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【読書レビュー】一番欲しかったのは?『あひる』今村夏子

今村夏子さんの『むらさきのスカートの女』を読んで、こちらも気になったので読んでみました。

初めて読んだのは『星の子』でしたが、『むらさきのスカートの女』を読んでからだいぶ印象が変わりました。

今回のタイトルは『あひる』。
タイトルからはどんなお話なのか想像つきませんでしたが、まさに”あひる”を巡った歪な家族のお話です。

「のりたま」と名付けられたあひるが家にやってきてから、毎日近所の子供たちがのりたまに会いに来るようになり主人公の両親はとても幸せそうに子供たちを可愛がり、もてなすようになります。
ゲームを用意したり名前も分からない子供たちのお誕生日会を開くようになるまでに。

主人公はのりたまを可愛がっていましたが、だんだん衰弱し、父が病院に連れて行き、家を訪ねる子供たちもパタリと来なくなりました。

数週間後、父が元気になったのりたまを連れて帰ってきますが、主人公だけはそれがのりたまじゃない事に気づきます。
しかし、子供たちはまた家へ集まるようになり以前のような賑やかさが戻ってきました。

違うあひるを連れて帰ってきて、何事もなかったかのように依然と同じように振舞う。交換可能なあひる。子供たちが遊びにくると喜ぶ両親。
それがとても気味悪く感じました。

窓から覗いている主人公を見つけて子供は「人がいる」とびっくりします。

このことから、主人公が普段から人目につかないように生活していることが分かります。
主人公に大事に身体を拭かれていたのりたまは亡くなってしまいました。

弟に頻繁に叱られる両親と私。
名前も知らない子供たちの誕生日会で作ったディナーを実の娘に食べないように注意する。
家族関係も歪であることが感じられます。

ある日弟家族に新しい命が宿った事を告げられた両親は、とても喜び、毎日お祈りをしていた事を告げます。

以前あひる小屋だった場所は取り壊して孫の為のブランコを設置する為の場所になるのでした。

『あひる』を最後まで読んでみると、一見賑やかで幸せそうな普通の家族であるように見えますが、どこかしら節々に歪な印象を持ちます。
これが本当だとするととても怖いしゾッとします。

短編になっていてすぐに読み終わってしまうのですが、他にも兄妹のおばあちゃんの話が出てきます。

仲睦まじく家族でおばあちゃんの誕生日会が開かれているかと思いきや、その日はおばあちゃんの誕生日ではありませんでした。
ではなぜ誕生日会が開かれていたのか?

本を読んでみて思う事は、解釈はやっぱり人によって違うこと。
はっきりとこの人はこんな人、この時の行動はこの為、だという答えがあるわけじゃないので、あの時現れた少年は誰だったんだろう?というような感想を持ちます。姿や印象からのりたまであったのか、とも取れますが、でもそれは最後まで読んでみても分かりません。

最後にあった兄妹の話で、友達に貸してもらって読んでいた大好きな漫画がある日、家に全巻揃えてあり、お母さんに抱き着いたこと、その後は今までの事を全て忘れて新しい生活に変わっていくのかなと想像を巡らせてしまいました。

今村夏子さんの本は読者自身に考えさせるような本だなという感じがします。
読んだ人がどう感じるか。
読書の素晴らしいところでもあると思います。

他の作品も読んでみたいと思いました。
またその時はレビューを書こうと思います。

今村夏子さんの『あひる』、気になった方は是非読んで見てくださいね。


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