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Quiet Promotion(静かな昇進):アメリカで広がる問題を日本の雇用構造で考察

自己紹介

ご覧頂きありがとうございます。新卒で食品会社に就職し、営業職を経験したのちにアメリカの子会社に赴任。約10年間海外駐在しています。
自分自身への備忘録も兼ねてアメリカでの体験や自身の考えをnoteに残していきたいと思います。同じ境遇やこれから海外に挑戦したいという方にとって少しでも参考になれば幸いです。

はじめに

アメリカではコロナ禍以降、Quiet Promotion(静かな昇進)と呼ばれる就労に関する問題が出てきています。
Quiet Promotionとは従業員が昇格や昇給を受けることなく、業務範囲や責任が拡大する状況を指します。これは企業が人材不足を補うために、既存の従業員に新しい仕事や責務を与えることで対応しようとする現象のことを言います。

アメリカと日本の雇用環境

そもそもQuiet Promotionがアメリカで問題とされているのは、職務給制度(ジョブ型)という環境下では、職務範囲やパフォーマンスをベースとした適正な評価や報酬が重要視されているためです。Quiet Promotionはその大前提とは逆行する形となるため、徐々に問題視され始めています。

一方で日本の雇用環境では職能給制度が一般的であり、仕事内容や責任が拡大しても、昇格を伴わない限りは給与の変化がないことが一般的です。これは近年「やりがい搾取」とも言われていますが、アメリカで問題視されているQuiet Promotionのような現象がデフォルトとなっていると言えるのではないでしょうか。

Quiet Promotionの対象となりやすい人材

Quiet Promotionの対象となりやすい人には特定の特徴があります。

  • 優秀な人(仕事が早いので時間内に多くの業務を処理できる)

  • 仕事に対する責任感が強い(自信の責任範囲を自ら拡大していく)

  • コミュニケーションが苦手/自己主張が弱い人(はっきりとNOと言えない等)

  • 解雇リスクが高い人(断ったら職を失う可能性がある)

これらは日本の労働環境でも同様の状況ではないでしょうか。
4点目に関しては日本ではそこまでリスクは高くはないため、仕事ができない人から仕事ができる人にどんどん仕事が流れていくという現象もオフィスでよく見る現象なのではないでしょうか。アメリカではそういう現象は一般的ではありません。

日本の場合はこれらに加えて、職能級のため職務範囲が曖昧であり自分の仕事が終わっても就業時間内に時間が余ったのなら他者を手伝うという文化も影響しているかも知れません。

最初は手伝っているくらいのものがだんだんと常態化していった、たまたま出席したミーティングでこうした方が良いのではないかと提案したらプロジェクトにアサインされてしまった、といった具合に気が付いたら仕事の一部になっていたという経験がどなたにもあるのではないでしょうか。

Quiet Promotion予防策とは?

Quiet Promotionの対象となることを防ぐためには、組織として明確な職務範囲の規定(職務記述書等)と評価基準、報酬体系を確立することが重要です。そのような仕組みが整っていれば、従業員が業務の拡大に応じて正当に報酬されることで、モチベーションを維持し、組織全体のパフォーマンス向上に寄与することが期待できます。

そのような仕組みが整っていない場合、自分で自分を守る必要があります。そのような依頼や相談、打診を受けた際に即答するのではなく、それを受けることで犠牲になることを明確化する必要があります。

その上で受けた方が失うものより得るものが大きいと判断できればYesと言えば良いと思いますし、Noと言う場合でも必ずできない理由を明確に伝えることが信頼関係を維持する上で非常に重要です。
自身の職務範囲外のために、自身の職務範囲のパフォーマンスが落ち(納期を守れないなど)、評価が悪化してしまうのは本末転倒ですし、そこまでの犠牲は依頼者側も望んでいないはずです。

Quiet Promotionの本当の問題とは

前述のように日本においてはQuiet Promotionはある程度デフォルトの状態であり、アメリカと比較すると相対的に許容度が高い就労問題だとは思います。しかしながら行きすぎたQuiet Promotionは長い目で見ると従業員のモチベーションだけでなく、企業全体の健全な成長にとって大きなマイナスとなってきます。

Quiet Promotionの仕組み(頑張れば頑張るほど仕事が増え相対的に待遇が悪化)に従業員が気付き始めると、今度は簡単に解雇ができないという日本の雇用制度を利用し、Quiet Quitting(静かな退職:雇用を守るための最低限の仕事しかしない)という搾取側に移ってしまう可能性もあります。優秀な社員は去り、搾取する側に移った従業員がマジョリティになると企業としての競争力は大幅に減退してしまうのではないでしょうか。

このようにQuiet Promotionは企業と従業員の信頼関係を揺るがす潜在的に大きな問題であり、解決には継続的な努力が必要です。
これからアメリカがどのようにこの問題に対応していくのかを参考にしつつ、日本の文脈に合った解決策を見つけることが持続可能で効果的な対策の構築につながるのではないでしょうか。

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