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「限界突破」



 東京から大阪へ車で向かうことになった。メンバーは僕と友人、そして友人の呼んだ後輩の三人である。色々と運ばなければいけない荷物があったのでバンタイプの大きな車を借り、僕らは朝早く出発して大阪を目指した。

 東京から大阪までは車で早くても5〜6時間、安全を考慮して休憩を取りながらとなると8時間ほどかかってしまう。車の運転は見た目よりずっと神経をすり減らすもので、普段運転などしない僕らにとってはかなりの集中力を必要とする。そんなこともあり、通常は免許を持った者が二人以上いて、交代と休憩を繰り返しながら東京ー大阪間を行くのだが、今回は僕一人しか免許を持っている人間がいなかった。あまり聞かない東京ー大阪間の1人運転に緊張した僕は、前日に上手く眠れず最悪なコンディションで当日を迎えることになった。

 一つの判断ミスが重大な事故に繋がる可能性がある車の運転で、眠気は最大の敵である。6〜7時間運転する中で一瞬たりとも寝落ちする訳にいかない僕は、レンタカー屋を出て集合場所に向かう間にドラッグストアに寄り、3,000円ほどする滋養強壮ドリンクを体にぶち込んだ。集合場所の友人宅に到着すると、そこから30分ほどかけて荷物を車の荷台に詰め込み出発したのだが、朝が早かったこともあり助手席に座る友人と後部座席の後輩は少し眠そうにあくびをして、一睡もせず車を運転する僕だけが、ドリンクの影響で目をバキバキにさせていた。

 あまり高価な滋養強壮剤を飲んだことがなかったがこんなに効くものだろうか。高速に入り最初の2時間は全く眠気を感じることなく30分ほどの休憩に入り、さらにそこから次の休憩に入る2時間の間も快調だった。
 全く眠気のないまま昼休憩に入り、少しは眠たい振りや疲れた様子を見せないと逆におかしいと思い、僕はぐったりした姿勢でフードコートのソファー席に座り込んだりした。ご当地ラーメンを啜る二人を横目に、眠くなったら危ないからと一人だけ何も食べずコーヒーだけを啜っていた。

 出発の前に友人が寝てない僕の体調を心配して、コンビニで眠気防止のガムや飴などをチョイスしてくれ、ドリンク剤のコーナーでは、これまた効きそうな滋養強壮ドリンクを買ってくれた。
 車に乗り込む際に、「ずっと後部座席はしんどいやろ?」と言って友人と後輩は席を替わり、一睡もしないで二本目のドリンクを飲み干した僕は、ガンギマリ状態でそのまま運転席に乗り込んだ。

 助手席に乗った友人の後輩は眠いはずであろう僕を気遣い、「じゃあちょっと難波さんの為に、次の休憩までイントロクイズやりましょ!」と提案をしてくれたのだが、全く眠くない僕は音楽好きの後輩の出す難易度が高めのイントロクイズに対して、「いやもっと分かりやすいイントロ出してくれへんかな、イントロクイズって考えるのじゃなくて答えるのが楽しいねん、あれって誰よりも先にボタンを押すのが楽しいゲームやねん」と悪態をついてしまった。そこから2〜3問出題された後に今度は後部座席の友人が、「お前ほんまにイントロクイズのセンスないの!」と後輩にキレて、「もうイントロとかいいから、今ドライブしてて自分の一番盛り上がると思う曲かけて!」強制終了させられてしまった。
 結局三人であーでもないこーでもないと笑いながら過ごした時間もあっという間に過ぎ、僕等は最後の休憩を取る為のサービスエリアに突入した。

 ずっとドライバーズハイのような状態の僕はもうゴールがそこまで見えている最後の休憩なん取る必要がなかったぐらいで、さっきまでの半分の時間で休憩を済ませると、とうとう一度も眠気を感じまま大阪の目的地まで着いてしまった。「荷物を入れている間は疲れたやろうから難波は横になってて」と友人に言われ、流石に横になれば眠気も来るかと思ったがそれでも眠気は訪れず、最終的には泊まりとなった大阪のスナックで、一睡もせず運転し続けた僕が酒を煽りながらチャゲ&飛鳥を三曲連続で熱唱して、助手席と後部座席に乗っていた二人がしっとりと酒を飲みながらそれを聴くという惨状になっていた。

 次の日にホテルで目覚めると、頭痛と共に腰と全身の筋肉に激痛を感じた。僕はベッドの上で首から上しか動かすことが出来ずに、ベジータ戦で界王拳4倍カメハメ波を放った悟空と全く同じ状態になっていた。
 天井しか見つめることが出来ぬまま、それでも何故か沸々としたものを僕は感じていた。たとえ下らぬことであっても限界突破したのなんていつ以来だろうか。掠れて声の出なくなった喉を震わせ、僕はチャゲ&飛鳥の「PRIDE」をもう一度歌ってみた。

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