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感想

ふらりと立ち寄った器屋さんの店主と仲良くなり、そこで買った大分県日田市の山あいにある、皿山地区で作成されている小鹿田焼【おんたやき】という器を買ったことで、小鹿田焼が好きになった。
たまにそのお店に立ち寄り、店主と話していると一つの本が面白いし、それを読んでみたらとお薦めされた作品がある。

原田マハ 『リーチ先生』

マハさんが描いた陶工に情熱を燃やし、多くの仲間と交友を交わしながら日英の架け橋にもなったバーナード・リーチと小鹿田焼きの里で出会った高市と、その父である亀乃助を中心にして描かれた物語。自分の拙い文章で、偶然にも出会ったこの本の素晴らしさを伝えきれるか分からないが、noteで書き記してみたい。

作品を通しての感想

先ず冒頭は小鹿田焼きの里、日田の皿山にバーナード・リーチが訪れるという場面から始まる。そこで出会った青年高市とリーチ先生とのやり取りから始まる陶工、そしてその仲間たちが中心となった物語。仲間たちといっても柳宗悦や浜田庄司や河井寛次郎、富本憲吉といった後世に名を残す陶芸家や芸術家が多い。そう…、はっきり言って凄い人達が多いのである。それは現代にも続く、民芸運動の先駆けともいえる人達の起点とも言える時代の話が始まりだからではないだろうか。主人公となる亀之助やリーチ先生とのやり取り、そして仲間達との芸術を通しての、作品を通しての情熱が胸を熱くさせる。自分で何かを創作することや、自分を通して世の中に何かを訴えかける、いわばゼロから一を、物事を創造する人間達のエネルギーや情熱をひしひしと感じる。そう、それが故に衝突する場面もしばしば描かれる。その中でリーチや柳宗悦の衝突も描かれている。この芸術家同士の衝突も中々見応えのある一つ、柳の性格の激しさや、目に触れるものや、手に取るものに対する独特の美意識の高さが伺える。そんな柳を河井寛次郎が評した詩がある。河井著書のエッセイ『火の誓い』にある

人に灯ともす人 人の灯明に灯ともす人
道を歩かない人 歩いたあとが道になる人

火の誓い 74ページより

人に灯を灯す人、歩いたあとが道になる人、これはまさしくゼロから一を築く人間に対しての最大限の賛辞の言葉ではないのだろうか。そして、リーチ先生、人間的な温かみを携え、亀之助の才能を、そして作陶を導くことになる存在、リーチの作陶に対する熱意も克明に描かれている。その作陶に対しての事で、リーチ自身が描いた著書『陶工の本』という本にリーチ自身が身に着つけた技術や知識の事が克明に描かれている。まだこの本を読了していないが…。何せ情報量が凄い!

さて、作品を通しての全体の感想…。少し気恥ずかしいが、そして表現が適当かどうか分からないが、一言で言い現わすと『愛』なのではないかと思う。何が愛なのか…。それは人間愛だったり、芸術への愛、それ故の譲れぬ衝突、故郷への愛、作陶への愛、そして亀之助とシンシアのお互いを思う愛が故の別れなど愛を作品を通してひしひしと感じてくる。それは自分が器が好きだという事もあるかもしれないが…。何回愛といっただろう(笑) もし気を悪くした方がいるなら申し訳ない。ただ、それだけ愛にあふれ最後まで読んでいて清々しい気持ちになった良い作品!

終わりに


それだけ作品を通して「愛」を感じた事に関して、全て読んだ感想によるものだが、作品の冒頭のプロローグの場面に高市を描いたこんな場面がある。

鍬を高く振り上げて、思い切り落とす。ざくっと乾いた土の音がする。時折、目が覚めるような緑色のアマガエルが飛び出し、ミミズがのた打ちながら逃げ出していく。高市は、そのつど、小さな命の上に鍬の刃を落とさぬようにと手を休める。

リーチ先生 7ページより

本当に序文の一部、ただこれが作品全体の印象に良い意味でのフックになっているのではないかと感じる。これはあくまで自分の感想なので悪しからず…。畑仕事にじっくりと取り組んだ事がないので迂闊なことは言えない。ひょっとしたらミミズなどに鍬を落とす事によって作業が面倒くさい事になるから、敢えて落とさない、そんな理由なのかもしれない。だけどその小さな命をも大切にする行動、この時の高市にその事に対してどこまでの考えがあったか分からないが、この行動が『愛』という印象にフックをかけているような気がしてならない。その行いが一陶工としての修行での行いでもあり、その後に作陶や人間に対する愛はこういうところにも表れているのではないのだろうかと感じる。

最後にこの作品に巡り会えた事の感謝、そしてマハさんの作品をもっと読んでみたいし、民芸や器の勉強をもっとしたいと得ることの多かった作品。自分の文章でその魅力が伝わったかどうか分からないが、noteに書き記してみた!

記事を最後まで読んで頂きありがとうございます!




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