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16:命の終わりに憧れた話

マガジン「人の形を手に入れるまで」の16話目です。まだ前書きを読んでいない方は、こちらからご覧ください。

大学生の頃、仲の良い友達グループがあった。それは、高校の同級生「A」を中心としたグループで、彼女の中学時代の同級生に私を加えた少し変則的なグループだった。

学校の帰り道、Aと私はグループと連絡を取り合いながらよくゲーセンに集まった。好きなゲームをして、好きな服について語り、時間を持て余せばウィンドウショッピングをして、ファストフード店に行ってはだらだらとポテトをかじって、いつの間にか日が変わる。

私はそんな一端の女子大生の皮をかぶっていた。成人式には、女子大生らしく一緒に繁華街に繰り出し、いつもと違うお互いを見て笑った。きっと大学の卒業の頃にも袴を履いて集まって、この日を思い出しながらお祝いすることだったろう。でも成人式のその数ヵ月後、Bは唐突に亡くなった。死因は、Bが持病の為に飲んでいた薬の大量服薬だった。

それは自死かもしれないし、朦朧とした意識で起きた事故死かもしれなかった。ただ、当時の私は「きっと自死だ」と勝手に決め付けていた。彼女が死んだという事実は時に漠然と浮かび、気持ちの中に落とし込めないまま過ぎた。Aにも打ち明けられなかったその時の感情は、「羨ましい」だった。

感じるのは空虚感だった。こんなに生きていることに閉塞感を感じている私を置いて、Bは行ってしまった。私には、「話せば楽になるよ」って言ったくせに。私に話してくれたことなんてなかったくせに。

悔しいやら、悲しいやら、何かに当たり散らしたい気持ちが湧いた。でも頭の中はひどく冷えていて、Aと一緒にさめざめと泣くのが正解だと思った。

『いいなぁ。解放されたんだ。』気を抜けばそんな声が心の内側から聞こえる。

『羨ましいなぁ。事故だとすれば私が代わりたかった。』

『もっと私に話を聞ける時間があれば、Bは生きていたかしら。』

考えてしまうのは、推察しきれない現実についてと二度と来ない「もしかして」の話だった。

そして、この一件の傷が癒えるのを待つことなく、私はもうひとり大事な友人を天に見送ることになる。それはBを見送った翌年の夏のこと。一度も会うことが叶わなかったその「友達」は、残暑の残る頃、虫の音が聞こえる山の中、暑い車内で眠るように息を引き取っていたと言う。死因は窒息死。練炭自殺だった。


駆け出しライター「りくとん」です。諸事情で居住エリアでのPSW活動ができなくなってしまいましたが、オンラインPSWとして頑張りたいと思います。皆様のサポート、どうぞよろしくお願いします!