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海外駐在員が抱える日本本社へのジレンマ

自己紹介

ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、営業職を経験したのちにアメリカの子会社に赴任。10年間超海外駐在しています。
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

始めに

駐在員は単にビジネスを拡大するだけでなく、それを異なる文化や環境下で行うことが求められます。この記事では、駐在員が日本本社に対して抱えるジレンマに焦点を当て、その解決策について考察します。

ジレンマ①: 言葉、コミュニケーションの壁

駐在員が直面する最初の壁は、言葉、コミュニケーションスタイルの違いです。
英語であればまだよいですが、マイナーな言語だと通訳なしにはコミュニケーションをとることすらも困難ですし、言葉が通じたとしてもコミュニケーションスタイルを意識しないと誤解を生んでしまうケースもよくあります。

特に日本人は「以心伝心」や「阿吽の呼吸」という表現があるようにハイコンテクスト(文化の共有性が高く、言葉以外の表現に頼るコミュニケーション方法)なコミュニケーションスタイルの国です。

ハイコンテクストなコミュニケーションスタイルの日本人駐在員がローコンテクストな現地社員と会話するときは、意識して背景も含めて言語化する必要があります。

そうでなければ現地社員は何のことを言われているのかわかりませんし、本人もなぜこんな簡単なことすら理解できないのかと双方共にフラストレーションを抱えることとなります。

またハイコンテクスト同士の会話に関しても、同じ国同士の会話でなければそもそも基づいている「背景」や「前提」が大きく異なっている可能性があるので注意が必要です。お互いがお互いに自分に都合の良いように解釈して、一見円滑にコミュニケーションが図れたと思いきや後々大きなトラブルに発展してしまうことがあります。

ジレンマ②: 日本人は日本の特異性に気づいていない

「日本の常識は世界の非常識」という表現を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。実際、長らく海外で生活・就業してきた私もそれくらいに日本は世界的に見て特異だと感じます。

しかしここでの問題は「特異さ」自体にあるのではなく、特にビジネスシーンにおいてその特異性があまり自覚されていないということです。

上司の指示を聞く、期限を守る、報告する等日本では当たり前のことすら海外においてはそれなりのマネジメントが必要です。かといって、日本レベルの「報連相」を求めるとマイクロマネジメントと言われかねません。

海外(特にアメリカ)においては、目的の明確化と権限委譲、ポイントを押さえたフォローが重要です。それがマネジメントに求められるものですし、転職を繰り返し、あらゆる環境下でマネジメントスタイルを学びます。

ここの大前提が共有されていないと同じ日本人同士にもかかわらず日本本社と駐在員間でコミュニケーション不全を起こすことになります。
日本本社からするとそんな簡単なこともできない・させられないのかとなりますし、駐在員からするとOKY(お前ここに来てやってみろ)という反発を覚えることになります。

ジレンマ③: 経営リソースの差異

おそらくは多くのケースでは日本本社と海外事業の事業規模には大きな乖離があり、事業運営を行うたための経営リソースの充実度が大きく異なっていると思います。

例えば人材という経営リソースひとつとっても、日本の大手企業には優秀な人材が集まってくると思いますが、海外において中小零細の日系企業が日本同様に優秀な人材を獲得できるのかというとなかなかそうはいきません。

またスタッフ間で一つの業務を共有するという人的余裕もありませんので、一人が休んでしまえば求められた帳票一つタイムリーには出力できないということもあります。

経営リソースの中でも最も不足しているのは情報で、日本だと簡単に手に入る情報も、歴史の短さや業界内の位置づけによりそう簡単には手に入れることが出来ません。

またITシステム等のサポートも限定的で、日本では自動化・可視化が叶っている物でも海外では人海戦術で対応するケースも少なくありません。

これは日本や海外に限ったことではなく、同じ業界・ビジネスモデルであっても事業規模やビジネスステージによってあるべき事業運営の形は異なります。
しかしながら人材流動性の低い日本の雇用文化にあっては事業規模やビジネスステージの変化を経験していない方も多いと思います。

それ自体に良い悪いはありませんが、知らず知らずの内に自身の恵まれた環境が「当たり前」になってしまい、知らず知らずの内にそれを相手方に求めてしまうことが駐在員のジレンマにつながってしまっているとも感じます。

ジレンマを乗り越えるための解決策

上記ジレンマは基本的に立場の不可視性がもたらすものだと感じています。
駐在員がこれらのジレンマを乗り越え、効果的なビジネスを展開するためには、駐在員の努力だけではなく会社の仕組みとして、双方の立場・視点の可視性を上げることが最も重要だと感じます。

具体的には恒常的にグローバル人材を生み出し、日本本社に海外人材プールを作っていく、海外人材育成戦略により双方向の視点を獲得していくことが肝要です。

もちろん双方の立場や前提の違い、見ている景色の共有など今すぐにできることはやるべきだと思います。それだけでも日本本社-駐在員間のコミュニケーションはかなり改善すると思います。

しかしながら「百聞は一見に如かず」という言葉もあるように、実際に体験すること以上の学びはありません。それを会社として海外人事戦略にうまく盛り込むことが出来れば、ゆくゆくは日本本社にいながら海外現法の現地社員とコミュニケーションをとることが出来るようになります。

そこまで来て初めて「現地化」の土台が整います。その土台がないままに「現地化」に取り組むことは実態が見えなくなり、最終的にガバナンス上の問題に発展する可能性すらあり得ます。

実際に人事戦略に盛り込んでいくとなると中長期的な取り組みとなりますが、結果的に効果最大化へのショートカットになると自身の経験から確信しています。

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