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『新版 20週俳句入門』を村上春樹とかけ合わせて読む 第16-20週

第16週 あるレベルに達した

事実のみにこだわっていたら、名句はそうそうできるものではない。過去の体験をあれこれよびさまして状況設定をよりよくして、「ありうべき」嘘をつく。そして現実感を一層高めることを、考えて下さい。

藤田 湘子『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版、2010年)p.193

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本当のリアリティっていうのは、リアリティを超えたものなんです。事実をリアルに書いただけでは、本当のリアリティにはならない。もう一段差し込みのあるリアリティにしなくちゃいけない。それがフィクションです。

川上 未映子、村上 春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』(新潮社、2017年)p.37

以前の季語考察記事でも同じ言葉を引用したが、そうだよなあと思う。


使い古された形容です。こうした日常よく使われる既成の表現を安易に取り込むと、俳句はずいぶん俗っぽくなるんですよ。そういった言葉を、(中略)手垢でギラギラしたものと考えて頂きたい。要は「自分の言葉で」です。

藤田 湘子『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版、2010年)p.195

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スコットフィッツジェラルドが娘にあてた手紙に「人と違うことを語りたければ、人と違う言葉で語りなさい」と書いています。これは僕の座右の銘になっています。

https://twitter.com/EssentialWord1/status/1541722617220321280

人と違うことを詠みたければ、人と違う言葉で詠みなさい。

第17週 「俳句は切字響きけり」

「はつあらし」という季語と「佐渡より味噌のとゞきけり」というフレーズのあいだには、表面的にはなんの脈絡もない。(中略)が、そうは言うものの、この両者のあいだにはかすかなひびき合いが感じられる。初嵐は秋の到来を思わせるが、これからさわやかな季節になれば、味噌汁や味噌を用いた食べものも、またうまくなるだろうという期待感も生まれる。そんな目に見えぬ糸が二つのあいだにピンと張って、ひびいているのである。(中略)一読してわからなくても、再読三読するうちに、そのかすかな糸のひびきが聞こえてくると思う。

藤田 湘子『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版、2010年)p.203

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さっき言った比喩と同じで、一番適当なものがすっと来てくれないとしょうがないですよね。というか、呼び寄せないといけないんです、いろんなことを。ものを書くっていうのは、とにかくこっちにものごとを呼び寄せることだから。 イタコなんかと同じで、集中していると、いろんなものがこっちの身体にぴたぴたくっついてくるんです。磁石が鉄片を集めるみたいに。その磁力=集中力をどれだけ持続できるかというのが勝負になります。

川上 未映子、村上 春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』(新潮社、2017年)p.26

集中して糸を手繰り寄せたい。

第18週 俳句を上手に作る法

季語のほうを見て作句するな。季語のこころでほかのものを見よ。

藤田 湘子『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版、2010年)p.216

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自分自身について書くのは不可能ではあっても、たとえば牡蠣フライについて原稿用紙4枚以内で書くことは可能ですよね。だったら牡蠣フライについて書かれてみてはいかがでしょうか。あなたが牡蠣フライを書くことで、そこにはあなたと牡蠣フライとのあいだの相関関係や距離感が、自動的に表現されることになります。それはすなわち、突き詰めていけば、あなた自身について書くことでもあります。それが僕のいわゆる『牡蠣フライ理論』です。

村上 春樹『雑文集』(新潮社、2011年)p.22

季語「で」表現したい。

第19週 「をり」「なり」「たり」

迷ったときは、こうして四とおりの句を書いて机上におき、朝夕暗唱すればおのずから自分の意にかなった下五が選べる。それを手抜きして、「まあこのへんで」となどと妥協してしまったら、いい句はのぞめないし、何よりも自分が可哀そうでしょう。俳句は韻文である、リズムがあると言って、私が朗誦を重んずるゆえんは、こういうところにあるのです。

藤田 湘子『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版、2010年)p.216

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新しい書き手が出てきて、この人は残るか、あるいは遠からず消えていくのかというのは、その人の書く文章にリズム感があるかどうかで、だいたい見分けられます。言葉、センテンス、パラグラフ、硬軟・軽重、均衡と不均衡、句読点、トーンの組み合わせによってリズムが出てきます。音楽と同じです。

https://twitter.com/EssentialWord1/status/1482034414775578627

俳句のリズムは、あらゆる面のバランスによって生み出されるところがありそうだ。

第20週 これからの勉強法

なるべく短期間に「俳句を作る」実技に馴染んでもらい、そのよろこびを知り、ひとりでも多くの人が、俳句とともに生きるたのしさを知って欲しいと思ってきた。

藤田 湘子『新版 20週俳句入門』(角川学芸出版、2010年)p.246

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僕は文章を書くのが好きなんです、結局。いつも文章のことを考えている。いつも何かしらの文章を書いている。いつもいろんなことを少しずつ試している。文章というツールが自分の手の中にあるだけですごくハッピーだし、そのツールのいろんな可能性を試してみたいんです。せっかくそういうものを手に入れたんだから。

川上 未映子、村上 春樹『みみずくは黄昏に飛びたつ』(新潮社、2017年)p.192

俳句というツールのいろんな可能性をハッピーに試そう。


以上、『新版 20週俳句入門』× 村上春樹でした!


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