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第1章 自分をどこまで信用する?~認知エラーについて

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「A Little Dough」はこれから社会人になる人、あるいはこれからのライフデザインを考えている人達の参考になるような「パーソナル・ファイナンスの考え方」について記載してい… もっと読む
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🅂1 自分をどこまで信用する?

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂1 ▽錯視というのがあります。下の図はミュラー・リヤーの錯視としてよく出てくるものです。私には上段の線が長く、下段が短く見えます。横線の長さは同じですが、両端についている短い斜線の効果で私のような錯覚に陥るというものです。 ノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者で「ファスト&スロー」の著者であるダニエル・カーネマンは、この錯覚に逆らうために私たちにできることはたった一つしかない、といっています。 「羽根

🅂22 自分をどこまで信用する?(完)

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂22 1.自分をどこまで信用する? ▶第1章では「自分をどこまで信用する?」という問いのもとに、行動経済学で明らかになってきた私たちの自己認知力について取り上げてきました。物凄くシンプルな「サンクコスト」という概念さえ、私たちは違和感を覚えてしまいますが、さまざまな例をあげたヒューリスティクスやプロスペクト理論による損失回避性、そして時間選好など、日常的に私たちの判断に大きな影響を与えているにも関わらず、

🅂21 「もう一人の自分」を知る

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂21 ▽この章では行動経済学によって明らかにされてきた数々の例を参考にしながら、私たちの日常的な認知エラーについて考えてきました。ここで、🅂12で記載した内容の一部を再掲したいと思います。システム1やシステム2の働きと認知エラーについてもう一度確認し、その対処方法を考えていくためです。 (1)私たちは日常的に意思決定を行いますが、即決できるものは別にして、何らかの課題について思考を始めると、まず①情報収

🅂20 ジコチュウか思いやりか

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂20 ▽再び筒井義郎氏に登場いただきます。※本セクションは筒井義郎氏と山根承子氏がおよそ10年前に書かれた「図解雑学行動経済学(株式会社ナツメ社)」の「第3章利他性」の内容をベースにしています。  ▽この本の筒井義郎氏は、ユーモアたっぷりに書かれていて楽しい文章なのですが、ややホモ・エコノミクス(合理的経済人)のようになっています。実際私たちは、何もかも自分本位に考える「利己性」と他人のことを考える「利

🅂19 夏休みの宿題と異次点間選択(3)

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂19 ▽前回までのお浚いを少し。 🅂17では異時点間選択において夏休みの宿題を例に、「後回ししたり前もって計画的に進めたり」という異時点間選択を決めているのは何かということを検討しました。その結果「時間割引率」の高低(個人差)や双曲性(個人の割引率の変化)が大きく影響していることが確認できました。 🅂18では、こうした当初の判断が時間の経過によって、どういう影響を受けるかという視点を加えました。結論として

🅂18 夏休みの宿題と異次点間選択(2)

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂18 ▽前回は「宿題を後回しにする」という選択をする方は、「指数割引で割引率の高い人」か「双曲割引のひと」の可能性があることを記載しました。とはいうものの、私自身は「双曲割引」(後回し傾向が強い)であるにも関わらず、予め計画をたてて宿題を事前に済まそうとするタイプでした。ではなぜそうした判断をしていたのでしょうか、その辺りの原因をもう少し考えてみます。前回はあくまで「夏休み当初の決定」に絞り込んだ検討をし

🅂17 夏休みの宿題と異次点間選択(1)

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂17 ▽戻り梅雨も過ぎ去っていよいよまたあの暑い夏の日差しが戻ってきました。子供たちにとっては待ちに待った夏休みの始まり、私の子供の頃は1年の中でこんなにわくわくすることはなかったように記憶しています。夏休みといえば、「夏休みの友」をはじめとした数々の宿題の山。私は夏休みの初めに一通り予定を決めて、早めに済ましたいと思っていました。夏友はたいてい1週間くらいで終わるのですが、そのほかの工作や自由研究といっ

🅂16 秘密工作員はどこ⁉︎

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂16 ▽カーネマンとトベルスキーは「アジア病問題」という選択問題を作りました。これは「フレーミング」という「問題の提示の仕方が、考えや選考に不合理な影響を及ぼす現象」を研究するためのものです。 (設問1)アジア病という伝染病の流行で、放置すれば死者は600人に達すると予想されている。これに対して、以下の2つの対策が提示された。 ・A…200人が助かる。 ・B…3分の1の確率で600人が助かるが3分の2の確

🅂15 一度手にしたら離したくない!

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂15 ▽平成の初め頃、ベイエリアにあったイトキンやオンワードなどのアパレル会社の社員家族販売会。私が家族でない訳ですから想像はできましたが、いってみるととても社員の家族といった規模感ではなく、大変な混雑でした。僕は土地勘があったので車で行きましたが、田町の駅辺りからマイクロバスでピストン輸送しているらしく、何時も長蛇の列だったのを覚えています。 ▽やっとの思いで中に入ると、「さぁ、買ってくれ!」といわん

🅂14 損失は耐えられない痛手...。

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂14 ▽さて、私たちの判断根拠は効用によるらしいということはわかりましたが、こうしたベルヌーイの考えに誤りあると指摘した方がいます。「きっと数えきれないくらいの人が気付いていたはずだ」といいながら指摘したのは、ほかでもないダニエル・カーネマンです。先に紹介したファスト&スローの下巻(第25章ベルヌーイの誤り)に詳しく記載がありますが、ここでは結論のみ記載します。 ▽カーネマンによれば上記のような設例を示

🅂13 おいしいビールは一杯目だけ⁉

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂13 ▽東京はこのところ6月とは思えない猛暑続きで、家で仕事をしていても夕方になるとキリっと冷えた生ビールが恋しくなってしまいます。ところでこのビールですが、1杯目は思わず「うまっ!」と声に出してしまうほどですが、2杯目、3杯目とおいしさが半減していくような気がします。私はビール好きですが、最近は身体のことを考慮して普通は350ml缶1本にしています。美味しいビールを出してくれるお店でも、せいぜい2杯です

🅂12 少しだけまとめてみると...。

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂12 ▽セクション2~3のサンクコストのあと、セクション4からセクション11まではヒューリスティックについて記載しましたが、やや長くなりましたので少しまとめてみます。内容は以下の通りです(それぞれのセクションのタイトル名とは違います)。 ▽セクション4では、システム1・2の役割とどのようにヒューリスティック(置き換え処理)を行うのかを記載し、結果のいい加減さにも触れています。セクション5では、まずエキス

🅂11 好き嫌いで決めます!!

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂11 ▽私は人事企画の仕事を何年か担当しましたが、採用グループの仕事は隣で見ていてもなかなか大変だったように思います。面接を受ける学生側からすると、面接官は高圧的だったり好き勝手なことを言ってるように見えるのかもしれませんが、実際は大きなプレッシャーで頭を抱えています。1名の採用につき3億円近い人件費投資、100名で300億円です。彼らが働く40年間、しっかり利益を出してくれる人材を採用しないと、会社は傾

🅂10 思い込んだら後には引けない…。

「A little dough」 第1章 自分をどこまで信用する? 🅂10 ▽確証ヒューリスティックとは、私たちが直感で「正しそうな答え」を思いついたときに、これに頑なに拘ってしまうものです。アンカーがめったにない閃きとともに降りた来たために、ついつい跳びついてしまうということなのでしょうか? ▽確証バイアスをWeblio辞書(デジタル大辞泉)で引くと「自分の願望や信念を裏付ける情報を重視・選択し、これに反証する情報を軽視・排除する心的傾向」とあります。私はこの言葉を意味