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仮面ライダー2号とキカイダー01|作品の世界観と「第二の男」【ネタバレ注意】



※以前書いた記事からの続き


◇一文字隼人・仮面ライダー2号

 中学生くらいの頃、それまで仮面ライダーは全く無知だったが『仮面ライダーSPIRITS』1巻を買った。当然のことテレビ版本編も観ていなかったが、一番好きになったライダーは一文字隼人・仮面ライダー2号だった。

 エンディングで流れた「ロンリー・仮面ライダー」のように、人知れず孤独に戦うヒーローが良いという方ももちろんいるだろう。しかしながら2号編以降の滝和也や一文字隼人という仲間がいるからこその安心感、ダブルライダーが揃う盛り上がりもあるのだと思っている。

 今回の『シン・仮面ライダー』は、あくまで自分はオリジナル版とは別物というスタンスだが、彼の明るいキャラクターそのままで登場して再注目されたことが嬉しく思った。

 初代『仮面ライダー』の一文字隼人は、番組のテコ入れや藤岡弘の事故などの都合が重なって生まれた…としてしまえばそれまでだが、人物像を深掘りして見ると本郷猛との対比が面白いと思う。

 一文字隼人・仮面ライダー2号「第二の男」という物語上の役割について、『仮面ライダー』の後に作られた石ノ森ヒーロー『人造人間キカイダー』イチロー・キカイダー01との共通点から考えてみたい。


◇イチロー・キカイダー01

 『キカイダー01』は作品としては『人造人間キカイダー』とそのまま地続きで、テレビ版では次番組、漫画版では後半(4〜6巻)の内容である。
 そこで本題に入る前に、まず比較のために前作から登場するジロー・キカイダーサブロー・ハカイダーから語っていく。

○ジロー・キカイダー

 『人造人間キカイダー』のストーリーは、作中でピノキオの物語に例えられていた。
 変身したジロー・キカイダーの歪な見た目は「良心回路」が不完全なまま生まれたためであり、木の人形であったピノキオが善い行いをして最後に人間の子供として生まれ変わったように「不完全な良心回路を完全なものに成長させることこそ人間に近づくこと」、それが最終的な目標のひとつに位置付けられた。

 その中でキカイダーは、良心回路が不完全であるために暴走したり、同じ人造人間(ダークロボット)と戦ったりすることに苦悩しながら正義の心を成長させていくわけだ。


○サブロー・ハカイダー

 対して登場するのが、キカイダーを破壊するために作られた悪のロボット、サブロー・ハカイダーである。ハカイダーには、ロボットたちの生みの親・光明寺博士の脳を組み込まれているためにキカイダーは手出しできず、さらに口笛で「悪魔の笛」の音色を吹いてキカイダーを暴走させる。
 キカイダーにとっては弟でもあり、父でもあり、最大の敵であった。

 テレビ版では、キカイダーを他のダークロボットに倒されたことで自分の存在意義を問い、自分を生んだ人間(光明寺博士)へと怒りを向かる姿が描かれた。
 漫画版では、暴走したキカイダーが光明寺博士の娘・ミツコを殺すように仕向けたのち、アジトに連れ帰った。しかし、キカイダーは暴走しながらも良心回路の働き掛けで無意識に手加減したためにミツコは死んでいなかった。そして、同じようにハカイダーも組み込まれた光明寺博士の深層心理によってキカイダーを破壊できなかった、というロボットながら人間らしい心の葛藤が描かれた。

 どちらも、キカイダーと対照的に悪の心を持って生まれた苦悩が描かれた、印象的な悪役だった。


○イチロー・キカイダー01

 ダーク壊滅の後に登場したのが、試作型として作られたキカイダーの兄にあたるイチロー・キカイダー01だった。テレビ版と漫画版で性格が異なるのだが、ここでは漫画版について語りたい。

 これまで、先のキカイダーやハカイダーに見られるように『キカイダー』の物語は、二極化した善悪の視点からその苦悩を描いていた。
 しかし、試作型であるキカイダー01は良心回路を持たないため善悪の区別がない。キカイダーの苦悩に対して、別の視点から疑問を投げかけるのだ。

「…お前の神経がこまかいのは…おれのずっとあとにいろいろと改良をくわえてつくったからだろうが…
…しかしそいつァ考えもんだぜ
物事はなんでも単純なほうがいいんだ!!
人間をみてみなよ…やたら複雑になりすぎて収拾がつかなくなってらあ!!」

「でもにいさん…にいさんにはついていないけど「良心回路」は必要なものなんだと………」

「バッキャロ!そんなもんがついてるからよけいなことまで悩んじまうんだ!!
それにだいたい……そいつは人間がおのれにつごうがいいようにつけたんじゃねえか!!
…自分たちは持っちゃいねえくせによ!!
わるいことをするのは人間だけだぜ!!
…ロボットはただ…命じられたとおりに動いているだけなんだ
…もっともそうやって動いていたほうが…責任は人間にあるんだから……ロボットにはしあわせなんだけどな!!」

石ノ森章太郎『人造人間キカイダー 4巻(サンデー・コミックス)』.1973.小学館.207-208頁

 さらに言ってしまえば、「不完全な良心回路を完全なものに成長させることこそ人間に近づくこと」というピノキオになぞらえた『人造人間キカイダー』の根本的な部分に、「そもそも善悪とは人間の都合じゃないか?」「ロボットは命じられたとおり動いていた方が幸せだ」と投げかけた。
 つまり、これが「ピノキオは人間になって本当に幸せになれたのだろうか…?」というあの衝撃的なラストに繋がるわけだ。
 最終話からこの場面を読み返してみると「この段階でラストを想定していたのか?」と思ってしまうし、そうなるとキカイダー01の存在は必要だったのだ。

 キカイダー01が生まれたのは、おそらくテレビ版の都合上、新番組として新たな主人公が必要だったからということだと思う。しかし、それが漫画版の展開を思わぬ方向に向かわせることになった。


◇”シン”一文字隼人・仮面ライダー2号

 『シン・仮面ライダー』では、ショッカーの洗脳を受けながらも我を貫く精神力の強い人物として描かれていた。
 テレビ版で初登場した第14話のオマージュが多く、主要人物のほとんどが性格や立場が変わっているなかで、基本的にはオリジナルに即している。

 当初はショッカーの洗脳を受けた第2バッタオーグとして本郷ライダーと戦った。ショッカーは、偽りの幸せで悲しみを覆うような方法で洗脳を行った。ここで思い出すのは、キカイダー01の言った「ロボットは命じられたとおり動いていた方が幸せだ」という台詞
 キカイダーの漫画では、ロボットを指す言葉として悲しみを抱えながらも人間に近づこうとする「人造人間」、あるいは自我を持たない文字通りの「機械人形」と書かれることがある。
 一文字の過去は語られないものの、この時点では後者の”命じられたとおり動いていた方が幸せ”な「機械人形」に近かったのかもしれない。そういった意味でも当初の一文字とキカイダー01は似ているのかもしれない。

 物語前半では”緑川博士と本郷”、”緑川博士とルリ子”、”ルリ子とヒロミ”そして”本郷とルリ子”と関係が物語の軸に見られた。
 これはオリジナルのテレビ版でいえば、本郷猛と友人であった早瀬五郎が怪人となった第3話『怪人さそり男』のように、クモオーグ(博士の仇)ハチオーグ(ルリ子の友人)チョウオーグ(ルリ子の兄)と、改造人間同士の戦い以上に”因縁のある人物と戦うがゆえの葛藤”があったのだ。

 後半で洗脳が解けた一文字が仲間になり、ルリ子が物語からフェードアウトしたことでその因縁と葛藤は薄れ、ダブルライダーが揃ったヒーローらしさの方が大きくなる。ルリ子とは別の信頼関係があり、オリジナルと同じダブルライダーの安心感があった。
 一文字の登場以降で、心なしか作品の雰囲気も変わっているような気がする。前半は非情な人物のように見えた組織の男(立花)が、本郷に助言を与える所なんかもそうだ。

 つまりはキカイダー01と同じく、一文字はそれまでと別方向から作品の価値観に切り込むような存在で、『シン・仮面ライダー』では彼の登場以降はどこか爽やかな印象を与えたのだと感じた。

 一文字隼人・仮面ライダー2号にしろ、イチロー・キカイダー01にしろ、当初は登場する予定のなかったはずだった。そして彼らは「第二の男」として、苦悩する主人公と対照的な明るい性格を以て俯瞰的な視点から作品の価値観を捉えることができる存在だった。
 それが作品として成功した理由なのだと思う。

 しかしこうして考えると面白いのは、前者は『仮面ライダー』を明るい作風に、後者は『人造人間キカイダー』を結果的に暗い展開に、と物語上の立ち位置が同じ二人が作品を正反対に導いたことだ。


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