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三島由紀夫「月澹荘綺譚」

※性暴力の描写が出てきます。




星で表すなら3.2/5。

「三島文学」といえば、作者三島のガチガチの文体が思いつく。「金閣寺」のような。
しかし、この「月澹荘綺譚」は三島由紀夫40歳、1965年の作品だ。

この時期の三島の作品は、緩い。かつての彼なら最後まできっちり握って曲げた変化球が、この時期はポロッとこぼれる。

短編「三熊野詣」から「朝の純愛」、「孔雀」、そしてこの「月澹荘綺譚」は全て、「美しい過去と、醜い現在」の対比が主題となる、三島の連作。
4作品は全て、「希望は過去にしかない」―諦めや虚しさが前面に出てきている。

「月澹荘綺譚」のあらすじ。

まず、この「月澹荘」という聞き慣れない名前は「唐の呉子華」の『月澹(あは)ク煙沈ミ暑気清シ』といふ七言絶句」から取られているそう。暮方の空を描いているらしい。

この「月澹荘」で起きた「綺譚」を、勝造老人が「私」に語るのがあらまし。

勝造老人の主人、照茂候爵はいびつな性愛者だった。彼は何もかも「ただ、じつと静かに見て、たのしんでゐる」。彼は勝造老人に君江という白痴(発達障がい)の娘をレイプさせる。妻とは「一度も、夫婦の契りをしたことは」なく、「ただ、すみずみまで、熱心に御覧になるだけ」だった。
照茂候爵は勝造が君江をレイプする姿を「澄んだお目で(略)眺め」る。
最後、彼は君江によって殺される。
「両眼がゑぐられて、そのうつろに夏茱萸の実がぎっしり詰め」こまれて(君江はレイプされる直前夏茱萸を摘んでいた)。

感想として、かなり暴力的な作品だと思う。照茂候爵の描写に、筆者は村上春樹氏の「悪」―ワタヤノボルに代表される―を連想した。
発達障がいの娘を勝造にレイプさせる候爵の姿は、限りない「悪」だ。

三島はこの作品で何を言おうとしたのか。三島の「表現」を食い破るように、「弱者に対する権力者の(性的)暴力」は残酷だ。
「月澹荘綺譚」は作中の出来事を、作者三島がコントロールしきれていない印象を受ける。
しかし、無意識にしろ三島という作家にこういう暴力性を書ける領域があったというのは、難しい言い方だが、興味深い。

(追記)候爵の目は、もし言うなら(冷酷な)「神」の目だろうか。しかし生身の人間が神になれる訳もない。「澄んだお目」の後ろにある、候爵の心の醜さを考える。
また別に、小説の作りが伝聞形式であることで筆者は村上春樹氏の作品を連想した(「ねじまき鳥クロニクル」の間宮中尉の話など)。



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