タイトルの「あーはいはい」に纏わる部分は有料部分になるのだが、端的に言うと、「ありのままでいい」という諭しを含んだものとは異なる軽い肯定が、その軽さゆえに居心地良い楽さを得られる、と言う感じの話

    • 悪魔の証明を無限の猿定理的に捉えることによる【楽観的諦念】という生き方

      タイトルの通りなので以下説明。 何らかの目的等があり、それに対して何をしてもうまくいかないことを証明するためには何もかもをする必要がある(悪魔の証明的な思考) しかしそこで無限の猿定理的な思考を取り入れると、無限の試行の中で偶然うまくいく可能性は常に存在していることになる。 この二つの掛け合わせで発生するのが【楽観的諦念】である。 「まぁどうせ何しても無駄だけど数億年以上試してりゃたまたまうまくいくことがあるかもしんねーなー」的なノリ。最も今のところ人間はそんなに生きら

      • 『 ” モ テ ” な る も の 』

        「これが企画書?」  疑わしげな目で見てくる上司に、はいそうです、と彼は自信満々に即答した。上司はため息の代わりにネクタイをいじりながら、のろのろとそのタイトルに目を通す。 「インターネットネイティブ時代の令和において細分化されていく集団! 最新版・モテの真実に迫る!(仮) …………うちは週刊誌じゃないんだけどなぁ」 「中のインタビューを見てみてくださいって! アホみたいなタイトルで冷笑的な態度を決め込んだヤツらが批判材料探しにとうっかり見たが最後、ナァルホドと納得してしまう

        • 建前が消え、本心だけになった世界

           インターネット・テクノロジーが地球を覆い尽くし、宇宙へとその食指を動かした頃。  人間を含む地球の生命体は、突如テレパス能力を得た。  ある研究者は、これはインターネット機能の異常拡張だという。  ついでに、時制も狂った。テレパスは時間軸を超えるのだ。  そして何より、一番重大なのが……  生命体同士であらゆる本心が表出してしまうようになったことだ。  テレパスの作用により、人間社会の制御と発展に寄与してきた"建前"という概念が崩壊してしまった。  そう、このテレパスのせ

        「あーはいはい」に宿る、無関心と許容のバランス

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        記事

          停滞 衰退

           金は出してやるから、せめて一人暮らしはしろ。  そうして親が管理しているアパートに投げ込まれて六年が経った。  高卒で一発逆転といったら、起業しかない。動画投稿とかいう奴もいるけど、あんなものは所詮遊びだよ。  ……なんてことを言ってたら上手くカモにされて、親の金を三百万くらい無駄にした。  怒鳴り散らす父親とメソメソ泣く母親の顔は今もチラつく時がある。  それからと言うもの、何かをするのが億劫になって、ただただ自堕落な生活を続けていた。月の小遣いはだいたいガチャに消える

          停滞 衰退

          壊れた夢。モラトリアム

           見覚えのある顔だった。  いや、厳密には違う顔だ。何より若すぎる。こんなことを面と向かって言ったら「失礼だぞバカ」と叩かれるのかオチだが。 「おはようございます。今日から早朝に入る志村です。よろしくお願いします」 「あっはいよろしくー。夜勤の里中です。ゴメンね、店長遅れるって連絡あったから、来るまでは俺いるよ」  研修中の札を付けた、小柄で可愛らしい女の子だ。 「志村さんは何回かもう働いてるんだっけ?」 「はいっ。昼と夕方で、レジとか納品はやりました」 「まあコンビニのバイ

          壊れた夢。モラトリアム

          諦めきれないコト

          「ごめんねー、初日からハズレ引かせちゃって……」  登山サークルの代表、玲がアハハと苦笑しながら言う。彼女が運転する軽の助手席には一年の克行、後部座席には彼の友達の誠が乗っていた。その隣にはトランクがギブアップした分の登山用具やら何やらが鎮座している。 「全然大丈夫です、高校の時は遠征とかでもっとぎゅうぎゅう詰めの日もありましたし」  スポーツマン然! とした助手席の克行が言う。彼の高身長が既に窮屈そうだ。 「遠征とかあったんだ、何部だったの?」 「野球部っす」 「ふぅん。う

          諦めきれないコト

          心の寄生虫

           子作りする予定もなく、ヒモを一人飼っておくだけにしては、2LDKは広すぎる。しかも当の家主が居なければ、そこはただのがらんどう。  虚無とすら言って良い。 「美弥の奴、今日おっせえな」  脱ぎ散らかされたショーツが今更洗濯機の隙間から出てきて、拓実は不機嫌になっていた。 「洗濯物くらいきちんと脱げねえのか」  ぶつくさ言いながらショーツを洗濯機に投げ込んでおく。今日は美味いテイクアウト買っていくからそれまで絶対何も食べちゃダメ! などとガキっぽいことを言ってきやがったので何

          心の寄生虫

          恋愛、巧遅は拙速に……如かず?

           久々の連休、その初日は晴天だった。 「ちわー」「こんにちは~」  謙太が玄関外の敷地でロードバイクの整備をしていると、聞き覚えのある声が耳に届く。 「あ。こんちわっす」  見たところ三つか四つほど歳上に見える色黒の男の方が山崎健太郎、隣家の主だ。そしてその隣が女子大生の彼女、名前は確か鈴花だったはず。連れ立って、謙太の部屋の奥の角部屋へと消えていく。  テラスハウス賃貸である謙太の家はメゾネットなので、そこそこ値が張るのだが、壁が意外と薄いのが難点だ。  隣に住む健太郎の名

          恋愛、巧遅は拙速に……如かず?

          出会いはカレーでした

          『あの、カレー作り過ぎちゃって……良かったら食べてもらえませんか?』  隣に住む青年がそう言って、超本格的な欧風カレーを持ってきた。 「あはい。全然いいですけど……」  ずれた眼鏡を直しながら幸弘はそう答えた。時間は十七時過ぎ、ちょうど腹が減ってきた頃だった。  めちゃめちゃいい匂いがする。元々顔なじみではあったから「汚いっすけどどうぞ」と招き入れる。しかし、カレーの美味そうな匂いに釣られたというのが正直なところだ。  白米は炊いてあったのだが、どうやらサフランライスも一緒に

          出会いはカレーでした

          青い春。その先

           外見の印象が強い人は、損をしやすいと思う。 「はーあ」  昼休み、陽子は一人でいつもの定食屋に来ていた。ほかほかの中華飯セット、味噌汁にまず手を出す。  地方都市も数駅離れれば、寂れ具合は加速度的に増す。駅ビル近くのこの店は老舗で、味も量もちょうどよくて、何よりあまり混まなくて静かだ。昼時なのにサラリーマンが三人と、春休みだからか高校生っぽい二人組がいるくらい。店主が穏やかなのも、居心地よく感じる理由の一つだろう。  そう、穏やか……。 『陽子は物静かな感じだからさ、そうい

          青い春。その先

          女子高生に感謝した日

          「――やっぱセレブやばいわぁ、超憧れる」 「誰これ?」 「エレナ・パーカーだよ! インスタフォロワー世界五位っ! ほら見てコレ、ニューヨーク? いいよねぇセレブ」 「いや別に……こんなギラギラしたとこに住んでたら視力落ちそう」 「ゆってもドコ住んだって翔子、家から出ないから同じじゃん」 「まーねー。エッセイストはスマホ一台あれば引きこもりでもできる職業なのだぞ」 「ムリムリ、あたし現国赤点」  ふむ。  半休で上がって適当に新宿のサイゼに来たは良いものの、女子高生の話に聞き

          女子高生に感謝した日

          死して時間が止まるまで

           優子が死んで、一年。明るいムードメーカーで太陽のようだった彼女は、赤ちゃんの時から瀬奈と仲良しだった。  優子は、瀬奈の憧れでもあった。 「もう一年なんだね」  墓前。盆の日を埋め尽くす蝉の音を掻い潜るように、隣に立つ真美が言う。真美とは高校からの仲だが、三人が重ねた四年間の思い出は今も鮮やかなままだ。  大学二年の四月末、もうすぐゴールデンウィークと言う時に優子は亡くなった。心臓発作だったらしい。寝る直前まで三人でグループ通話していたのに、彼女の『おやすみ~』はそのまま最

          死して時間が止まるまで

          「楽」と「夢」

          「なぁ、二億か三億くらいあれば人生アガれんだっけ?」  休みの日だからと十四時間ほどダラダラ遊び続けたスマブラに飽き、マサが近くのストロングゼロとポテチを適当に開けながら言う。 「知らね。てかそれって何十年後も同じ金額なワケ?」  売り専で使っている方のスマホで、この前捕まえた成金へラインする。  良太が休日によく来るマサの部屋は、新宿の雑居ビルの一室を改装した狭っ苦しい1Kだ。片付けてないから部屋の中はダンボールとコンビニ弁当のゴミまみれだ。とはいえ、こんな手狭なところに住

          「楽」と「夢」

          私がパパ活で若い男を選ばない理由

           私は仲谷絵里。ハタチ。大学生。  ここのところ月四回くらい、タワマンパーティに行っている。  最初こそめちゃくちゃ警戒してた。けど、おじさんは結構節度があるのだ。既婚者は特に。中学や高校では彼氏がウザいくらい求めてきたりしたけど、基本的におじさんたちは強引に求めてくることはない。たとえ求められても、少しの労力で満足してくれるからコスパも良い。バイトはもう辞めた。  テキストログを残さないよう、やり取りは基本、電話。どうしてもメールしなきゃいけない時は捨てアドで。個人的にはこ

          私がパパ活で若い男を選ばない理由

          六年越しの、勝手な失恋

           帰省って、距離が中途半端な人ほどやらない気がする。  いつでも帰れる、そう思ってしまうから。 「暇があれば、と思ってたけど結局六年経っちゃったなー」  お盆。少し混んだ池袋線の特急に揺られながら、香奈実は地元を思う。地元と言っても秩父で、彼女の住む大田区大森からはそれほど遠くない。隣県というのもあり、上京感は新卒当時から薄かった。ずーっと仕事ばかりで、東京での恋愛なんかに興味はなく、今年は昇進して一区切りついたからようやく戻ってきたのだ。特に手土産は買っていない。どうせ近場

          六年越しの、勝手な失恋