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中編小説第八回 東京少年少女 ワンピース

 そうこうしているうちに夏休みを迎えた。ある日美咲は父親が買ってくれたワンピースに袖を通した。敏感な肌を心配した父親が選んだコットン100%のAラインワンピース。オフホワイトの生地に赤と青の縦縞、横縞が描かれている。足元は焦げ茶のサンダル。そうして待ち合わせ場所に行くと久恵から「可愛いワンピース」と褒められ「どこのどこの」ときかれ「父親が買ってくれたんだ」と応えると「美咲のお父さん本当に優しいね」と羨ましがられたのだった。そう。本当に私のお父さんは優しい人なんだ。

 その日は久恵と吹奏楽のコンサートを市民会館に聴きに来たのである。音楽室に長らくポスターが貼ってあって、しかも手帳を見せれば学割がきくときいて後学のために聴きに来たのだ。果たしてコンサートは素晴らしいものだった。特にあのクラリネットの美しい音色。クラである美咲は完全に魅せられていた。

 家が全く逆方向なので久恵とは会館で別れていつものように商店街を歩いていると、「杉村さん!」と呼び止められる。「この声はまさか」と思って振り返ると仁科透であった。

 透は「今日は今からバイトなんだ」と言うと、美咲の方をじっとみて「何だか今日の杉村さんいいじゃん。可愛い」と一言。かっ、かわいい!?私は全身の血が一気に沸騰するのを感じた。確かに今日はコンサートだからと多少気張ってはきたものの、この年頃の男の子ってこうも躊躇なく女の子に「可愛い」なんていうものなのだろうか。透くんて案外女の子慣れしてるチャラい人?呆然としている私に透は「じゃあバイトだからまた学校で」と足早にかけていったのである。


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