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どうか、明日も

思い出すだけで心が温かくなり、胸いっぱいになる。
一生忘れられない、大切な思い出がある。


大学の卒業旅行で友人とフランスを訪れた。子供の頃から大好きなフランスだ。

ちょうどその頃、ヨーロッパの情勢が不安定で、女性だけの二人旅は…と家族から心配された。けれど、心配しながらも、無事を信じて、温かく笑顔で送り出してくれた両親にとても感謝している。


行きたい美術館も、行きたいお花屋さんも、行きたいパン屋さんも、全部全部全部行き尽くすことができた。お土産も購入し、大満足の気持ちのまま、帰りの空港に向かっていた。


2週間分の大きな重たいキャリーケースを抱えて、地下鉄の階段をゆっくりと下りていると、突然男性に声をかけられた。

フランス語だったので何を言っているのか、理解できずにいた。すると、キャリーケースをわたしの手から離すやいなや、ものすごい速さで階段を駆け下り始めた。


あの時の衝撃は今でも忘れられない。


あまりに呆気に取られて言葉が出なかった。

時が止まり、スローモーションになるとは、
まさにこのことだ。本当に時が止まった。


追いかけようにも、足が竦んだ。
少し先の階段にいた友人も非常に驚いていた。

もしかしたら、大切なお土産も洋服も何もかもお別れかもしれない、と頭をよぎった。こんなにも楽しい旅行だったのに。現実を受け止められないまま、友人と一緒に階段を下りた。


人生で一番長い階段だった。


階段の一番下、大きな重たいキャリーケースが、出迎えてくれた。そして、遠くのほうに足早に改札に向かう男性の後ろ姿が見えた。



まさか、助けてくれるなんて。
あんなに大きな重たいキャリーケースを運んでくれるなんて。

見知らぬ外国人のために。


あまりに呆気に取られすぎて、サンキューのサの字も、
メルシーのメの字も、ありがとうのあの字も、一言も声が出なかった。


追いかけて感謝を伝えようにも、既に男性の姿は無かった。


その男性の優しさに、涙が溢れて止まらなかった。
男性のおかげで本当に美しく、本当に楽しく、本当に優しい旅になった。人生の宝物になった。



それ以来、困っている人がいたら、手を差し伸べるようにしている。


優しい男性に直接恩返しはできないけれど、
きっと、きっと、世界中巡り巡って、その男性に届くと信じている。




世界はいつも優しい。きっと優しい。
あなたも、あなたの大切な人も、優しい毎日を過ごせますように。




どうか、明日も優しい1日を。

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