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好々爺しげさんの独り言は         かるくて深くてせつない


この世を去った後に

その人の存在が
さらに
大きくなるということがある。


しげさんが亡くなったのはコロナ禍真っ只中の春だった。
葬儀はひっそりと行われ、家族だけに見送られて旅立った。

あれから1年半。しげさんの言葉は生き続けている。いや、その言葉の重みは増しているのだ。
しげさんの生前の生活は平凡だった。穏やかな日々。でも、だからこそ心豊かに生きるヒントがいっぱい。


ちょっと覗いてみましょうか。

第1章 縁側でにゅうめんを
     すするしげさん


しげさんの好物はにゅうめんだ。
くたくたに茹でたにゅうめんに
たっぷりの茸を入れて
縁側ですするのが日課だ。

太陽は西の空に傾いている。
今日は風が強かった。
そのせいか
金木犀が庭一面に散り敷いて
夕陽を浴びている。

しげさんは
ふと自分を幸せだと思う。
にゅうめんをすすりながら
つくづく幸せだと思う。

幸せとはなんだろう。          


しげさんには高い教養はない。
中学をかろうじて出たばかりだ。

若い頃は苦労の連続だった。
父親はいなかった。
戦争に行ったきり
帰って来なかった。

まだ学生のうちから
軍事工場で働いていたしげさんは
空襲で工場を直撃されて
仲間の多くを失った。

朝まで
一緒に働いていたその顔は
ぐにゃりと歪み
血まみれであった。

生き残った者たちで
仲間の亡骸を泣きながら
片付けた。

自分だけ
生き残ってしまった気がした。
その思いは
しげさんを長い間苦しめた。

しかし
やがて所帯をもち
子どもにも恵まれた。

田舎に安い土地を探し
何とか家をもつことができた。

暮らしは楽ではなかった。

子育て真っ最中に
リストラにも遇い
知り合いの大工仕事を手伝って
食いつなぐこともあった。

あのときは
苦しかった。

しげさんは苦笑する。

娘たちは思春期に
自分に反抗ばかりしていた。

しかし
その成長を見守ることは
楽しかった。
生きる意味を与えてもらった気がした。

教養のないしげさんが
娘に教えたことは
ただひとつ

笑っていれば幸せになれる
そのひとつだった。
笑顔は幸せを引き寄せる。

そして
しげさんはこうも思う。

人生万事塞翁が馬
人は
やれ幸せだやれ不幸せだと
一喜一憂する。
しかし 
長い目で見ると、それが果たしてどちらかなんて誰にもわからないのだ。

しげさんは
再びにゅうめんをすする。
婆さんがいつも作ってくれるにゅうめんをすする。

ちゃんちゃんこを身に纏っている。還暦祝いにもらった緋色のちゃんちゃんこだ。
物持ちのよい
しげさんはいつまでも
同じ物を着ている。
米寿のときにもらった帽子とマフラーはたまに出かけるときの一張羅だ。

娘たちが働くようになり
暮らしはずいぶん楽になった。
そのうえ
年金は生活を安定させた。
それでも
物を大事に大事に使うしげさん。

幸せだと思う。

まもなく卒寿の身の上だ。
最近
記憶も曖昧になることが多い。
足も弱って
移動に杖は欠かせない。

楽しみは
梅干しとにゅうめん。

縁側に座って
自然を愛でながら
にゅうめんをすする。

幸せだ。
しげさんは笑顔を見せる。

人は
不幸に見舞われると
大騒ぎをする。
そのくせ
日々訪れる小さな幸せには
気づかない。

思うに

幸せとは
そこに気づけるかどうかなのではなかろうか。

しげさんはこんな風に考えた。

たしかに自分の人生は
大きな成功もない。
ドラマチックな展開もない。
ただ
穏やかに
こうして年を取り
縁側で
にゅうめんをすすっている。
娘たちが巣だった今は
婆さんと二人きりの生活だ。
さして欲しいものもない。

まもなく
自分も婆さんもいなくなる。
自然の摂理だから仕方ない。

自分の死を悲しむ人は
いるだろうか。
いや。
そんなことはどうでもいい。

大事なことは

幸せだと思える自分のまま
死ねることだ。

しげさんの思考は
いつも同じところに戻ってくる。

にゅうめんを食べ終わった。

庭先に椋鳥が来ている。
しげさんはパンくずをまく。
いつの間にか
太陽は
山にその姿を隠してしまった。


しげさんはゆっくり腰を上げて
杖をついて
家の奥に入って行った。

しげさんの幸せな1日が終わる。



第2章 近所の人はしげさんと話すのが好きなのだ


小春日和の日
しげさんは散歩に出た。
うららかな日差しが暖かい。

こんな日は近所を歩く。杖をついて、ゆっくりゆっくり歩く。

すると
たちまち顔馴染みに出くわす。
その一人一人に
丁寧に挨拶するしげさん。
そして立ち話。
しげさんは聞き役だ。
にこにこしながら、話を聴く。

近所の人はしげさんに話を聴いてもらうのが好きだ。
どんな話も笑顔で聴いてくれる。
嫁の悪口も
  旅行の話も
    病気の話も
楽しい話も愚痴も相談も。
しげさんは頷きながらにこにして聴いている。
そして最後は決まってこう言う。

生かされているんだから
感謝しないとな。
仲良うやれ。
健康で
笑っとるのが1番ええ。

最後は
やっぱりしげさんは
笑顔の話をするのだ。

笑顔でいりゃあいい。
笑顔でいさえすれば
幸せになれる。

木漏れ日から
陽射しが
きらっきらっと光る。

しげさんはのら猫にも話しかける。
「元気かい? 」
にゃ~。
猫は顔馴染みのしげさんにすり寄ってくる。
「よし。よし。元気だな。愛嬌が1番。みんなに可愛がられる」
喉をゴロゴロならして、猫は嬉しそう。

あっちで立ち話
こっちで立ち話

しげさんの散歩は終わらない。

しげさんの人生は平坦な道のりだ。大きな野望もなく、この田舎で人生の大半を過ごしてきた。

会社が倒産して、リストラされたこともあるが、たいしたことはない。年を取った今は、何でもないことのように思える。

娘たちは
若いときから
大きな志はなかったのか
しげさんに問うてくる。
ちょっと責めるような口調で
問うてくる。

あったような
なかったような

しげさんは曖昧に笑う。
娘たちは不満顔だ。

でも
こんな会話ですら
しげさんは楽しいのだ。

思い出も辿りながら
しげさんの長い散歩が終わる。

さて
午後はぽかぽかの縁側で
うたた寝でもしようか。

こんなふうに
暮らしていけることに

感謝やな
生かされていることに感謝

しげさんは笑いながら呟く。

近所の人たちは
にこにこ笑いながら
いつも聴いてくれるしげさんに
話をするのが好きなのだ。

  



第3章 下弦の月を 
             愛でるしげさん


望月を過ぎ徐々に月は欠けていく。漆黒の空に下弦の月がかかる頃、しげさんは縁側に椅子を出す。

今晩は孫が遊びに来ていた。

「欠けてしまった月の上側は何処に行ってしまったの? 」

月の欠片の行方が気になって仕方ないらしい。
しげさんはにっこり笑顔。

「見えないだけで、ちゃんとある」

しげさんは満月よりも欠けた月が好きだ。その理由をこんなふうに語るのだ。

「十五夜を完成された月とするならば、下弦の月はまだ未完成だ。これから満ち満ちて完全な球体になる可能性を秘めた月だ」

未完成だからこその美しさ

そんなものが世の中にも溢れているのではないか。
「可能性も愛も思いやりも見えないだろう? でも、そういうものこそ大事なんだ」

まだ幼かった孫にはよくわからなかった。わからなかったが、ぼんやり思い出したことがあった。

学校の先生がこんなことを言った。図工の時間だった。

「空間を見なさい」
花瓶の絵を描いているときのことだ。
花瓶にはカラフルな花束が飾られていた。
花と花の間に存在する空間。それを表現することは、なんと難しいことだったか。
しかし、
表現しようと努力することで、絵には驚くほど奥行きが出て、上手になった気がした。

友だちの絵にはそれぞれの空間が存在していた。

見えないものを表現する大切さ。

先生の言葉と
しげさんの言葉が重なった。

未完成な部分や余白は
可能性だ。

「空間や余白がないと楽しみがない。見えない部分こそが大事だよ」
しげさんはまた笑った。

「うん! 僕はまだ余白だらけだ。これから欠けた部分を埋めていくね」

孫もにっこり笑った。

下弦の月は三日月にも望月にもなれる。もしかしたら月以外のものにもなれるかもしれない。
そんな可能性を秘めた月。

しげさんは
孫の頭を撫でる。
まるで愛すべき余白がそこに存在しているかのように。


月は縁側のしげさんと孫のやり取りを楽しむように照らしていた。自分が月以外の何かになれるかもしれない。そんな想いに心ときめかせながら。

しげさんは今日も月を見上げる。

欠けた部分を

見えないだけで
実際には存在する部分を

孫の未来に想いを馳せながら。

 


第4章  しげさんが動物を 
   飼えない理由がある
 
 
 

しげさんは近所の人たちに動物好きで知られている。

庭に来る雀にパンくずをやったり、迷い込んだ猫にご飯を食べさせたりする。

そして
美味しそうに食べる姿に目を細める。
しかし、自分では決して飼わない。

なぜだろう。あんなに好きなら飼えばいいのに。

実は
しげさんにも理由がわからなかった。飼おうと思ったこともあるが、なぜか直前で思考が停止する。自分自身でも不思議であった。

ある時

しげさんは畑仕事をしていた。土を耕しながら、その端っこまで行ったとき「あっ」と思い出したことがあった。そこには、シロツメクサが生えていた。

私がコロシタ。

頭の中で
この言葉が繰り返された。

猫を私がコロシタ。

言葉はさらに大きくなって
頭が痛くなるほどたった。それはどんどんひどくなり、ついにしげさんは座り込んだ。

思い出したのだ。

幼い頃、しげさんは両親に「動物を飼って」と頼んだことがあった。しかし、責任がもてないという理由で許してもらえなかった。

ある時
捨て猫を見つけた。
動物が飼える! こう思った。
迷いはなかった。

両親に隠れて飼うことにした。猫は可愛くて可愛くて、しげさんは食べ物を家から持ち出して、せっせっと運んだ。

しかし
別れは突然きた。

いつもように
家から食べ物を持ち出して、猫のところに行ったしげさんは愕然とした。

動かない猫
冷たくなった猫
鳴かない猫
もう自分の手を舐めることはなかった。

まだ子どもだったしげさんは
呆然とそこに立ちつくした。
殺してしまったという冷たい罪悪感で自分が恐ろしかった。

ただ可愛い。
飼いたい。
それだけの身勝手さで猫を殺してしまった。

しげさんを探しに来た両親が畑の隅に猫の墓を作って埋めた。
土の上にはシロツメクサが飾られた。

私がコロシタ。

やがて

その記憶は潜在意識となって
動物を飼うときのしげさんの心のブレーキとなっていたのだ。
それは後に
戦死した仲間の死とも重なった。

私には命を育む資格がない。
そう思い込んだのかもしれない。

しげさんはシロツメクサを摘んだ。そして畑の隅にぱらぱらと蒔いた。白い花びらは風花のように舞い落ちた。

それから
しげさんは土の表面を撫でた。
まるで
その時の猫を供養するように。
そおっと。そおっと。


中途半端な優しさは優しさじゃない。
そう呟きながら。


しげさんは動物を飼わない。

でも
動物に対して
十分に優しいし、命を大事にしている。

しげさん
そろそろ自分を
許してもいいんじゃない?



第5章 思春期の孫が将来
   に迷ったときには


思春期に入った孫が
久しぶりに訪ねてきた。
最近は孫の対応に
ちょっとばかり
苦労しているしげさん


「学校は楽しいかぁ~? 」
「ふつー」

「今は学校で何が流行っとるんだ? 」
「別に」

「今度一緒に買い物いくか? 」
「大丈夫」

「勉強はどうだ? 」
「やばい」

会話らしい会話にならない。

それでもにこにこしている。孫と話せることが嬉しいからだ。

その孫が珍しく質問した。
「じいちゃん、子どものときに何になりたかった? 」
少し深刻そうな表情である。

「ん?ほうだなぁ」

しげさんは考え込んだ。子ども時代は戦争の真っ只中だった。夢も希望ももてなかった。

胸がチクリと痛む。

戦死した仲間の顔が浮かぶ。
父、叔父、1番上の兄。
顔、顔、顔、、、。

みんな戦争で亡くなった。

「何も望まん。生きていればよかった」

「なんだよ。それ」
アドバイスをもらえなかった孫は不満顔だ。
でも、しげさんはそれには構わず
こう続けた。

「好きなことをやればいい。お前が楽しいと思うことをやればいい」

孫の質問は自分の将来への不安や焦りからの質問だ。

今は手が届かないと思われても、懸命に努力すれば、可能性は後からついてくる。大事なことは自分の未来を信じることだ。
それを伝えたかった。


夢は朧気でもいい。
完全な形でなくていい。
いびつでいいんだ。

動いているうちに
見つかることがある。

でも
きっと見つかるし、実現する。
そう
自分を信じることだ。

「何をしてるときが楽しい気持ちになる? 」
しげさんに聞かれても孫は黙っていた。

その代わり
学校から持って帰った進路の希望調査の紙をくしゃっと握りしめた。

自分が楽しいと感じることはなんだろう。

自分の心と向き合う。

サッカー

心に浮かんだ。仲間とサッカーをしてるときが1番楽しい。サッカーのない高校生活は考えられない。そう思えた。苦しいことがあってもサッカーが自分を支えてくれる。サッカーがなかったら自分ではなくなる気がする。

帰ったら
高校のサッカー部の様子を検索してみようか。
入りたい学校への強い思いが学力にも影響するに違いない。


「じいちゃん、ありがとう」

「なんもしとらんよ」

「うん。でもありがとう」

ぼそっと言って、孫は帰って行った。

しげさんは
お茶を一口ずずっとすすった。

孫の「ありがとう」の言葉でしげさんの心はぽかぽかだ。
 



第6章  しげさん愛につい
    てを考える


ちゅんちゅんと
外で雀の声がする。
家の中に
入ってくる陽ざしが柔らかい。

今日という日が始まる。

しげさんはゆっくり布団から抜け出した。
新聞受けを覗きに行く。
新聞はもうない。
婆さんが抜き取ったからだ。

台所からは
味噌汁の匂いがしている。
椅子に腰かけると黙っていても
いつもの朝ご飯が出てくる。
新聞もだ。

ご飯と味噌汁、サラダと佃煮。
そして梅干し一粒。

だいたいこんな感じだ。

しげさんは上手そうに味噌汁を啜る。決して贅沢ではないが満足だ。最後に手をつけるのは梅干し。
婆さんと一緒になって、70年近く。毎日梅干しを食らう。

「健康のために毎朝、梅干しを食べるとよい。」

新婚当時にしげさんが言った一言を婆さんは律儀に守り続けている。その言葉の根拠はなかった。
そんな気がしたたけだ。

実は

しげさんはそんなに梅干しが好きではなかった。70年間も食べているといい加減嫌になっていた。

でも
それを口に出すことはなかった。

婆さんに対する不満は滅多に口にしない。夫婦が上手くいくコツだと思っている。

梅干しは婆さんの愛情だ。
しげさんはそう受け止めている。
だから
黙って食う。

愛とはなんだろう。

愛することは自分を幸せにも不幸せにもする。
愛にはそれだけのパワーが秘められている。

しげさんに難しいことはわからない。
でも
婆さんがいないと何もできない。
それに
自分の健康を気遣ってくれる人がいる。それは喜びだ。

愛は感謝だな。

しげさんは呟いた。



第7章 しげさん記憶を失う


 
一度壊れた記憶という小箱は
もうもとには戻らないのだろうか。

記憶にこびりついていた悲しみはもうない。
その代わり喜びも失くしてしまった。
その日は突然きた。

しげさんは青春を旅している。

少年のような無邪気な笑顔で
記憶の迷路にさ迷っている。


初めまして。

婆さんに対してしげさんはそんな挨拶する。人懐っこい笑顔で。

婆さんは少し悲しそうに
それでも笑顔で答える。

「初めまして。気分はどう? 」

しげさんの記憶の小箱は
畑仕事の時に
転んで壊れて
もとに戻らない。

でも
婆さんが見あたらないと
しげさんはその姿を探す。
無意識に。

婆さんは
「私を忘れるなんて、許せない。
どこまでもつきまとってやる」

ぷりぷりしながら
今日もご飯の準備をする。
そして
食卓には梅干しを乗せる。

しげさんは
梅干しを見て
ちょっとだけ嫌な顔をするが
黙って食べている。

婆さんの愛情の証の梅干し。

婆さんは
しげさんに話しかける。
新しい記憶を一緒に紡ぐように。
また
一からやり直し。

「おじいさんと記憶のパズル合わせをしているよう」

こんなことを呟きながら
婆さんはしげさんに寄り添う。
そんな
婆さんにしげさんは無邪気な笑顔を向ける。

どなたですか?
初めまして。よろしくね。


第8章 
最強のヒーローしげさんは永遠に生き続ける



 ヒーローというと誰を思い浮かべるだろう。

しげさんが亡くなって半年が過ぎた。記憶のパズルは完成しないまま旅立った。
安らかな最後だった。
婆さんも娘たちも
その最期を看取ることはできなかった。

しげさんは
生前
娘たちにとって
へなちょこな父親だった。

会社からリストラされる。
自分の娘にすら言いたいことをはっきり言えず、馬鹿にされていた。
ある時は
娘の入浴を覗いたチカンを追っかけて、「待て~」と勢いよく飛び出したはいいものの、たちまち引き離されて
「ごめん」と
情けない顔で戻ってきた。まったく頼りにならない。


しかし 
亡くなって1年経った今
しげさんは
最強のヒーローとして娘の心に甦った。
ヒーローとはなんだろう。

他の人より
秀でた力があって
その力で困っている人を救う。
それがヒーローだ。
特別な武器や
特殊な力はなくても
人々を救う方法はある。

しげさんの優しさは
他の人より秀でていた。
その力で
じんわりと時間をかけて
人の心に入り込み
やがて癒すのだ。
それは
最強のアイテムではないか。

しげさんは病に負けて
亡くなった。
へなちょこらしく
ひっそりと誰にも看取られずに
亡くなった。

その最期に
家族の誰も間に合わなかった。

身内だけの
静かな静かな葬儀。
しげさんの遺影がにこにこと
笑いかけていた。

しかし
月日が経つにつれ
その存在が人々の心の中で
徐々に大きくなっている。

笑顔でいればいい
笑顔でいさえすれば幸せになれる

このしげさんの口癖が
娘たちの支えになった。
しげさんの話題で
家族が元気づけられた。
しげさんの思い出は
しげさんを知る人を癒している。
心に生き続けて
時間が経てば経つほど
その存在が大きくなっている。

しげさんは
へなちょこからヒーローとして甦った。
そして今も生き続けている。
その生き方は
地味で
へなちょこで
頼りないけれど

それでも
やっぱり
しげさんはヒーローなのだ。

娘は呟く。
「私はお父さんのような生き方はしない。もっと刺激的な人生で、挑戦もたくさんしたい」
そして
仏壇に手を合わせる。心の中でこう言いながら。

笑っていればいい
笑っていれば幸せになれる
お父さん
私は幸せだよ

すると
しげさんの遺影は
さらににこにこ笑顔

こんなヒーローが
いてもいい。



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