見出し画像

日記のようななにか 2023/9/11~9/20

「日記のようななにか」というシリーズを始めてみた。基本的にはその日の出来事や考えたことを書く「日記」に似ているが、積極的にうそや妄想を盛り込んでいくことで別の世界と繋げている。本当のことしかかかない日もある。だから「ようななにか」なのである。

2023年9月11日

旅から帰る日はお土産をえらぶ。街には旅人に選んでもらおうと土産物屋がずらっと並んでいる。

この土産物ストリートはどこまで続いているのだろうか。突き当りまで来てもまた曲がった先に土産物屋が続き、どこも個性的で良いものを売っているように見えた。

「これはいいものだ。買って帰ろう。しかし……」私には決心できない。この次の角にも土産物屋があり、そこでこそ最高の土産が買えるかもしれないのだから。予算にも持てる量にも限りがある。

まだだ。もう少し見て回ろう。他に見つけることが出来なかったらもう一度ここに来ればいいだけじゃないか。そう自分に言い聞かせながら店をめぐってほしいものを探す。そうしているうちに時間も足りなくなり、結局「せめてこれだけは」と手に取った「概念としての土産物」を買って帰ることになるのだ。土地の名前が書いてあり、見るたび思い出せるようなものがふさわしい。いっそ木の板でも構わない。300円で買う。この木の板を見るたびに私は旅のことを思い出せるのだから。

2023年9月12日

なにもわいてこない一日だった。すっかり空っぽになってしまった。

いやむしろ「詰め込まれすぎて隙間がない」という表現のほうが正しいかもしれない。頭も心もここ数日の楽しかったことを思い出していっぱいになっており、それらがざわざわと私の中を跳ね回っているうちはなかなか気持ちも落ち着かないだろう。

これもいつか沈殿して、また静かな空間に泡のように私の想像力がわいてくるだろうから。
それまではこのざわめきやきらめきを眺めて楽しもうか、季節外れのスノードームみたいにね。

2023年9月13日

洗濯をした。

衣類を詰め込みすぎると破けたり引き裂かれたりすることがわかってきたので、本当は控えめに詰め込みたいが、さすがにたまりすぎていたので一気にたくさん詰め込んだ。

脱水が終わって取り出してみると、今日は何もちぎれていなかったが下着の中身が全部飛び出していた。確かに取り外せるパーツだが自然に飛び出るものではないと思うので、一体何が洗濯機の中で起こっているのだろうか。

洗濯機の中をのぞくとカニがいた。「おかしいな、この機種は……というか洗濯機は通常タコのはずでは? タコドラム方式を買ったはずだ」カニは私が覗いていることなどお構いなしにはさみを振っている。あのはさみが私の服をちぎったり、ブラのパッドを引きずり出したりしているのか……

最初は憎らしいと思ったが、よく見るとくるくる回る目がかわいいし、たまになにか食べるようなしぐさをするのも、器用に横向きに歩くのもかわいいと感じた。我が家の洗濯機にカニが住むことを許そうと思う。

2023年9月14日

夕方は買い物に出かけた。安い肉を見かけて、買うつもりじゃなかったのに買ってしまった。
他に安い野菜などを買ってスーパーを出る。

スーパーのそばには川があって、その電線にはハトがたくさんとまっている。ハトにとってはだいぶ薄暗くなった時間だが、彼らはエサを期待しているのだろう。河原にエサをまく人が現れるのだ。

近くの公園には鳩の名前がついていて、ボスのような大きな鳩の滑り台もある。私はボスに挨拶をしに行った。ボスは近年色を塗り替えられたのだが、また少し劣化しているように見えた。くちばしの先は折れてしまっている。

鳩の名前が付いた橋には鳩の飾りがついているし、小学校も鳩だ。いずれスーパーも鳩になり、電線も鳩になるだろう。川も鳩になったら月のことを鳩と呼ぶ日も近いかもしれないと考えながら家路を急いだ。肉が傷む前に帰らなくては。

2023年9月15日

雨の予感に洗濯物を取り込んだ。ベランダには強めの風が吹き込んできていて、いかにも雨が降りそうだった。

すぐに雷が鳴って強い雨が降り出した。洗濯物を取り込んであるのだから何も不安に感じることはない。停電もないだろう。

ところで雲の上で雷様が太鼓をたたいていることは世界的に知られているが、実はそれと雷は関係がない。雷様が太鼓をたたいてもそれほど大きな音も出ず、光も出ないのだ。しかし雷雲の上で踊りながら太鼓をたたいている雷様の姿はあまりにもできすぎていて、そこには観測した人間に雷と雷様の関連性を想起させるぐらいのわかりやすいストーリーがあった。

では今日雷様と呼ばれるようになったあの生き物はなんだろうか?空で何をしているのか?太鼓をたたくしぐさは何なのか?研究はいまだ進んでいないのである。

2023年9月16日

空っぽになっていくきもち。いろいろな要素が私から抜け出て行って、すっきりなくなったところで、あとはしぼむだけのような気持になっているここ数日。抜け殻からさらに空気が抜けているのだ。

どうこうできる気はしないが、自分がいま終わったらちょうどいいのに。使い切って、マイナスになる前のゼロの私はちょうどいい。考え事の隙間に吹き込む風が障る。

タイムラインを眺めていると自分が作っているものにも自信がなくなってくる。私はこの良い素材を生かして価値を付加するちからを持っていないような気すらする。素材に直接語りかけてみる、私が料理することで新しい価値を生み出してひとを喜ばせることができますか?

すると素材は「あんた誰?」と言うので笑ってしまった。空っぽの私になにか流れ込んでくる。私を知ってもらいましょう、素材の良さを伝えながら私の腕も伝えられる作品を作ればよいのだ。

2023年9月17日

今日は文房具オンリーイベントに参加。文房具の情報を売る人間として店を出した。

文房具の情報いらんかね。
道行く人に声をかけていたら、一人が立ち止まった。
「もしかして文房具のことを教えてくれるのですか」
「そうだよ。文房具の来し方行く末、なんでもこのカードで教えてあげるよ」
「教えてください。文房具はこの後どうなるのですか……」
「1000円」

1000円を受け取って、ジャラジャラと鉛筆をこすり、消しゴムのかすのよれぐあいを見て、ノートのページをさささーーっとめくってカードを並べた。
「文房具は真面目で口下手なので誤解されがちだが、ていねいに説明すればわかってもらえる。言葉を尽くして文房具の良さをひとに伝えていくのだ。そうすれば余すところなく魅力を伝えられるだろう」

このようなことをみんなに行って、30回文房具占いをした結果、30000円を手にすることができた。

2023年9月18日

今日はスーパーで見つけた生すじこをほぐした。これはマストドンを始めてからしった、秋のお楽しみだ。
旬の生すじこを買ってくる。そしてやさしくほぐして、出汁しょうゆにつけることでおいしいイクラをいくらでもつくることができるのだ。

普段はとても面倒がり屋の私だけど、年に1~2回のこの作業は楽しみにしている。苦労の後に待っている結果がとても良いものだからだ。

しかし生すじこは見れば見るほど「臓器」であり、なまなましさがある。これを木の実程度の親しみやすさにするのが「イクラ化作業」である。丁寧にイクラ化作業をしたため、いくらかマシになった。

2023年9月19日

一日中、なんだかいらいらして落ち着かなかった。誰かと話をしたら少し気が紛れるかもしれないと思って、壁に設置されたボックスから通信機を取り出し、交換手に「ボックスYSDVCにつないでくれ」と依頼した。

数時間後ボックスYSDVCから応答があり、SMJ氏とCC氏の二人と会話することができた。

好きな漫画の話を小一時間すると、すっかり私の気持ちは晴れていた。SMJ氏は将来に向けて勉強中だという。いまはまだ何がしたいかわからないので、それが見つかるまでの間仕事をするための勉強だという。偉いなあ。

ボックスに通信機を戻し、ダイヤル設定も待機に戻してから私も作業ファイルを開いた。私は私のやりたいことがあるのだから、それをやろうと改めて思った。

2023年9月20日

最近散歩に行かない。
日中暑いせいもあるが、家でやりたい作業も多いし、常にインターネットを見ていたいので外に出るタイミングを逃している。

近所を散歩するために家を出た。アーケード付き商店街で買い物をしていると、急に雨が降り始めた。かなりまとまった量の雨が降っている。長い時間は降らなそうな予感がして、私は雨宿りがてらゆっくり買い物を続けることにした。

アーケードはところどころ隙間があって、雨が吹き込んでくる場所もある。誰かが置いたさかさまのバケツに雨粒が打ち付ける音も聞こえる。昼のにぎやかな商店街では気にならないだろうが、夜や朝早くの時間帯だったらあの音は遠くまで響きそうだ。

私は集中して、あのバケツをたたく雨音以外の音を排除してしばらく聞いていた。トントントントントン……まだみんな寝ている時間、二人きりになりたい音だった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?