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アイルランド伝承につきまして

(2021.6.17に若干の追記致しました。

 当記事の最後に、各物語冒頭へのリンクも追加。)

☆初めに

いつも #宿命の泡沫紋章 や #宿命の守護烙印 や #夢で見た中二物語 や #夢筆の抽象画 を見てくださっている皆様、誠にありがとうございます。


今回は物語を書く上で参考にしてきたアイルランド伝承や、書籍について少し書いていきたいと思います。


(かなり長いので、お時間ある時に読んでいただけると幸いです。)



自分はアイルランド関係の書籍をはじめ、ネットの情報(出来る限り吟味しているつもり)や旅行関係のガイドブックなどを参考にして物語を書いています。


アイルランド伝承に限らず、ギリシア神話や北欧神話(この二つの神話は日本でもかなり有名なので、今回は特に詳しくは書きません)などに関する話も出てくるので、その辺りも出来る限り調べてから書いているつもりです。


ただ自分はアイルランド研究者というわけでは全くないので、これから書かせていただくものは、あくまでも”夢物語を書く上での参考”という部分をご理解の上「こんな話もあるんだ」といったくらいの漠然としたイメージで読み進めていただければと思います。


(あと自分がとやかく言える立場のものではないので、政治や宗教関係の話を深く語るような事は致しません。)




☆アイルランドとケルト

アイルランドは、日本では一般的にケルトの国として紹介されることが多いようです。


ただ現在の通説ではアイルランド=ケルトではなく、単純にアイルランド人=ケルト人というわけでもないとのこと。



そもそもケルト人とは中央アジアのキルギス辺りからやってきた遊牧民に起源があると言われている民族で、かつては今で言うスイスやオーストリアで文明を築き上げていました。


しかしある時から当時のローマ帝国に追われて欧州を西へ移動する事となり、紀元前700年頃にアイルランド島へやってきたと言われています。


(大陸から島に渡ってきたのはケルト人ではなく、ケルト的な要素を持ったイベリア半島から来た人々だったのではないかという説もあります。)


ケルト人がやって来る前のアイルランドの先住民族(ミースにあるニューグレンジなどの巨石遺跡を紀元前3200年頃に造ったと考えられている)の事は、未だに詳しくは分かっていないそう。


(歴史的にはケルト以外にも、ヴァイキングやアングロサクソン等々の民族がアイルランドにやってきて暮らしていたという事が分かっているそうです。


 つまり長い歴史の中で、様々な民族の文化が融合してきた国という事ですね。)



そんな中でアイルランドの民は一人の長の元で小さな共同体をそれぞれに作って部族単位で暮らし、ローマ帝国のような中央集権型の大きな国家を築く事はなかったそうです。


彼らの小さな共同体は、最も多い時には島内に150~200ほどもあったのだとか。


彼らは自然の中に生き、家畜を飼ったり穀物を育てたり狩猟を行なったり野草を集めながら暮らしていたそうです。


アイルランドのお話で必ずと言っていいほど出て来る妖精譚は、自然の中に生きる彼らの”万物に神(魂)が宿る”という考えからきているのかもしれませんね。


そして言葉にも神や魂が宿ると考えた彼らは文字に頼る方法より、全てを言葉にして後世に残す口承の道を選択したようです。


(アイルランドには4世紀頃に初めて作られたと言われているオガム文字というものがありますが、これは世界的にも珍しい下から上に向かって読み書きするものだそう。


 自然に対する信仰を大切にする民族であることから、木が下に向かって根を張ってから上に幹と枝葉を伸ばして成長するように文字を書くのではないかと考えられているようです。)



ローマ帝国に侵攻されることなく5世紀になってキリスト教と出会ったアイルランドの文化は、キリスト教を布教しにやってきた聖パトリックに否定される事もなくお互いを上手く取り入れました。


その頃のアイルランド文化は力強く象徴的なものの代表である”ケルト文化”として時代の黄金期を迎え、ケルトの意匠として有名な美しい細工の装飾品の数々がこの時代に完成したものと考えられています。


それから様々な出来事を経て長きにわたるイギリス支配の時代に入ったアイルランドで、次第に忘れ去られそうになるケルトという一つの大きな象徴。


そうした中で現在アイルランド=ケルトというイメージが強いのは、18世紀以降にW.B.イエイツ(1865~1939)をはじめとした人物達が音楽や神話やダンス等のケルト的なものを掘り起こしてきて広く用い、アイルランドの人々に活力を与える為に提起したケルト復興運動によるものが大きいようです。




☆アイルランド伝承

アイルランド伝承は大きく4つの流れに分けられ、神々の活躍する神話時代の物語(現存していないものが多い、特に創世譚は未だに不明)、英雄クーホリンの活躍が中心となる赤枝戦士団の物語(アルスター/コナハト地方、1世紀頃の物語が7~8世紀に書き留められている)、フィンマックールの活躍が中心となるフィアナ騎士団の物語(レンスター地方、3世紀頃の物語が12~13世紀に書き留められている)、神話の時代から現実の歴史に繋がってくる歴史物語群があります。


(その他にも民間伝承や妖精譚の数々など、様々な物語が存在しています。)


この中からいくつか代表的な要素やワードを取り上げ、詳しく書いていきたいと思います。


(ただ赤枝戦士団物語とフィアナ騎士団物語が書き留められた年代を見て分かる通り、二つの物語はアイルランドにキリスト教が布教してから書き留められたものとなっております。


 なので大元のお話からだいぶ変化が加えられている可能性もあり、物語を記した当時の人々が今自分達にとって問題となっている事項を取り上げたものが多く含まれている可能性が高い、という見方もあるそうです。)



・ゲッシュ(禁制、禁忌、タブー的なもの)

本来のゲッシュとは、言葉による呪力を持った束縛や禁止事項のようなものとしてアイルランド伝承でよく用いられます。


その内容は人によって異なり、親や保護者的存在によって決められたものや自分自身で決めたものが主となります。


しかし中には突然誰か(敵やライバル等)にふっかけられるような事もあり、それを受けた側は抵抗することも出来ずにそのゲッシュを避け続ける運命に甘んじなければならない羽目になります。


ゲッシュは掟とも解釈され、万が一破ってしまうと大怪我をしたり、最悪の場合は死ぬ目に遭ったりする事も少なくないようです。



・クーホリン

#宿命の守護烙印 の主人公であるアリストの一部モデルにしているアイルランド伝承の英雄クーホリンは、ダーナ神族である光の神ルーの息子。


(父親であるルーは太陽の神でもある金髪の美男子、知恵・技能・医術・魔術・発明などの全能力に秀でています。


 戦いにも強く槍を巧みに操り、後に長期にわたる戦いで疲労したクーホリンの代わりに密かに敵勢力と一騎打ちした事もあります。)


クーホリンは半神半人の存在であり、アルスター地方の赤枝戦士団物語の主人公。


少年漫画の主人公に似合いそうな幼い顔の熱血漢な美男子で、戦いの際はその姿を非常に恐ろしいものに一変させて、まさに怒り狂う猛獣のような戦いっぷりを見せたと言われています。


ガイボルガという彼の持つ代表的で強力な槍を武器として用い(とは言っても、この槍自体が危険すぎる代物なので数回しか使用していません)、数多くの戦場を駆け抜けます。


アルスターの戦士としてライバル的な敵勢力であるコナハト軍との戦いに明け暮れた後に夭逝しますが、非常に紳士な性格で無駄な争いは好まなかったのだとか。


(#宿命の守護烙印 で光翼ダーナ族のモデルとさせていただいているアイルランド伝承に登場するダーナ神族は、神的な力を持つ神聖な種族とされています。


 しかし外の世界からやって来た別の種族(伝承中ではダーナ神族自体、外の世界からやって来た種族とされていますが)との戦いに敗れて自然界に引っ込んだ後、妖精ディーナシーとして現在も密かに生き続けていると言われています。)



・フィンマックール

冷静沈着で容姿端麗、クールで頭脳明晰なフィン・マックールはフィアナ騎士団物語の主人公。


(#宿命の守護烙印 では、アリスト達が生まれ育った村の名前をフィアナ騎士団から取らせていただいております。)


騎士団を統括する団長であり、優しい時はとても優しいのですが、白黒はっきりさせるタイプの意地悪っぽく残酷な面も持ち合わせています。


若い頃にボイン川(実在する川です)に生息する知恵の鮭を意図せず口にしてからというもの、鮭を焼く際に初めに脂が跳ねた親指を舐めると良い知恵が出てくるという特殊能力を持っています。


もう一つの特殊能力として、今にも死にそうな人や病気の人に両手ですくった水を飲ませると命を救う事が出来るというものがあります。


あと非常に犬が好きで、よく犬を連れて狩猟などを行なっています。


(#宿命の守護烙印 では、アポロの一部モデルにもなっています。)



・フィアナ騎士団

フィアナとは、兵士や狩人部隊といった意味のアイルランド語です。

騎士団員達は戦乱時には戦いに参加し、それ以外の時はエリン(アイルランドの古名)中を旅して回ったり、狩猟を行なったり修練に励んだりしているとのこと。

フィアナ騎士団の入団試験は非常に厳しいもので、下記のような試練を全て文句無しでクリアしなければなりませんでした。

○盾とハシバミの枝だけを持って四方八方からの攻撃(9人の男達による)を無傷で避ける。
 それを地面に掘った穴の中に立って、腰から下は動かせない状態で行なう。
 一滴でも血が流れれば不合格。

○髪を二十本の三つ編みにして、森の中を騎士達に追い立てられながら逃げ走る。
 捕まったり怪我をしたり、手に持った槍が震えたり、三つ編みにしていた髪が一本でもほどければ不合格。
 追われている最中に枯れた小枝を踏み折って、音を立ててもいけない。

○自分の背丈と同じ高さの枝を飛び越え、膝の高さの枝を走りながら潜り抜け、やはり走りながら速度を落とさずに、足に刺さったイバラのトゲを抜かなければならない。

○『詩編』12冊分を知識として頭に入れ、全ての節を暗唱出来なければいけない。

○エリンの歴史や神秘的な知恵が隠された物語を20以上暗記していなければいけない。

○最後に誓いとして「結婚する際に妻から持参金を取らない」「襲撃の際に不正に対する報復として以外は他人の牛を略奪しない」「助けを請われたらどんな相手でも拒まない」「戦闘の際にどれだけ劣勢になっても仲間が9人いる内は退去しない」「騎士団長(つまりフィン)に絶対忠誠を誓う」という事を約束させられる。

・・・いや、大半無理ゲー・・・σ(^_^;




☆物語を書く上で参考にしている書籍(一部DVD含む)

・『ケルト神話ファンタジー 炎の戦士クーフリン/黄金の騎士フィン・マックール』(ローズマリー・サトクリフ著、灰島かり/金原瑞人/久慈美貴訳、筑摩書房、2013)

 ※ケルト神話と書いてありますが、実質アイルランド伝承のお話。あくまでもファンタジーものです。


・『ケルトの神話 女神と英雄と妖精と』(井村君江著、筑摩書房、1900)

・『ケルトの薄明』(W.B.イエイツ著、井村君江訳、筑摩書房、1993)

・『ケルズの書-ダブリン大学トリニティ・カレッジ図書館写本-』(バーナード・ミーハン著、鶴岡真弓訳、岩波書店、2015)

・『絶景とファンタジーの島 アイルランドへ』(山下直子著、イカロス出版、2017)

・『地球の歩き方 A05 アイルランド(2017~2018版)』(「地球の歩き方」編集室、ダイヤモンドビッグ社、2017)

・『ニューエクスプレス アイルランド語』(梨本邦直著、白水社、2008)

・『ゲール語 基礎1500語』(三橋敦子編、大学書林、昭和60年)

・DVD「THE Celts 幻の民 ケルト人」(BBC制作 1986年、ポニーキャニオン発売 2005年)

・『地球の歩き方 A06 フランス(2020~2021版)』(「地球の歩き方」編集室、ダイヤモンドビッグ社、2019)

・『ニューエクスプレス+ フランス語』(東郷雄二著、白水社、2018)


・『ユリシーズ』(ジェイムズ・ジョイス著、丸谷才一/永川玲二/高松雄一訳、集英社、2003)

 ※二十世紀を代表する文学作品の一つ。アイルランドの首都ダブリン出身のジェイムズ・ジョイス著。
 参考文献というわけではありませんが、出版当時のダブリンの様子(1904年6月16日の一日の出来事という設定の物語)がリアルに描かれ、意識の流れを主題としたストーリーが読む人の心を引き込んでいきます。
 アイルランドに興味がある方は、一度目を通してみられてはいかがでしょう?




☆終わりに

この記事の絵として描かせていただいているものは、エメラルドの島と称されるアイルランド関係が深いものです。

・シャムロック(三つ葉)→聖パトリックがアイルランドにキリスト教を布教する際、三位一体を説明する為に用いたとされる。


・羊(サフォーク種)→アイルランドで最も多く飼われている品種の羊。主に羊毛用や食肉用。


・ギネスビール→日本でも流通しているギネス社の黒ビール。美味しい。


・アイリッシュハープ→かつて吟遊詩人が使用したとされている。アイルランドのシンボルとしてよく用いられる。他のものと異なり、弦部分が金属で出来ている。


・ジャガイモ→アイルランドの主要な食材。茹でたり潰したり揚げたり。
 19世紀半ばに起こったジャガイモ飢饉は多くの死者を出し、アイルランドの人々を新天地アメリカ大陸に向かわせるキッカケとなった。


・アイルランド十字→一般的にはケルト十字と呼ばれている。
 キリスト教布教以前から存在していた意匠で、十字部分は四季や四大元素を、円環部分は太陽を表していると言われている(諸説あります)。



此処までかなり長かったかと思いますが、自分としても覚え書き程度に少し書いておきたかったので、機会が得られて良かったです。

長らくお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

また近い内に #宿命の守護烙印 の方を進めていこうと思っておりますので、今後とも宜しくお願い致します。

今回も、ご愛読くださり感謝致します!

(※何かお気付きの点や疑問点、ご指摘等ありましたら遠慮なくコメント等いただけますと幸いです。
  自分では注意しているつもりでも、自己解釈による勘違いなどはいくらでも起こり得る事なので。
  宜しければ、皆様のご意見やご感想もいただけるととても嬉しいです。)








中高生の頃より現在のような夢を元にした物語(文と絵)を書き続け、仕事をしながら合間に活動をしております。 私の夢物語を読んでくださった貴方にとって、何かの良いキッカケになれましたら幸いです。