見出し画像

森のニンフは言葉を食う

風が死んだ

暮れも押しつまったある日
木々の枝を揺らしていた風が
ぴたりとやんだ

葉の影は震えず
光の輪の眩しさは
水の奥底に潜って沈んだ

遂にそんな瞬間が訪れた

頭の中に流れていた文章たちが
浮かぶ前に消えてゆく
手を伸ばして掬いとろうとするが
するりと
指の間から抜け墜ちた

noteの住人たちが
時折嘆いていたことを思い出す

文章にしたいことはなに?

心の中を覗く
頭の中に問いかける

伝えたいことは?

心も頭も沈黙している
風は吹かない

noteの海に漕ぎ出しても
本の世界に浸ってみても
森の匂いを嗅いでみても

風は鳴かない

森のニンフは言葉を食らい
にかっと笑う

でも
私は知っている

無意識の部分は
ひっそりと準備を始めている
問いかけられた言葉に
応えようと動き出している

僅かな光が暗闇を照らすように
雲間から
月がそっと顔を覗かせるように

ある日突然
それは舞い降りてくる
ふわりと
そろりと
舞い降りてくる

自分を
信じてあげられるのは
自分なのだと呟く

仄かな光
雲の向こうに広がる光景
まだ見えぬ景色を信じる勇気
あの角を曲がれば
坂を登りきれば
きっと何かがみえてくる

また見えないものを信じる勇気

文章にしたいことは?
伝えたいことはなに?

言葉たちを飲み込むように
ミルクティーをこくりと飲み干す
大きく深呼吸

風は動かないけれど
私の心の仲で
何かかゆっくり動き出す

薄い月明かりのもと
森のニンフがそろりと顔を覗かせ
しゃなりしゃなりと踊りだす

風はもう少しで吹いてくる
風は突然吹いてくる

もうひと口
ミルクティーを飲んで待ってみようか

月明かり風は水面をふるわせて
森のニンプは言の葉を食ふ





この記事が参加している募集

今日の短歌

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?