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food skole 第5回目のメモ

写真は「乳牛の有機農場で働いている農夫」です。この写真を見て「いい写真だ」と感じるか、それとも「ある部分」に目が行くのか。おそらくその気づきが、私たち消費者としての「行動を変えるための鍵」なのかもしれません。

第5回目の講師は、なかほら牧場の牧場長中洞正さん。
テーマは「見える畜産。」

今回は、牛乳やお肉はどこから来るのか、畜産について知ることから考えます。以下は講義のお話を聞きながら、思ったことや考えたことを中心にまとめています。今回はSDGsを飛び越えて、私の中で非常に悶々としたものが残りました。

牛乳は馴染み深い、では牛の姿は?

日本に牛乳が入ってきたのは大化の改新の頃。天皇に献上された超高級品。

日本で最古の医術書『医心方』には、「牛乳は全身の衰弱を補い、通じを良くし、皮膚を滑らかに美しくする」と古代乳製品の効用と解説が記されている。
「日本の牛乳の歴史」一般社団法人Jミルクより引用

戦前、牛乳を毎日飲めたのは酪農をしている人たち、つまり牛の世話をしている人たちくらいだった。戦後、文部科学省が定めた学校給食法施行規則によって給食で牛乳が提供されるようになり、一般的な飲み物になった

今でも給食では牛乳が提供されている。子どもたちは毎日牛乳を飲む。子どもたちのカルシウム補給が主な目的でもある。牛乳を飲み慣れた日本人は大人になっても牛乳を飲む。料理にも使う。

では、その牛乳を提供してくれている牛たちの姿を私たちは見ているだろうか。どんな生活をしているか、知っているだろうか

牛乳パックのデザインは、青空の下、青々とした草原に佇む牛の姿。広大な牧場があって、そこで牛がのんびり過ごしている、そんなイメージ。昔は日本の各地でも牧場に、山に、あちこちに牛の姿があった。

今、牛の姿は、牧場には、ほとんどない。

牛はどこにいるのか

今、日本の牛乳を提供してくれている大半の牛は牛舎にいる。表紙の写真のような牛舎だ。牛舎で牛は人から餌をもらい、牛のした糞尿を人が片づけ、搾乳の時間には機械が牛から乳を絞る。

表紙の写真。もう一度、見て欲しい。

牛の目の前には、餌として与えられた干し草らしきものが見える。これがきっと、有機栽培なのだろう。牛はこの餌を食べるのだろう。だから有機農場。有機農場で作られた牛乳は有機というラベルで売られているのかもしれない。

もう一度、写真を見て欲しい。

気が付いただろうか。

なぜ、牛に金属の鎖の首輪がついているのだろうか。

牛に鎖の首輪をつけるということは、牛がここから動かないようにするためだ。ということは、ここが牛の生活の場所である。ここで食事を取り、うんちもおしっこもする。

見せられない畜産

鎖で繋がれて、体を動かすこともできず、食事と排泄の場所が同じ。

これを「つなぎ牛舎」という。牛たちは、生まれた瞬間から母親と離され、母親の乳房から乳を飲もことも許されず、屠殺されるまで繋がれたまま。やっと鎖やロープから自由になるときは、屠殺の時。

牛の体も糞まみれ。それはそうだ、だって動けないのだから。その場でうんちもおしっこもするしかない。その体に搾乳機を取り付ける。牛乳の中に糞が入らないわけがない。

表紙の写真は、まだいい方なのかもしれない。牛のツノが切り落とされていない。鼻輪もつけられていない。

鎖で繋がれて体を自由に動かすことができず、餌とトイレが一緒の状態で、さらにはたくさん乳が出るように、計画的に妊娠させられて。そういう牛たちが頑張って出した牛乳。

それもこれも、日々大量に消費される牛乳を安定して提供するには、生産ラインを工業化するしかない。「牛乳」という工業製品を作っているのが日本の現実またここで「工業製品」が出た!ワインも同じ、教育も同じ)。

自然界の牛の寿命は15年くらい、長いと20年くらい生きるそうだ。つなぎ牛舎の牛たちの寿命は、5年くらいだそうだ。なぜこんなに短命なのか。それは、健康ではないからだ。健康ではない牛が頑張って出した牛乳を、私たちは「美味しい」「体に良いから」と言って飲んでいる。

見せられる畜産=山地酪農

中洞さんが実践しているのが「山地酪農」。

なかほら牧場は『山地(やまち)酪農』。ウシは一年を通して山で自由に過ごし、
太陽と月と雨と土中のバクテリアの力だけで育つ野シバや木の葉を食べて暮らします。
草食のウシを、ちゃんと草で育てます(※)。
繁殖も『自然交配・自然分娩・母乳哺育(生後2ヵ月程度)』。
動物の食性と行動を維持することは、私たちがいのちを分けてもらっている家畜を健やかに育てるうえで、つまり、人びとの健康をまもるために欠かせないことだからです。
※粉砕焙煎大豆・圧片小麦・雑穀ぬか等、搾乳時のおやつを除く(冬期の飼料は無農薬の自家採草サイレージまたは国産乾草)。(なかほら牧場HPより引用

中洞さんの牛飼い歴史は、「しあわせの牛乳」という本の中で詳しく知ることができる。なかほら牧場を始めた当初、牛乳を一件一軒宅配した。日本の酪農の実情を知ってもらうために手書きの牧場新聞を発行して牛乳と一緒に配達した。そんな牛乳は、クチコミで広がっていった。

なかほら牧場の牛たちは、「本来行動」が保障されている。広い山で一年中、春夏秋冬、昼も夜も山で過ごし、食事・睡眠・排泄はもちろん、交配・分娩・哺育までを全部、牛が自由に行う。

山に牛が入ると、背の高い草も下草も牛に食べられたり踏みつけられたりして淘汰される。その後に生えてくるのは、生命力のつよい日本の古来種でもある野シバ。野シバの根は横にドンドン広がり、20~30センチにもなるつよい根っこのマットを作る。これが土をしっかりと抱え込んで、水をたっぷり蓄える。

山地酪農は、水源地として山を守る。シバで覆われた山は、多少の大雨でも崩れない。牛たちが自由に生きることで、自然災害に強い山が出来上がる(河北新聞)

日本の国土の7割は山地だ。欧州でも山地酪農に力を入れていて、例えば、牛が作り出すスイスの景観は我々でも頭に思い浮かべることができるくらい有名。観光客を呼び、外貨を稼ぐ。でも、日本の方がはるかに条件はいいはずだ、と中洞さんは言う。

牧場の「牧」は「牛を離すところ」。酪農の「酪」は「薬として入ってきた乳製品」。そんな牛たちから「お裾分けしていただく」牛乳。オンラインで購入することも可能。注文受付のメールが、また、すごく良い。

「この度は数あるネットショップの中から当店をご利用いただき、スタッフ一同・ウシ一同。大変嬉しく思います!」
「スタッフ一同・ウシ一同、発送に向けて準備をしておりますので、大変恐縮ですが、今しばらくお待ちいただければ幸いです。」

なぜか、このメールの文面だけでも、牛乳の後ろにいる「牛たち」の姿が見える。なんたって、子牛を育てるためのお乳を我々人間がお裾分けしていただいているのだから、牛たちの都合を待つべきである。「待つ!待つ!」と言いたくなる。

中洞さんは1000年続くような酪農を目指し、それを信じて実践している。そして、それに注目し始めた世の中があるだけで、中洞さん自体はSDGsもサスティナブルも、多分意識にはなかったんだと思う。たまたま、その時代の人が、第三者的な視点でその実践を見て「SDGsだ」「サスティナブルだ」と言い出しただけなんだと思う。

もし子どもたちが「知りたい」と調べ始めたら

給食で提供される牛乳。こどもたちは、毎日飲む。その牛乳は「どんな牛が」「どんな状況で」生み出したものなのだろう。現場の教員や保護者が、今の酪農の実情を知っているかというと、おそらく、全く知らない

知らないのに、「栄養価が高い」と言って子どもたちに飲ませる。科学者は論文等で(短命の牛のことはさて置き)牛乳の栄養素を取り上げているが、本来の寿命の半分も生きられない牛から出た牛乳は、果たして本当に体に良いのだろうか

今はオンラインで様々な情報にアクセスできるようになった。子どもたちが大好きな牛乳について「もっと知りたい」と思った時、情報を得ようとするだろう。実際に牛乳が作られる現場を、見たいと思うだろう

以前は、家畜伝染病予防(鳥インフルエンザ、豚熱、家畜伝染病への恐れ)から、一般人は畜産を直接見ることはできなかった。消費者を情報から遠ざけ、今何が行われているのか、情報を得られない仕組みだった。

でも、今はZoomがある。YouTubeがある。直接外部の人が入らなくても、内部の人がいくらでも情報を発信できる手段が整っている。子どもたちが「見たい」と言った時に、それを配信できる技術が整っている。

子どもが「現場を見たい」と言ったとき、牛たちの姿を見せてくれるのだろうか。

私は、是非、見せて欲しいと思う。いろんな事情があったとしても、是非、現実を見せて欲しいと思う。中洞さんは見せてくれる。なんなら、見学も許してくれる。見せてOKな畜産と、見せない畜産。どちらの方が、信じられるのだろうか。

これからは、消費者の力が世の中を変える。今までは得られなかった情報を、消費者が得られるような仕組みになった。何が正しいか、正しくないか、消費者が判断できるようになった。

何か、私たちに染み付いているもの。何か、「当たり前」という名前で、いつの間にか染み付いてしまったもの

今、価値観の多様化、選択肢があるという強みを感じられる時代になりつつある。消費者が動くことで、工業的な商品が本来の姿に戻り、ストーリーを持ち、生き生きとした生々しい物語を語り出す

私たち消費者は、能動的に情報を得ていく姿勢が大切なのだと思う。表紙の写真を見て「おや?」と思えるような。「何か、おかしい」と思うような。そのためには様々な情報に自分から接して、突っ込んでいくしかない。情報リテラシー、本当に大事。

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