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青春の1ページ

平日夕方のマック、そこに私はいる。
私の住む街の、最寄り駅にある店舗だ。

外出先から帰ってきたところである。
ここから自宅までは徒歩15分ほどなので、
そのまま自宅に帰って仕事をすればよいのだが、
今日は何となく無性にマックで仕事をしたくなった。

お店の扉を開け、私はポテトとドリンクを注文した。

定時まではここで仕事をし、
そのあとは少し本でも読もうか。
相変わらず仕事は山積しているが、もう今日はやる気が出ない。

そう、今日は足掛け3カ月にわたる案件の終わりが遂に見えた日であり、その帰り道なのであった。

今日くらいは早く仕事をあがりたい。これまで、よくやってきた自分を、少しばかりは褒めてあげたい。

今は雨もざあざあと降っているし、雨宿りにもちょうどいいよい。
ま、ご褒美マックくらい、いいよな。

「お待たせしました」
目の前にポテトLとドリンクがどすんと置かれる。
ご褒美マックといってもハンバーガー抜きだった。

ま、このポテトがご褒美なのである。
飲み物はいつもはホットコーヒーだけど、今日は疲れていたのか、はじめてピーチフィズとやらを頼んでいた。

喉が渇いていたためごくごくとピーチフィズを飲む。
あっという間になくなってしまった。
そして、目の前にはありあまるポテトLの群れ。
しまった、やってしまった。

第一フィズとやらは、中年のおっさんが飲む飲み物ではなかったかもしれない。
ポテトをつまみ、氷を口の中にほうばりながら、小一時間程は仕事を夢中で進めた。


やがて隣の席には、近所の高校生らしき男女がやってきた。
どうも少しばかりイチャイチャしているようだ。
そうね、年頃だもんね。
よっ、ひゅーひゅー。
私も高校生のころ、マックでいちゃつくことがあったかな、なかったかな・・・。

ま、いちゃいちゃというより、ありゃ、二人の世界に入ってるよな。

あ、いや、それを、いちゃいちゃというのか、
ま、いっか。

・・・ま、危ない一線は超えなさそうだし、
そっとしておこうか。

マックで仕事を続け、時刻は定時を超えた。

今日はもうこれでパソコンを閉じるのだ、ヨシ。
仕事はしないことに決めたのだ、ヨシ。

待っていたとばかりに、パソコンを閉じて
代わりに読みかけの本を開けた。

バックパッカーの旅を記した興味深い本だ。
最近全然本を読んでなかったな。
見つめるのは携帯の画面の中ばっかりだったな。
こうして、マックの席で一人本を読んでいるのも、たまには良い。

いや、とても貴重な時間ではないかとすら思える。しゃれたお店なんかだと、もっとよいのだろうけど、マックくらいでちょうどよい時もある。

本を読み進めると、まるで自分が旅をしているかのように没頭できる。
旅がしたくなる。旅で得られるような、
新しい感覚が欲しくなる。
先日行った、ネパールでの日々を思い出す。

いちゃいちゃしていた高校生カップルに、
新たな声がかかったところで、
私は本の中から現実に戻る。

「おっす」「おう」男子二人がこのいちゃカップルに加わった。

高校生は合計で4人になった。元の2人のいちゃいちゃモードはこれにて終了し、
4人でわいわいがやがやと会話が続く。

さすがにうるさいのだが、まあ年頃の子たちはこんなものかと思うし、こっちはイヤホンで音楽を聴いているので、そのまま盛り上がってくれたまえ。

この時点でようやく気づいたのだが、
私の隣の席にはこの高校生たちがいるが、
反対側の席にはおじいちゃんが一人で座っており、何やら作業をしていた。

おじいちゃんをよく見ると、
手書きで楽譜を書いているのだった。
このうるさい環境で、イヤホンもせずによくもまぁできるなと思うが、この騒がしさがかえってちょうどよいのかもしれない。

あの高校生達はひとしきりの会話の中の休憩だろうか、追加で注文を頼みに行った。

皆でポテトを頼んで帰ってきた。
袋の中でしゃかしゃかと振るタイプのポテトだ。
皆で盛大に振った後、
ポテトをお盆に、
あ、違う、トレイの上で一斉に広げて、
大フライドポテト大会がはじまったようだ。

色々なフレーバーの匂いが隣から立ち込めてくる。ぐわっ、すごい。
毎度思うがこのマック臭さというのは一体何なのだろうか。とにかく強烈だ。

ま、しかしなんにせよ私は1時間以上ここに滞在しているのに、追加注文はしていない。
彼らは追加注文をした。
彼らの方が私より大人かもしれないな。
侮ってはいけない。

皆で盛り上がり続けている。
ポテト一つで、実に幸せなことだ。
彼らの青春は、今、このマックにある。

この4人分のフライドポテトと共に。
実に楽しそうだ。
まさに、青春の1ページだ。

一方で私はといえば、この1冊の本に書かれた、
タイ旅行記の話に心をときめかせ、没頭している。

この本の中に、今の私の青春があるようだ。
それは本の帯に書かれた素敵な言葉でも表されている。

「未知に出会いたいのではなく 新しいものを探す目を開きたい。」

本の帯


隣の席のおじいちゃんは相も変わらず、楽譜の続きを書いている。こんな煩雑な空間で、おじいちゃんの頭の中にはちゃんと音楽が鳴っているのだろうか。

信じられないが、
書けてるんだから鳴ってるんだろう。
おじいちゃんにしか聞こえない音が、
きっとそこにはあるのだろう。

頭の中では音符が自由に羽ばたいているはず。
誰にも聞こえることはないが、
しかし頭の中では、しっかりと奏でられているはずのオタマジャクシさん達。
おじいちゃんの青春もまた、ここにある。

ちょっとかっこよく言い過ぎたかもしれない。

高校生とサラリーマンの私と、おじいちゃん。

年齢はバラバラで、たまたまここに着席しただけの間柄だ。こんな文章なんかに書かない限り、
まとまって一緒くたになることもない。

そんな私達にあって、

おそらく「アオハル」と呼ばれる青春は、
青春時代は、高校生達だけのものである。
それは特権だ。なんてたって若いんだ。
若さって素晴らしいから。
うん、それは、認める。

でも、中年のおっさんである私にも、
白髪がいっぱいのかわいいおじいちゃんにも、
青春はあるのだ。
私達の心もまた、光り輝いていたとするならば。

私はそれを本の中にみつけ、
おじいちゃんは楽譜の上でみつけている。

そう、心の輝きは消してはいけない。
私たちの青春の1ページはここにある。
心の輝きを消さない限り、は。

読んでいた本

・・・ふと、ここのマックが
いつできたのかってことを思いだした。

ここは以前、TSUTAYAがあった場所だったから、1・2年前かな。

この街には、ここにマックができる、
もうずっとずっと前から、すぐ近くにマックがあったのだ。

なんでこんな近くにわざわざもう1店舗を作る必要性があったのだろうかと、
ここは駅が近くで便利だけど、
できるんならさ、マックには申し訳ないけど、
モスが恋しかった。でも、今日ばかりはここにマックがあることに感謝しようかな。

マックはスマイルだけじゃなかった。

この騒がしいマックの中で、

私は少しばかりの青春のかけらを
見つけた気がする。

まもなく桜が咲く時期がやってくる。


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