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NYLife ニューヨーク南部 / ニュージャージー北部のモール

90年代のアメリカにMall kidsという言葉がありました。
ショッピングモールに通うティーンエイジャーのことです。

60年代にアメリカ全土に広がり、80年代から90年代に黄金の時代を迎えたショッピングモール。私が学生時代を過ごした90年代初頭がピークで、私も時間ができるとフラフラとモールに行ってしまうモールキッズでした。

どこのモールも巨大な敷地の真ん中に建物があります。その建物は上から見るとIやYや+の形をした通路があり、通路の両サイドに店舗が並んでいます。そこにはgap、expresss、Benetton、Banana Republicなどの衣料店、Radio Shack、Sharper Imagesなどの家電店、マクドナルド、バーガーキング、チャイニーズ、ピザ店が入ったフードコートもありました。
通路の端はアンカーと呼ばれ、Macy’s、SEARS、JC Pennyなど有名デパートが接続されています。
建物の周りには広大な駐車場が広がっていました。

ニュージャージーにあるガーデンステート・モール

ニューヨークのアップステートに住んでいた私の普段の行動範囲は、家から車でだいたい1時間圏内です。その中にモールは7つもありました。
家から一番近いナニュエット・モールは街の中心になっていて、郡内を走るバス、ニューヨークシティに向かうバスのターミナルとしても機能していました。
ニュージャージーに行くと巨大なガーデンステート・モールがありました。あまりに大きいのでモール内を歩くだけで、かなりの運動量になりますが、たくさんの店舗とメーシーズやノードストロームのような巨大デパートがあり、心踊りました。
パラマス・パークは天井がガラスで太陽が降り注ぎ、フードコートには噴水があり、明るいモールでした。
リバーサイド・スクエアは、高級ブランドや洒落たレストランが入っていて、学生にはなかなか入りにくいモールでした。

今、思い出すとどのモールもキラキラしていて、行く度にテンションが上がり、フードコートで食べる料理はどれも美味しかったです。

在りし日のナニュエット・モール

2018年に飛びます。
Amazonの台頭、モール同士の競争の激化により、アメリカのショッピングモールは廃れてしまいました。モールブームが過ぎ去り、モールの周りにあったショッピングエリアも衰退し続けています。
街の中心だったナニュエット・モールはデッドモールと呼ばれ、廃業してしまいました。理由はすぐ近くにできたパリセード・パークというメガモールに客を奪われてしまったからです。現在は建物は建て替えられました。
ガーデンステート・モールは、建物が倍にスケールアップしてます。このモールだけが競争に勝ち残ったのです。店舗が拡張したので駐車場は立体化しました。
パラマスパークは、デパートが撤退してしまいデッドモールのようです。2024年に農家直営のオーガニックスーパーがオープンします。これで起死回生となるのか気になるところです。
富裕層向けだったリバーサイド・スクエアはほぼデッドモール化してしまい、大規模改修中でした。

80年代が舞台の「ストレンジャーシングス」シーズン3の舞台は、ショッピングモールです。あの頃輝いていたモールが舞台とは、我々アラフィフにはなんとも気が利いている設定です。
撮影チームは、撮影に使えそうなデッドモールを探し、ジョージア州で適切なモールを見つけて、80年代の頃のように飾り付けています。画面にはgap、バーガーキング、JC Pennyの昔のロゴが映ります。

私が初めて知ったモールは、映画「ゾンビ」で人間達が逃げ込む場所でした。
「バック トゥ ザ フューチャー」ではデロリアンがタイムトリップする場所でした。「ターミネーター2」ではジョンはモールでターミネーターに襲われます。
おそらく40代〜50代のアメリカ人にはなんとも懐かしく複雑な思いがあるモール。「ストレンジャーシングス」にはそういった思いも隠れているのです。

オープンスタイルで復活したナニュエット・モール

そして2025年。久しぶりに私が通っていたモールを訪れてみました。アメリカの景気回復も相まって、それぞれのモールは新しいスタイルで頑張っていました。
廃業したナニュエット・モールは、遂に閉鎖され建物は全て壊されました。建物がなくなったモールの敷地は広大で、ここに大きなモールと繁栄があったことは忘れ去られました。しかしサイモン社は、新たにオープンスタイルのショッピング街をオープンさせました。まるでカリフォルニアの郊外にありそうな気持ちの良いショッピング・ゾーンです。アップルストアや映画館、スポーツジムなどを誘致してそれなりに頑張っています。しかし、Amazonの台頭で店舗自体は苦戦しているようです。店舗はクローズとオープンが繰り返されています。

パラマス・パークにオープンしたStew Leonard's

パラマス・パークはSEARSがあった場所に人気の食品スーパーStew Leonard'sを誘致しました。このスーパーは元々コネチカットで有機野菜を売る店でしたが、2010年代以降飛躍しているスーパーです。まるで農業の遊園地のような店内、ほぼ全てを店内で作る惣菜やパン、元気な店員さんなど、今までなかったコンセプトでトライステートエリアで頭角を表してきました。そんな人気店がニュージャージーに初出店です。この店のおかげでパラマス・パークにはお客さんが戻ってきました。モール自体は土日は休業していますが、このスーパーだけはオープンしており、賑わいを見事に取り戻しています。

ガーデンステート・モールは、ニュージャージー北部のモール戦争を勝ちぬいてお客を独り占めしてきました。ここにきて、周辺にIKEAができたり、近隣に個性のあるモールが増え、買い物客がさらに集中するようになってしまいました。バーゲン郡は周辺の道路を増設したりバイパスを作ったりと大忙しです。ただ住人も増えているようでルート4とルート17の交差点付近はいつも渋滞しています。

新しくなったリバーサイド・スクエア・モール

リバーサイド・スクエア・モールは、改修が終わり、品の良いモールとして生まれ変わりました。AMCの映画館もできて連日お客さんで賑わっています。

モールは死んだ、店舗型の商業は終わった、などとマスコミが書き立てていましたが、ニューヨーク郊外では苦しんでいたモールが復活しています。当時のライフスタイルに合わなくなった代わりに、現代のニーズに合わせた提案型のモールを展開しています。モールの中にあったラジオ・シャックやシャーパー・イメージなどは倒産し新しい業態の店舗になっていますが、人はネットだけで買い物をするわけではなく、家族や友人とモールに行って買い物をしたり食事をしたり映画を見るという習慣があることを忘れてはいけません。

ただアメリカ全体を見渡すと、貧富の差が激しくなり郊外にあった中間層が行くモールはどんどん数を減らしています。モールというより街の商店が消滅しかかっているのです。ニューヨークという巨大消費圏には商機がまだまだありますが、年以外に目を向けると暗い影が広がっていることも事実です。



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