見出し画像

デザインコンセプト作り

動機と意匠とコンセプト

コンセプトってよく言うけど分かりやすく言うと結局何なの?って言われると実は困る。
当たり前に使い過ぎているから余計、改めて説明を求められると言葉に詰まる類い。
まずは「デザイン」という言葉を考えてみよう。
日本語で「意匠」って言ってしまうと一昔前は、「意匠もデザインの構成要素の一つだから的確では無い」となっていた。
数年前、オリピックのロゴ問題で注目が集まった知財保護の観点から商標権、意匠権などデザインを差す日本語として法的な観点から「意匠」として取り扱うのが適切になりつつある。
と、そう掘り下げずとも良さそうな「意匠」という言葉。個人的には、デザインを考える際には重視するポイント。
デザインを進めるためのコンセプトを作る段階で、自分は以下のような3ステップを考えている。

1.Why:作る動機
2.How:意匠選定
3.What:コンセプト建て

コンセプト作りの3ステップ

1.Why:作る動機(付け)

コンセプト自体が Why だと思わるだろうが自分はちょっと違う考え方。
コンセプト、それ自体は誰かに説明するための出力(結果)と考えるようにしている。
それは、そのプロダクトを作る動機(Why:なぜ作るの?)が無いと考えられないから。
今、その作品を作る意義(開発の意義も含めて)は何か?
この作品の物語り、世界観や達成したい表現でユーザーにどんな価値を感じて貰いたいのか?
それが世に出ることが、どんな意味を持つのか?
と視覚的な枠に限定せずにまずは言葉で、そこに内在する「作る動機」を考えるところがスタート。
次に「作る動機」から抽出した要素とどんな意匠の組み合わせが「理にかなった」デザインになりそうか?を考えて行く。
そのプロダクトを作る動機、世の中に何を訴求するのか?に沿った意匠と組み合わさることで「理にかなった」ものとして強みを持たせられるのがデザイン力の見せ所。
2W1HだとWhyが大事なのは変わらないが、視覚デザインの妙は意外とHowにあったりする。


2.How:意匠選定

世界観(場所、時代、文化、様式など)、物語りのキーになるワード、その作品固有の鍵となる意匠の選定をして行く。
この段階で目ぼしい物が何も出て来ない…って場合も少なくないので、その時は使えるワードで連想ゲームをしてみたりする。
静止画だけで考えず、それを動かした時にどんな印象が出せそうか?という「モーションデザイン※」として考える。やっぱりユーザーが動かせるものを作るわけだし、演出面は特に時間軸なしには考えにくい。
ここで何を選定できるか?が先の成果物の良し悪しを左右したりするので時間の許す限り模索するしか無い。
※モーションデザイン・・・後半で例を見つつ説明します


3.What:コンセプト建て

  1. は主に言葉2.でキーデザインが出たらそれらを説明できる形に組み建てて行く。自分はこの段階を「コンセプト建て」と呼んでいる。

最初は大筋の方向性が説明できればOK(制作期間によるが)。その後も反復的に1~3を詰めて行くことになるので、徐々に具体化されて行くはず。
ココのステップについては、実例としてコンセプトシートの説明で触れたい。
ゲーム上のデザインコンセプト(一般論ではなく、自分の経験則に基く)
は、ファインアート、広告分野のクリエイティブや映画、アニメなどの映像分野とも似て非なるもの。
一番近しいものは ”モーションデザイン” と考えている。
言葉としては一時、モーショングラフィックなどVJとかDV(DigitalVideo)の出始めに流行ったものに近い。
モーショングラフィックは、リリックビデオなど最近のMVのような細かいテンポとグラフィックの連動に派生して行き、もう一方のモーションデザインは洗練されて映像に留まらずインターフェイスなどインタラクティブ方面にも広がって来ている。


モーションデザインって何?

前項の2.に登場したモーションデザインについての補足。
カイル・クーパーと Inaginary ForcesPrologue Films の仕事を見て貰うと分かりやすい。
古くはソール・バス が作った映画のタイトルシークエンスがあったが、映画とは独立した動くグラフィックとして今もファンは多い。
カイル・クーパーは、これをさらに映画の一部、映画本編では語られない空白を語るようなモーションデザインに昇華させた。
モーションデザイン、意匠を語る上でカイル・クーパーの作品群は凄く分かりやすいので代表的な例を ↓ に挙げる。

SEVEN

中でも映画「SEVEN」のオープニング、エンディングシークエンスは、その後の映画、CM、MVなど映像全般からゲーム分野まで大きな影響を与えた。
観て貰えば分かる通り、映画の一部としてオープニングの役割りは果たしながらも本編でも語られないジョン・ドゥの性格や異様な生態に加え、後で分かる本編のヒントを散りばめたサブリミナル的な映像の断片、書体、プリント後のフィルムに手の込んだ加工をしていたり。
単なるタイトルシークエンスの機能だけでなくストーリー的バックボーンもあり、チラ見せの連続、サブリミナル、感光、覆い焼き、シェイクと細かく手を入れているあたりも犯人の心象風景っぽい。
タイトルすら見逃しちゃうくらいタイトル表記も小さくサラッと通り過ぎてしまう。これを観た当時、その異様さに一気に引き込まれた記憶がある。
今でこそ凝ったOP、EDは一般的になったが、1996年の公開当時(学校サボって観に行った)こんなタイトルシークエンス観たことがなかったので度肝を抜かれた。

カイル・クーパー氏曰く

以下は、モーションデザインて何なのか?カイル・クーパー氏曰く

乱暴にまとめると、モーションデザインとはグラフィックデザインに動きを与えたものだ。そして、その世界的な源流がハリウッド映画やインディーズ映画のタイトルシークエンスから生まれてきたという点において、キャラクターを動かすアニメーション業界とはデザイン思考を異にする。

カイル・クーパー談

とのこと。

モーショングラフィックスと呼ばれたものに近いが、ちょっと違うのが分かるだろうか?
「グラフィックデザインに動きを与えたもの」って点では同じだけど、ここで言う「動き」は目的ではない。だからタイポグラフィーが全く動かないケースもある。
その源流が「映画のタイトルシークエンスから生まれた」とあるので「SEVEN」で分かる通りそれ自体が映画に含まれる。
だからそれぞれの映画のコンセプトに合わせて、被写体、音楽、タイポグラフィー、レイアウト、動きのテンポ感も含めそれぞて独自の表現をしている。
カイルクーパー作品の中でも個人的に好きなものをいくつかご紹介。

D.N.A.

H・G・ウェルズ『ドクター・モローの島』3度目の映画化作品。
ドクター・モローの遺伝子操作により作られた獣人が…
(っていう雑な説明で済ます)という設定的な背景をタイポグラフィーで魅せる。
特にタイトルの部分が分かりやすい。
色んな獣の瞳をバックに書体から枝分かれするように断片的に別の書体に切り替わったり重なったり、崩れたり…遺伝子操作によって別物に変化して最終的に散り散りになって…という映画の内容に沿わせたタイトルの見せ方。
デザイナー目線では、もの凄くイイ!んだけど一般の人には伝わりにくいのだけ悲しい…

Dawn of the Dead

全力疾走のゾンビが飛び膝蹴りしてくるのだけは大嫌いだけど嫌いになりきれない映画。
ニュース映像の断片で感染拡大と世界的なパニックの過程が描かれ、その合間にストローでフゥーってやった感じで吹き飛ばされて消えて行くタイポグラフィー。
最小限の表現で感覚に訴えかけちゃう…もうコレやられちゃったら後続でコレ越えようないじゃん…って極まった表現。

Spide Man2

スパーダーマン(サム・ライミ版)は1~3を手掛けているようだが、中でも2が最高。
前作のあらすじをアレックス・ロスのイラストで見せてしまう贅沢な作り。
コロンビアピクチャーズのCIからの流れは3作とも共通でクモの糸、スパーダーマンのスーツカラーをデザインモチーフにワイプを見せて行くお馴染みのオープニング。
冒頭のCIからダニー・エルフマンの音楽の流れも共通で、ここまで徹底したシリーズOPは他に無いくらい。

Star Trek Discovery

唯一、近年の作品。
ダビンチ、ミケランジェロのスケッチを思わせる紙に描かれた設計図から過去のスタートレックに登場したガジェット達の構造を見せつつ立体化。この世界のテクノロジーの設定をサラッと語っているオープニングシークエンス。
ディスカバリーは、シリーズに初心者も入って来れるように設計されたシナリオということもあり、オープニングシークエンスもスタートレック世界のテクノロジーを振り返りつつココで改めて紹介する内容にもなっている。


意匠の大切さ

一連のカイル・クーパー作品で、それぞれに登場したコンセプトを裏付ける意匠にあたるデザインモチーフが何なのか?見つかっただろうか?

●SEVEN
本編では描かれない犯人の異様な日常と不安定な精神性を表現
D.N.A.
遺伝子操作の過程とその破綻して行く過程タイポグラフィーのみで示唆
Dawn of the Dead
タイポグラフィーが血液に置き換わり、それをさらに一瞬で吹き飛ばすことで、世界で扱われる暴力と命の儚さと表現
Spider Man
3作共通フォーマットでスーツのパターンとそれぞれのテーマカラーでワイプしつつプロットを視覚化
Star Trek Discovery
設計図、架空のテクノロジーを再考察し、過去作を知らない人にも Star Trek 世界観設定の厚みと歴史を明示する

それぞれのタイトルにおいて、そのコンセプトを示すのに最適なデザインモチーフが何か?を時間軸と動きを伴う演出含めて選定されている。
デザインをより飲み込みやすく、映画表現に馴染ませつつも必要最低限の情報を伝えるために意匠はシンプルな程ストレートに突き刺さる。
適切な意匠選定こそ、ど頭から最短でデザインコンセプトを伝える手段、かつグラフィック、サウンドデザインの一貫性を持たせる役割りを担っている。
料理に例えると、その料理のジャンルを決定付ける ”出汁” のようなもの。
コンセプトに裏打ちされたデザインの意匠は、その出汁の ”旨み” というよりは ”香り” のような役割り。
視覚的なものなのに ”香り” とはピンと来ないかもしれないが、自分はそう考えている。
"旨み" 自体はデザインよりは、作品そのものの面白さや魅力そのもの。デザインの役割りは、それを取り巻く "香り" なんじゃないか?と。

本当に美味しいお店は、その店の料理を食べずとも店から漂う "香り" だけですでに美味しかったりする。
そんなフレーバーとして作品全体への香り付け、その香りにつられてフラッとお店に入っちゃうような引力にもなってくれるのがコンセプトなのかな?と思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?