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暖かくて悲しい 〜「ぼくの名前はズッキーニ」感想〜

 自分、ストップモーションアニメが大好きなんですよね。この「ぼくの名前はズッキーニ」はフランスの作品で、日本語吹き替えは2018年に公開されたのですが、ストップモーションアニメらしいと聞いて見たい見たいと思ってきてようやっと観られました。

 この記事は映画「ぼくの名前はズッキーニ」の感想です。ネタバレをガッツリ含みますので未見の方はご注意を。

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かわいい見た目でストーリーはゲロ重

 簡単なあらすじとしては主人公のズッキーニが母親の死をきっかけに孤児院で暮らすことになり、そこで出会った子供たちとの触れ合いや周りの大人との出来事の話といったところです。根本の構成としてはとてもシンプルですが、ここに出てくる子供達を取り巻く環境がまあ重い。主人公のズッキーニもまず父親は不倫して別の女性の元に行ってしまったため母親と二人暮らしをしており、さらにその母親も酒浸りで日常的にズッキーニを怒鳴ったり暴力やふるったりしていた模様。そもそもズッキーニという名前は彼の本名ではなく母親からのあだ名なのですが、原語でズッキーニを意味する言葉には侮蔑のニュアンスも含まれているようで、母親も愛着からそう呼んでいたとは言い難い… けれどズッキーニ自身は母親を愛しており、また母親からの愛を信じたいためなのか、孤児院に来てからも「ズッキーニ」という呼称を周りに使ってもらったり、母親の飲んだ酒の空き缶を思い出の品として大事に持っていたりするのがなんとも悲しい。孤児院にいる他の子供たちも親が精神を病んでいたり、刑務所にいたり、虐待を行ってた等ののっぴきならない理由で親と離れて暮らさざるを得ないのです。作中ではっきりとあの子はこういう理由で孤児院に来たんだと説明がされていくシーンがあるのですが、こう淡々と五人分のゲロ重事情が語られていく様に胃がキリキリしましたよ… ある程度表現がまろやかにされているところもありましたが、人によってPDSDものじゃないかこれ…

 色彩鮮やかで可愛らしくてデフォルメされたキャラクターたちですが、目が落ち窪んでいたり大きなくまがあったり傷跡があったりというデザインにどこか内包された闇も感じます。

 孤児院の先生たちは基本的に子供たちに対して優しくまともに世話をしてくれますが、ちょっとした時の困ったなーって空気感が妙にリアルで生々しかったです。対子供の仕事って判断が難しいことよくありますよね… ズッキーニのことを気にかけてくれる刑事さんも作中では穏やかでズッキーニのことをよく考えてくれていますが、息子の写真を見て「世の中には親を捨てる子供もいるんだ」という発言から刑事さん自身の家族関係にもなんらかの不和があって揉めたことがあるんじゃなかろうかと感じました。登場する比較的まともな大人たちもはっきりと説教臭く何かいうことはなくてもその胸の内の葛藤や苦難が滲み出る瞬間があって素晴らしかったです。

 子供たちがセックスについてふわふわとした認識の中で話をする件があって、身近にいる大人の男女であるはずの両親が不仲で家庭崩壊してたような子供って親の例があてにならないから、男女の関係で愛を育む段階づけを学ぶにもラグがあって変な形で暴走するんじゃないかと思ってしまい、ズッキーニかカミーユに恋したところで不安になってしまいましたが、美しく穏やかに距離を詰めていく展開で安心しました。孤児院でのシモンをはじめとした子供たちとの関わり合いの中で、ズッキーニ自身の心の整理がついていき、母親の酒缶を船に作り替えてプレゼントとしてカミーユに渡すところで彼が「母親からの愛を信じていないといけない」といった呪縛から解き放たれつつあるんだな…とほっとしました。

 ラストはズッキーニの「自分たちは孤児院のみんなのことを忘れてない(愛している)」という手紙から、孤児院で子供たちが生まれたばかりの先生の赤ちゃんを囲んで「この子は自分たちに欠点があっても自分たちのことを覚えていて(愛して)くれるか」と聞き続け、先生は肯定するというシーンで締められます。子供たちが挙げる悪いところは(ブサイク、おまぬけ、臭い、食いしん坊など)本人にはどうしようもない性質のようなものがほとんどで、ここから「愛はその人が優れているから何かができるからなどではなく無条件に与えられるべきもののはずだろう?」という制作からのメッセージを感じます。それと同時に「自分がダメな奴だと愛されないじゃないか」と思ってしまう孤児院の子供たちのそう思わざるを得ない境遇に対する物悲しさで涙が出ました。

 テーマしてはかなり重く、生々しい描写もあるのに、優しく丁寧な展開と希望を持てるようなラストで後味は悪くなかったです。ただしところどころ物悲しくなる。一本の作品として綺麗に纏まっていて、評価が高いのも頷ける内容でした。

 あの子たちに幸あらんことを。


 それではこの記事は終わりです。

 ここまで読んでくださりありがとうございました!!


 




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