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坂口安吾風ショートショート(仮)

 君は見合い写真のことで悩んでいるそうじゃないか。

 石神井の小便くさい公園で撮ろうが、その名を世界に轟かすビルヂングの前でボオズして撮ろうが、切り取って残せた自分は同じ一瞬だよ。其処に価値の違いなんざ在るもんか。どちらも丁寧に仕舞って残すべき大切なものです。
 然しまァ、君も知っての通り、重宝されるのは決まって世界のビルヂング。其処には当然、写真が所有する情報量に違いがあるからね。物言わぬオオチャクモノにとって、物言う写真はこの上ない戦利品てわけ。待て待て、何だい君は、先刻から随分と不貞腐れた顔をしているぞ。そうか、余がその公園を小便臭いと言ったことに腹を立てたんだな。

 悪かったね。お詫びに一つ、君に話をしてやろう。

 余を慕ってかは知らないが、家へ来る若い連中は多い。その中に、何時も四人一緒にやって来ては、又四人一緒に帰ってゆく変なのがいるんだが、四人組は自分達に変な呼称を用いていてね。
 先日、やけに神妙な顔をしてやがるもんだから、余は『借銭なら願い下げだよ』と言った。すると奴ら、何を言い出すのかと思えば『ナンバーガールと発しやす』だってさ。余は笑い転げて、歯が痛いのに腹まで痛い。まぁそれは捨て置くとしてだ。君に教えてあげたいことは、そのナンバァ某の一人、向井という青年の言葉だ。彼はしきりにこう、ややもすればずれ落ちる眼鏡を、中指で抑えては上げながらこう言ったよ。

『日常をただ普通に生きること、俺は正しいと思います』

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