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🅂26 リスクを受け入れる

「A little dough」 第4章 支出して生活する 🅂26 リスクにかけるお金

 前回はリスクと保険について記載しました。今回もその続きです。
私は会社員時代に第3分野の保険の募集資格を取得したことがあります。まだ入社間もない頃でしたが業務上必要になるということから、提携の損保会社の講習に参加しました。思えばこれが金融について勉強した初めの体験だったと思います。最近の金融機関では、内定が決まると数々の資格取得や金融リテラシーの学習を義務付けられているようですが、私の頃はそういう点ではのんびりしたものでした。

➤がん保険には入るべきか?
 テレビのがん保険のCMが多いためこうした疑問を持つ方は多いと思いますが、これは入院保険なのでどの程度必要かと考えると疑問は残ります。まず生涯で罹患する確率は、2019年のデータで男性で65.5%、女性で51.2%となっています。これが「日本人の2人のうち1人はがんにかかる時代」の根拠となっています。

  上記リンクはがん保険の比較サイトですが、ここに掲載されている<年齢別・男性 2019年データ>をご覧いただくと、現在0歳の人が生涯にわたって罹患する確率が記載されています。因みに10年後0.2%、20年後0.3%、30年後0.6%、40年後1.2%、50年後2.8%、60年後7.7%、70年後21.4%、80年後43.0%となっており、罹患率が高まるのは70歳代から80歳代ということがお分かりいただけると思います。またがんに罹患した場合の自己負担額の平均は115万円程度(下記リンク参照)ですが、30歳の人がこれを担保するために一時金100万円のがん保険に90歳まで加入した場合の保険料総額を試算すると※約87万円となります。(※2023年11月現在、ライフネット生命のWEBページ、男性で試算。80歳時72万円/70歳時58万円/60歳時42万円)

 これらを整理すると、①生涯を通して罹患する確率は高いが、多くの場合70歳以降に罹患する、②保険金に対する支払い保険料は罹患率高まる70歳~90歳までに58%~87%となる、ということになります。
 ①に関しては、罹患する確率が高いといっても多くが70歳代以降であることに注意が必要です。その年代であればほぼ貯蓄で対処可能と想定できるからです。また②に関しては、リスクのダメージが大きいかということですが、保険料を積み立てた場合に罹患率が高くなる70歳時までに約半分程度は貯蓄できると考えると、一概に大きいとは言い切れないと思います。
 結論としては、保険金(所要額)と保険料に大きな乖離がないのであればコスト対効果はあまり高いとは言えません。そのため特段の事情や不安がない場合は、貯蓄でも良いと考えられます。仮に加入して90歳まで罹患せず一生を終えたとしても、「87万円で安心を買っていた」と思えるのであればそれもまたよしだとは思います。

➤その前に健康保険
 私たち日本国民は、すでに国民健康保険という強力な保険に加入しています。保険料も所得によって変わりますが、保険料としてはそこそこ高額です。私は民間企業の健康保険組合に加入していましたが、年次会計報告で収入保険料の約半分が高齢者医療の負担金として厚労省に上納されているのをみて驚いた記憶があります。つまり健康保険料も半分は税金なのです。これも国民の義務として課されたものですから、済々と支払う他ありませんが、せめて健康保険の給付内容についてはしっかりと理解し、正しく給付を受けたいものです。一般企業に入社した場合は「健康保険のしおり」ような冊子が渡されますが、そこに詳細な給付内容が記載されています。一般的な療養給付をはじめ高額療養給付や疾病手当金など、初めて知った時にはその手厚さに驚いた記憶があります。民間の医療保険を検討する前に、まず健康保険そのものの内容を面倒がらずにしっかりと確認することをお勧めします。

➤もう一度「リスクと保険」
 リスクには発生頻度と発生した場合のダメージとを合わせて考える必要があります。交通事故は安全運転を心がけている限り滅多に起こるものではありませんが、人身事故を起こした場合は億円単位の補償義務が生じてしまうことがあります。これは、自らがかける生命保険よりもはるかに高額です。そのため自賠責保険では不足する補償額を担保するために、更に任意保険に加入するのが一般的になっています。
 一方で医療保険の場合、まずすでに加入している健康保険が先ほど述べたように強力です。また疾病やケガで通院する確率は、車による死亡事故や若くして命を落とす確率に比べるとかなり高いものですが、その場合のダメージは限定的とも考えられます。
 前回リスクの考え方について記載しましたが、発生確率が高くダメージが小さい場合、支払い保険料総額が保険金そのものと同等であったり上回る可能性がでてきます。そしてそうしたケースではダメージを保険などによって「移転する」と判断する前に、貯蓄などによって「受容する」方法も検討するというのが、基本的な対処方法となります。


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