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アカシック・カフェ―全知と珈琲の案内人―

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人類は全知を手に入れたけれど、全能とは程遠かった。 少し不思議系、全知案内人喫茶のおはなし。
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2019年6月の記事一覧

アカシック・カフェ【3-1 アイスコーヒー・リーディング】

アカシック・カフェ【3-1 アイスコーヒー・リーディング】

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よく晴れた、土曜の昼下がりだった。

「明窓館の…高等部、新入生か」
「え?」
「あっ」

……やらかした。普段からなるべく口には気を付けているんだが、今日はお客が少なくて気が緩んでいた。
注文を取りに来た俺に、口を開く前に素性を言い当てられた少年は、目を丸くし、そしてすぐ輝かせる。あーあー、嫌な予感がする。ご無沙汰の展開が来るぞ。

「……まさか、アカシッ

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アカシック・カフェ【3-2 誤解の少年、一介の全知】

アカシック・カフェ【3-2 誤解の少年、一介の全知】

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手軽な推理問答から一時間程度。

ぷすんぷすんと、デフォルメされたガス欠の音が聞こえそうなほど分かりやすく、少年は天を仰いだ。実際に聞こえたのは深く長い呼気の音だ。

あれからもお客さんは来ないし、空は翳ったりもしていない。客足がこうもないと油断してると、急に雨が降ってどっと来客があるようなパターンもあるんだけど……それもない。永愛に休みをやっただけに、あん

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アカシック・カフェ【3-3 What's AkashiX? ~基本編~】

アカシック・カフェ【3-3 What's AkashiX? ~基本編~】

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「どういう、もの?」

少年は復唱して、頭の上に疑問符を浮かべた。あまりにも漠然とした質問には、そりゃそういうリアクションをするだろう。すべての意図を理解して立ち回る、悪いアカシックスじゃあるまいし。
少年は、そんな俺の雑な吹っ掛けにも出来得る限りの答えを返そうとする。根の真面目さが伺える。それでこそ、誤解を解く意味があるし、世界を説く意義がある。
――こう

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アカシック・カフェ【3-4 What's AkashiX? ~ラプラスとジョーカーの破綻~】

アカシック・カフェ【3-4 What's AkashiX? ~ラプラスとジョーカーの破綻~】

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一瞬の沈黙。

「……少し、刺激の強い例を使いすぎましたね」

物騒なキーワードを並べられて、少年は怯えてしまっている。
違うな。
物騒なキーワードを並べ立てて、少年を怯えさせてしまっている。
俺が明確に、脅すためにやったことだ。
悪いとは思うが、不可避だとも思うから、インターバルなしに話を進行する。

「おさらいです。アカシックスってやつは、きちんと訓練を

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アカシック・カフェ【3-5 What's AkashiX? ~社会編・今日のまとめ~】

アカシック・カフェ【3-5 What's AkashiX? ~社会編・今日のまとめ~】

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全知を知るアカシックス。全知の実在すら認識できぬ人間。互いに手を取って、平和に生きているのが今の社会。
とは言い切れない、と俺が語勢を落としたとき、少年は、口をぐっと引き結んだ。シルエットが強張ったように見えた。

「アカシックスは、神でも悪魔でもない。けれど、アカシックスは特別視される。よくも、悪くも。……覚えは、ありませんか?」
「……まぁ、はい」

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アカシック・カフェ【3-epilogue】

アカシック・カフェ【3-epilogue】

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……お客が来ない。

陽は段々と傾いて、影がよく伸びている。陽も長い季節に、影まで長くなる時間まで……あの明窓館のお兄さん一人。
気を遣ってくれたのか、単なる食べ盛りなのか。ナポリタンのご注文があったが……ありがとう、だけどごめん、微々たるプラスだ。ないよりは無論マシなんだけど、焼け石に水ってやつだ。

はぁ。心の中で深く溜息。
まぁこんな日もあるか、と諦め

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